リアルロフト角にこだわりを感じる
GD 今回はテーラーメイドの4代目『P770アイアン』を前モデルと比較しながら分析していただきます。共通の設計方法に「番手毎の重心設計」がされています。このような手法はいつからあったのでしょうか?
松尾 番手別の重心設計自体は40年前からありました。この方法に加えて2代目『P770アイアン』は軟鉄キャビティ構造から、中空構造にシフトチェンジしています。2つの設計方法の組み合わせによってさらなる重心設計が可能になったのだと思います。また中空構造は外観をマッスルバックのようにスマートにできるのもひとつの特徴です。
GD 中空構造と番手毎の重心設計のかけ合わせが『P770シリーズ』の真骨頂というわけですね。ヘッドデータで気になるポイントはありますか?
松尾 はい。リアルロフト、重心深度、ヘッド慣性モーメントに注目しました。
GD リアルロフト角から分析をお願いします。
松尾 前モデルが33.2度、今モデルが32.4度となっています。最近流行りの“飛び系アイアン“のようなストロングロフトでないところに「P770アイアン」の特徴が表れています。ロフトが飛距離に直結する要素なので、飛びを求めるのであれば立たせる設計になります。
しかしフェアウェイのあるがままの状態から打つことが難しく、ボールを上げづらくなります。逆に『P770アイアン』くらいのリアルロフトであれば、アイアン本来の役割である打球の高さで上から狙いやすくなるわけです。
GD 本来は一発の飛びを求める道具ではないからこそ、7番アイアンで33度前後のロフト設定はアイアンらしい機能を発揮してくれるわけですね。重心深度はいかがでしょうか?
松尾 前モデルが2.4ミリとやや浅かったのに対して、今モデルは3.1ミリと標準値になっています。それに関連して芯を外したミスヒットへのやさしさを判断できるヘッドの慣性モーメントは前モデルが2137g・㎠、今モデルが2281g・㎠と大きくなっています。しかし基準値(2600〜2799g・㎠)と比較すると非常に小さいので、ある程度ミートできる技術が必要なアイアンだと思います。
GD では『P770アイアン』はどんなゴルファーにおすすめですか?
松尾 他のヘッドデータで言うとヘッドの操作性が判断できるネック軸回りの慣性モーメント(基準値:5500〜5999g・㎠)が5500g・㎠と抑えられているので、状況に応じてフェードやドローと打ち分けがしやすいです。他にも見た目がマッスルバックのようにコンパクトでアドレスがしやすいところも特徴です。ボールをインテンショナルに操作しながらスコアメイクしたい方は試されるといいでしょう。
フェード系に打てるイメージが湧く
ここからは実測データをもとに凄腕シングルでもある松尾氏にクラブ分析と試打レポートをしてもらいます。試打および計測ヘッドは7番、シャフトは「Dynamic Gold MID115」でフレックスSです。掲載数値はすべて実測値となります。
クラブ長さは7番で36.75インチとやや短いですが、クラブ重さが431.4グラムと「重い」ので、クラブの振りやすさの目安となるクラブ慣性モーメントが272万g・㎠と大きくなっています。
計測数値のみで推察するとドライバーのヘッドスピードが46m/sくらいのゴルファーにとってタイミング良く振りやすくなっています。
ヘッドは前モデルと同様にオーソドックスな形状が継承されながら、前モデルよりも少しフェース長が短くなり、小ぶりなマッスルバックのようなプロモデルヘッドです。アドレスではFP(フェースプログレッション)が大きいストレートネックでシャープなトップラインでスクエア感があり、前モデルよりもソール幅は広くなり、少しディープフェースになっています。
実際に試打したところ、ヘッドはオーソドックスな形状で構えやすく、米国モデルらしくフェースのリーディングエッジが丸くトップラインがストレート系なので、フェース面には逃げ感が出ており、球をつかまえ過ぎないフェード系弾道で打てるイメージが出ています。
試打シャフトがスチール仕様なことからクラブ重量が重い設定になっています。フレックスがSながらも硬くしっかりしているので、パワーのあるゴルファーがダウンブローに打ってもしっかり耐えてくれます。
フェース面は軟鉄よりも硬いクロモリ鋼なので打感は硬く、インパクト音はヘッド内部の充填材で少し抑えられ、フェース面の弾き感はいい感じです。
リアルロフト角が32.4度とやや大きいおかげで、フェアウェイのあるがままの状態からでもボールは上がりやすく、上から狙ってグリーンに止めやすくなっています。
前モデルよりフェースが少し短くなったことでラフからのヘッドの抜けが良くなっています。さらにヘッドの操作性が判断できるネック軸回りの慣性モーメントは標準的です。ダウンスウィングでのヘッドの操作性も良好で、インテンショナルに弾道を操作しやすくなっています。
ヘッドの慣性モーメントは小さく、決して打点ブレにやさしいヘッドではありません。ダウンブローにロフトを立てながらインパクトし、きれいにソールが抜けるアイアンなので良いスウィングを身につけるのにもいいアイアンでしょう。
※週刊ゴルフダイジェスト2024年10月15日号「ヘッドデータは嘘つかない!」より