「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか?その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられていたんですね……。

なぜ『SIM2』の後継モデルをテーラーメイドは作らなかったのか

GD メタルヘッド誕生から現在に至るまでクラブ開発のテーマは、いかにヘッドを大きくしながら余剰重量を生み出し、設計の自由度を高めていくかだったと思います。そのひとつのゴールが、「テーラーメイド」が2020年に出した『SIM2 MAX』じゃないかと思うんです。テーラーメイドのチタンフェース最終モデルといったことからも完成度が高く、いまだに高く評価されています。

長谷部 サイズを大きくすることが当面の目標だったところに460ccという体積のしばりが生まれてからは、チタン素材の製造技術をブラッシュアップするとともに複合化が進んできました。複合化には異種金属を採用することもありましたが、結果的にカーボンが残り、カーボンの使い方を大胆に進化させたのが「テーラーメイド」になります。

「キャロウェイ」は“フォージドカーボン”という技術で、ボディをカーボン化しましたが、「テーラーメイド」はそれ以上の複雑な部分の最適化を進めたので、『SIM2』はそういう意味では複合化の最高峰モデルと言っていいでしょう。『SIM2』を真似しようと思えばできるメーカーもあったと思うんですけど、現状はライバルもあえてそこに行かず、テーラーメイドも『SIM2』の後継を作らず、別のテーマにスイッチしてしまったところがちょっと不思議だなと思っています。

GD 長谷部さんも個人的にマイドライバーとして『SIM2 MAX』を所有していますけど、クラブの専門家からしても魅力あるクラブだったということですか?

長谷部 そうですね。反発性能を若干犠牲にしたとしても、つかまりやすさと方向安定性というところを考えた時に非常に打ちやすかったですし、スピンを減らせることができました。飛距離を伸ばすためには、ロースピン化と、高い打ち出し角が必要なのは言い古されていますけど、その時の自分のスウィングとかパワーに合わせて選んでいく中では、『SIM2 MAX』が自分にはすごく良かったということです。

画像: 余剰重量を生み出した最高峰モデルと言える「SIM2 MAX」。重心設計のベンチマークを作ったドライバーのひとつ

余剰重量を生み出した最高峰モデルと言える「SIM2 MAX」。重心設計のベンチマークを作ったドライバーのひとつ

GD 『SIM2』は、とにかく余剰重量をたくさん生み出した設計の自由度の高いクラブということになっています。ドライバーを設計していく上で、余剰重量を生むのは、まず肉厚を薄くすること。 肉厚を薄くした分、ヘッドが大きくできるっていうような進化の時代があったと思います。設計者はどこから余剰重量を生み出そうとするんですか?

長谷部 ボディの肉厚をコントロールする上では、クラウンが一番薄く作れます、割れない程度で。ソールは一番衝撃を受けてしまうので、ある程度の強度を持たせる必要があるので、ソールを薄くするには限界があります。フェースはもちろん打撃面なので、部分的に薄くすることができたとしても、ある一定のレベルでヘッドスピード50m/s以上の人に対しても対応するために薄さには限界があります。

200グラム前後の重量の中で どこを軽量化できるかといえばクラウンですが、クラウンを軽くすることによって結果的に低重心になるので、それは機能を高めるうえではどちらにしてもメリットがあるのでどこのメーカーも積極的にやってきました。あとは余剰重量を後ろに持ってくるか、あえてソールに持ってくるかで、目指すべきパフォーマンスが変わってきます。

GD 460ccに到達した当初の余剰重量は目標値の何パーセントぐらい出せていたものなんですか?

長谷部 製造技術が目一杯だった時は、ほんとにフェース面をギリギリ薄くすることが精一杯で、たぶん余剰重量は出てなかったと思います。鋳造技術が進化し、量産性が高まることによって、5グラム、10グラムと徐々に増えてきました。初期の460ccの時はまったく余裕はありませんでした。

GD 最初のメタルはフェースが厚いから前重心だったわけじゃないですか。設計者からすれば重心は後ろに持っていったほうがクラブとしてはやさしくなるし、球も上がりやすい。やりたい設計と製造技術が合っていなかったわけですよね。

長谷部 460ccと440ccを並列して商品化していた時によく起こった現象が、460ccより440ccのほうが重心は深いということが起こりました。440ccのボディを460cc並みのボディの厚さで作った場合、余剰重量が生まれ、その重量を後ろに配分することによって、ヘッド体積を大きく作った時よりも440ccのほうが重心は深く作れることがあったぐらいボディの重量と形状のバランスをとるのに非常に苦労した時期があります。

GD 余剰重量を生むために、まずカーボンクラウンができてきて、それからボディの一部にカーボンが入ってきたりしました。フレームというか、骨格は今までのままでも、あらゆるところから、余剰重量を生むために、カーボン素材をはじめとする異種素材が入ってきて、重心をなるべく後ろのほうに持っていこうとしていた。その中で『SIM2』は チタンフェースとアルミのリング以外は全部カーボンというところを見ると、もっとも余剰重量を生み出したのではないでしょうか。

長谷部 アルミのリングという非常に手間がかかるパーツを生み出した発想はすごいなって思いますよね。普通だったらチタンで一体成形したほうが作り手は楽だし、強度の面も担保できるのに、あえて削り出しのアルミを部分的に使いながらやるという発想はなかなか思いつかないんじゃないでしょうか。

GD 『SIM2』が出た時は、慣性モーメントもけっこう注目されていて、大慣性モーメントのものも出ていました。でも『SIM2』は慣性モーメントのことをあんまり言ってなかった。

長谷部 それはやっぱりツアー選手の使用が非常に多い「テーラーメイド」ならでは、だと思うんですけど、大きな慣性モーメントを必要とするプレイヤーがいないので、むしろそれよりも飛ばしのための重心位置として最適なところを抑えておいて、あとは余剰重量をどうしようかなっていうのは後の課題になっていたんじゃないでしょうか。

「テーラーメイド」の余剰重量はフィッティングのためという話をしたことあるんですけど、後ろのウェイトが24グラムから6グラムまで簡単に変えられるパーツを用意していることからも、女性用や長尺のなど軽量ヘッドのフィッティングをひとつのモデルでできるようにしたメリットはあります。

GD 余剰重量が余りすぎるってことはあるんですか?

長谷部 持て余すって言い方がいいのかもしれないですけど、フェアウェイウッドやユーティリティは持て余すというのは1つ言えると思います。

だからうまく考えて作ることをやったとしても、余剰重量があるために重心位置がこれ以上は移動できないところまで攻めた時にはプレイヤーが限られてしまうので、1つのモデルであらゆる人が使えるようにはならない。調整機能を持たない限りは余剰重量が邪魔をしてしまうってことはあります。

GD ゴルファー全員にマッチするものっていうのはなかなかできないということ?

長谷部 できないでしょうね、帯に短し、襷に長しっていうところですけど、 1つのモデルで10人が10人満足することは難しいでしょう。シャフトのフィッティングとか長さだけでもある程度できたとしても難しいでしょう。

ただ、その許容範囲が広いモデルと狭いモデルは確実にあるんです。『SIM2 MAX』は許容範囲が広いと言えると思います。それでも2~3割は取りこぼしてる可能性はあります。でも、7~8割は『SIM2 MAX』でいけるというパフォーマンスがヒットの原因じゃないですかね。

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