「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか?その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられていたんですね……。

トライ&エラーの連続がクラブを進化させてきた

GD この30年間のゴルフクラブの進化は、凄まじいものがありました。大きく変わったのが1990年代に入ってからです。現在、「ある程度完成形まで来た」という声が聞こえるようになってきましたが、30年前に現在の状況を想定していたものなんでしょうか?

長谷部 90年代前半がまさに素材革命と構造革命が毎年のように起きていました。 マッスルバックからキャビティや中空になったりというのが当時技術としてあったんですけど、1回チャレンジしたらやめて、1回出したらひっこめてというメーカーがたくさんありました。

トライ&エラーでもチャンスはある、可能性はある、やってみた、でもダメだった。当時は作ってみて市場の反応を見てよければ続けていくような時代だったと思うんですよ。今ほど発売の前に評価ができる時代でもなかったので、販売イコール評価の時代だったんですよね。

GD 手探りの状態だったんですか?

長谷部 売れれば売れたで欠品してしまうし、売れないと在庫が残ってしまうみたいなことがあったと思います。当時は試打クラブがあまりなかったので、買っていただいたお客様の声がすごく重要で、返ってくるハガキを読み込んでいたりしたこともあるぐらい評価や進化って割と時間がかかったんですけど、いろんなチャレンジもできたんですよね。

素材を変える、構造を変える、メタルウッドになる、カーボンウッドになる。今ある技術のベースは当時も検討がされていて、様々な素材はそこで排除されています。マグネシウムは製造上コントロールが難しいからダメ、ベリリュウムカッパーは硬度が硬いからダメとか。結局、軟鉄系とかステンレス系の素材は今も残っています。結果として見るとあの当時やっていたことが無駄にはなっていないんですけど、じゃあ現場においては次何が起こるかはまったくわからない。

自分のメーカーのことはわかるけども、他のメーカーがどこまで研究開発しているのかはまったくわからない。特許を見た時にびっくりするとか、どこかの大学と共同開発してこんな技術があってびっくりする。だから常に他社の新製品に興味を持って見ていたという感覚はあります。

GD ドライバーの話をするとチタンが出てきた時、これは「魔法の素材」と言われ、でもちょっと価格が高いということがありました。チタンの登場によってヘッドの大型化が見えていたと思うんですが。

長谷部 パーシモンがメタルになった瞬間、実は一瞬ヘッド体積が小さくなっています。ヘッド体積をパーシモン並みに戻すというのがチタンの役割だったように当時は思いました。「ミズノ」が最初に出した時も、従来のパーシモンサイズに設計されていたと思います。その次のチタンが「遠藤製作所」の鍛造チタンでチタンプレートを使った溶接・鍛造技術でした。

GD チタンでも鋳造で作っていたんですか?

長谷部 それをやったのが「ミズノ」で『Ti-110』、『Ti-120』 です。難しいと言われていたチタンの鋳造をミズノが成功させた。遠藤製作所が2年後にチタンフォーム(鋳造)ではないチタンプレートを溶接で作る新しい製法を提案したことによって、大きなヘッドが作れるようになった。

薄いチタンを曲げる高度な技術だったので、肉厚がものすごく薄いわけです。そこでヘッド体積が一気に大きくなったような気がします。「ブリヂストン」の『230チタン』とか『Sヤード250cc』とかが出てきて一気に大型化が進んだような気がします。

その後、鋳造がベースとなってチタンプレートを組み合わせる作り方は消えていくわけなんですけど、鋳造ではなかなか大きくできなかったものが違う作り方が出てきたことで1つのベンチマークというか、目標になってくるんですよね。鋳造でももっと大きくできるんじゃないかと。

GD フレームは鋳造で作って、フェースをはめたり、クラウンをはめたりたりしていますが、ボディの骨格は鋳造で作っている。

長谷部 元々は鋳造ボディのチタンをベースにフェースの高反発化やクラウンなどの複合化が進み、近年では「テーラーメイド」が、カーボンとアルミフレームと、チタンのパーツを組み合わせて複雑になっています。そういう作り方まで進化するとは当時予想できたかっていえば、できなかったですよね。

GD 当時、わかっていたことってなんだったんですか? パーシモンは自然素材だけに同じものが2つとないから、1つの個体がすごく大事にされたじゃないですか。この個体は飛ぶ、この個体は飛ばない。モデル名こそ同じであっても木目の違い、部材の違いで、このドライバーは飛びます、これは飛ばないということがありました。

それってもう数値ではないじゃないですか。それがメタル、チタンになって工業製品になって同じものが作れるようになったことで、クラブはこう作るべきだよねっていうものが出てくると思うんですけど。

長谷部 木目の話はアイアン削りのヘアラインの向きと同じような話で、見える人には見えている世界。工芸品としてゴルフクラブの美しさ、パーシモンの研磨技術の高い沼沢雄二さんのような職人が生み出したクラブの世界だった思うんですけど、そこから同じものをたくさん作れる鋳造ウッドが主流になってきた時、製品の美しさというよりも、総重量とか、ロフト角度とか、別のスペックにどんどん興味が向くようになったと思うんですよ。

自分がその当時一番意識していたのは、クラブの重量とバランス、長さも長くなっていくことによって劇的に変わるというのを体感しましたし、ヘッドの素材よりもそっちに頭のほうは行っていましたね。フィッティングをする際のシャフトを変えることや、長さやロフトを変えることによってプロの評価が変わったりすることを間近で見ていたので、そういったことがどんどん進むのかなって思っていました。

GD ドライバー機能にはいくつかのターニングポイントがあって、最初に来たのが「高反発」でした。その次が「低重心」で、さらに「深重心」が入ってきました。この流れは想定していなかった?

長谷部 高反発から低重心に主眼が置かれるようになったのは、高反発を狙いすぎた結果、フェースが割れたり設計の限界とか、複合的な理由があって、初速制限があるなかで飛ばすために低重心化で弾道の最適化が検討されます。打ち出し方を高くしてスピンを減らせば飛ばせるという理想がボールの世界では当たり前のようにあったことが、クラブに生かされるようになってきたと思います。

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