アメリカ4社には開発力、ストックの余裕を感じる
GD 今の現行のルールの中では、やっぱりクラブの進化はある程度行き着いているように感じます。
長谷部 今のところ新素材らしい話も出てこないですし、カーボンも結局フェースに使うのがどこまで広がるか。「ヤマハ」が今回『インプレス ドライブスター ドライバー』でカーボンフェースを発売しました。果たして評価はどうなのか興味を持って見ていますけど、なかなかね、一般化するのかっていうと、そうも見えない。
「じゃあ重心設計はどうなの?」って、以前にここで議論しましたけど、「SIM2」の重心位置でいいじゃんってことになって、タイトリスト『GT2』がそれに非常に近い数値を出してきたと、振りやすさも一定のとこでほぼほぼ定まってきているとなると、もうブランディングだとか、デザインだとか、クラブの性能とは違う要素でアマチュアゴルファーに興味を持ってもらうしかなくなっていますね。
GD フィッティングにメーカーは注力して、自社製品を使ってもらおうという方向に行くということ?
長谷部 ゴルフショップの形態がウッドコーナー、アイアンコーナーという分け方をせずに、ブランドコーナーを作るようになってきています。インショップ型のレイアウトですね。「このブランドが欲しい人には品揃えをよくしていますよ」という売り方をするようになりました。
テーラーメイドが好きな人は、テーラーメイドがたくさんありますよ。ピンが好きな人にはピンがありますよ。この中から選んでください。間口を狭めるところから入って、この中から最適なものを選びましょう。でも、「テーラーメイドもキャロウェイもピンも打ちました。さて、どれがいいんだろう?」ってなりがちです。
GD シンパを作っているってことですよね。
長谷部 メーカーも販売店も、なんとかファンじゃないけど、嗜好に合わせてブランドに寄せて行くようにお客様をカテゴライズしていかないと、売りづらくなってきたのかもしれませ
ん。
GD マニア化とかファン化は、クラブの進化とは違う話ですけどね。
長谷部 製品差が分かりづらくなっている現状ではブランディング、マーケティングというところが、かなり重要視されていることになります。外ブラの先行するマーケティング重視戦略を追わず独自理論で物作りだけ頑張っている日本のメーカーは、今の販売の現場からは取り残されてしまうような気がします。
GD 実際にクラブそのものの性能は、日米でそう変わるものではないわけですよね?
長谷部 変わらないと思いますけど……。
GD 我々がなんだかんだ言っているほど差はないような気がします。
長谷部 そうは言ってもドライバーに関して言うと、やっぱり圧倒的な生産量の違いから来るコストの違い、研究開発費のかけ方の違いがあるので、どこが優位か、可能性があるのかって言ったら、アメリカ4社にはまだ余裕があるような気がします。次も何か違うモノが出てくる匂いを感じますし、余裕で何か仕込まれている気がします。
GD 日本のメーカーも昔の「ツアーステージ」とかってワクワク感があったじゃないですか。日本のメーカーってそういうのが下手なのか、できてないのか、資金力なのか、いろんな意味で外ブラのほうが上手い。
長谷部 圧倒的な生産量を背景に、製造拠点の確保も早いですし、海外から入ってくる情報に対して日本人が素直に反応するようになった変化もあると思いますけどね。
GD 日本のメーカーは国内が主要マーケットですが、アメリカのメーカーはヨーロッパ、アジア、オセアニアもあるし、世界全部を相手にしている。
長谷部 ナンバーワンの米国国内の市場を持っているわけじゃないですか。日本の市場の倍ぐらいあるわけだから、そこで戦っているメーカーなので、日本のランキングとは若干違いますけど、日本の市場だけを見たモノづくりと、全世界を見たモノづくりでは、ちょっとスタンスが違うのかなという気がします。開発の余裕もネタもストックも違うので、次にテーラーメイドがいつチタンフェースに戻してくるのかが興味あります。
GD 来年2025年に向けて、何かが起こるよう気もしないし、このまま完全熟成期に入っていってしまうんでしょうか?
長谷部 「キャロウェイ」だったら次にフルカーボンを出すんじゃないかって、そういう期待をするわけですよ。やってやれないことはないだろうな、彼らならって思ったりする。そういう勝手な想像ができるぐらい今の製品に対する新規性の魅力がありますよね。
だけど、日本のメーカーはちょっと後追いのような見え方になっています。「ブリヂストン」も早くからモノコックボディのカーボンウッドを作っていたわけですからできない訳はないです。
GD 2028年1月からボールが変わると言われていますが、これによるギアチェンジは起こりそうですか?糸巻きから2ピースボールに変わった時は、メタルが同時期に登場しましたが。
長谷部 メタルのフィーリングの悪さも、ボールがそもそも固くなったんだから、糸巻きのようなソフトなフィーリングを諦めたっていう言い方もできますよね。結局、フィーリングとか感覚みたいなことは、飛距離に全部打ち消されてしまうところがあります。
今はボールも熟成されてフィーリングがいい、なおかつ初速が出るという物もある中で、初速を落としていいんだったらフィーリングを良くするってことになれば、ヘッドのほうも何かできるよねってなったりするかもしれない。
そういった考え方の違いがフィーリングを中心に変わってくる可能性があるとすると、今まで使えなかった素材を使ってみようとか、構造をやってみようとか、あり得るということですよね。
GD 可能性を残している素材って存在する?アイアンだと、軟鉄、ステンレスしかなかったのが、マレージングとか素材が増えたじゃないですか。アイアン素材がドライバーのほうに来る可能性もある?
長谷部 軟鉄のドライバーってないんです。比重の重い素材はドライバーでは使えなくて、加重するためのタングステンとか、複合材しかこれまでは使ってこなかったんです。でも、発想の転換でバランスの配分を変えるとこういう効果があるということが立証されれば、構造が一気に変わる可能性もあるし、インパクトのシミュレーションの考え方が変われば、ボールが変わることでクラブも大きく変わることが期待できます。
今はとにかくボールが当たった瞬間にちょっと上を向いてくれる低重心設計でロースピンで飛ばしましょうみたいなインパクトの理想像があるとすると、それは最低限達成されているので、ボールの初速制限によってインパクトシミュレーションのデータが変わるのであれば、そこに対する考え方も変わるかもしれないですよね。
GD ゴルフの長い歴史を振り返ってみれば、ボールの変化によるクラブの進化って常に起こっています。
長谷部 起こっています。
GD それが直近で起こったのは、糸巻きからツーピースで……。
長谷部 それとウレタンカバーですよね。ウレタンカバーの登場でスピン性能が上がったから、ソリッドボールが主役になって糸巻きが負けて消えていった。
GD ゴルフの進化ってボールとすごく密接な関係にあって、結果的にボールがどこまで飛ぶのか、ボールがどうコントロールされるのかって話になるから、それを操作するクラブがどうあるべきなのかって考えられるようになる。クラブの進化っていうのは、ボールが出発点になってくるっていうことですかね。
長谷部 そうなっていると言ってもおかしくないし、そこに対応できたメーカーが最終的には強い。ボール主体でクラブを作っているメーカーは限られていますが、そっちのほうがたぶん先行する可能性はある。
「タイトリスト」、「ブリヂストン」、住友ゴムはボール主体のメーカーですし、クラブ主体の「テーラーメイド」も「キャロウェイ」もボールを作っていますので、そこはキャッチアップしてくると思うんですけど、その他、「ピン」とかボールを主体として作ってないブランドはちょっと遅れるかもしれませんね。
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