見た目のデザインは違っても、中身のスペックはほぼ同じ
GD ゴルフのクラブは物理じゃないですか。物理だから数式である程度答えて出せる。2000年頃、そこにCADが導入されたことによって、コンピューター画面である程度の弾道が描けるようになってきました。
長谷部 インパクトシミュレーションはボールの世界ではかなり早くからやっていたと思います。それがクラブを変えるとこまでは1990年代には十分に行ってなかったと思うので、きっちりできるようになったのは2000年代に入ってからだと思います。
インパクトシミュレーションによって何が起きるのかをいろんな要素を入れて使っていました。今はもうAIでそういうことがパパッとできるようになっていますけど、当時は1個1個のヘッドデータを1日かけてデータを入力したりして計算していたのでかなり大変だったと思います。
GD 深重心の前に「たわみ」がキーワードになっていたことがありました。これもインパクトシミュレーションから出てきたことですか?
長谷部 そうですね。いち早くたわみとか、ボディの振動数に着目したのは「ダンロップ」のインピーダンスマッチングかな?ボールとの変形を合わせるという特許が有名で、様々な特許訴訟も起きましたね。結局それぞれのメーカーの言い分も認められるケースもあり独占ということにはなりませんでした。
理論が先行して、現実が先行してないように見えることもあったんです。今ではどうやったら飛ばせるかっていうのが簡単に理論付けられているようになりましたが、当時はまだ分析のほうが後追いだったんじゃないかなって気がします。
GD 理由は後付けで、人間が考えるアイデアのほうが先にあった。
長谷部 製造技術が先行していたということもかなりあります。理論が先にあって作られているというのもゼロではないんですが、こういうのが作れるけど、どうなるんだろう。「プロギア」の「100回の会議より、ひとつの試作」ではありませんが、そういうポリシーの会社も多くあってとにかく物を作って飛ぶか飛ばないか実験する。インパクト現象は物理学だけども、クラブ作りは実験室で作られるという考え方が当時はあった。いろんな試作品がゴロゴロしていたのがあの時代ですよね。
GD 外ブラもそうだったんですか?
長谷部 外ブラの当時を語るのは難しいですが、日本のメーカーは多くの特許を持ち、開発では先行していた技術も多くありました。ただ、製造技術がなんとなく共有されてしまうのが、パーツを作るメーカーさん、ベンダーさんが割と近しいとこで、中国だったり台湾だったりしたんですね。
だから、いろんなメーカーのシークレットな素材とかアイデアを絶対漏らしてはいけないんですけど、間接的に漏れていく。似たような素材を提案されたりとか、似たような作り方が提案されたりすることによって、近いアイデアが漏れるっていうことは、時間が経つことで起きてしまうので、各メーカーの技術とかアイデアが標準化されていくようなことはあるんですよね。
GD だからか。性能が似たようなクラブが出てくるというのも納得できます。
長谷部 低反発以降はもう素材をどうする、構造をどうする、重心をどうする、みんな真剣に考え始めたので、ただ単に反発性能さえ上げとけば飛ぶという発想をやめなきゃいけないっていう風になったと思うんです。
オフセンターヒットに対応するのか、それとも全部の重心をフェースセンターに合わせて最大に飛ばすとか、いろんな考え方がたくさん出てきて、今でもそういうことを試行錯誤するようになった。低重心にしたら難しくなりすぎたので、今度は慣性モーメントを大きくし、深重心、低重心にして、もっともっと低く深い重心を狙っています。
GD 2024年ドライバーのスペックを見ると、大体同じような数値になってきています。デザインこそ違っても中身のスペックはほぼほぼ同じ。これを見るとドライバーの進化は行き着いたように見えるし、次のステップって、どこに伸びしろがあるんだろうと考えてしまいます。もうスウィングとクラブのマッチングしかないんですかね?
高反発フェースが規制させた2008年当時、弾道の安定にドライバー性能は進みました。しかし、弾道の安定の結末が今だとすれば、飛距離は伸びています。今の状況は2008年と似ているような気がします。
長谷部 2008年当時は、デカヘッド、 四角いヘッド、重いヘッド、いろんなものが出てきて、方向安定性を謳った時代です。結果的には飛ばすよりも曲がらないというセールスポイントが受けなかったのですが、今はそこを乗り越えて、最適弾道で飛ばします。最適弾道が曲がらない弾道なのかは別として、すべて「飛ばします」というセールストークに変わっているだけで、マーケティングの手法が変わっただけというのが私の見解です。
GD どういうこと? もう少し説明してください。
長谷部 慣性モーメントが大きいです、曲がらないです、という言い方をせずに、飛んで曲がらないという言い方しているような気がするんですよね。曲がらないから飛ぶみたいな。必ず「飛ぶ」を結論として言っているような気がします。当時は正直に曲がらないだけ強調して言っていた。
GD 高反発という武器を取られた。でもあの時点でヘッドサイズは460ccになっていたし、45インチにもなっていた。フェースに関しても、今でこそ「ギリギリ」がここ5年間ぐらい言われていますけど、一度ギリギリを超えた世界でクラブ作っているわけで、2008年と2024年で与えられている条件は一緒のように思います。
2008年から2024年までって進化したじゃないですか。今行き詰まっているとしても、次の5年、10年を考えた時に、メーカーは何かを乗り越えなきゃいけないと思っているんですか?それともまたはしばらくこれが続く?
長谷部 2028年1月にボールの飛距離制限があると言われています。そうなった時にクラブとして何ができるかという話になるでしょうね。
GD 制限のかかったボールとクラブとのマッチングっていうのは、何かやりようがあるものなんですか?
長谷部 今回の飛距離制限は、フェースの反発規制と同じようにボールの初期条に影響がありますが、今複雑にボールの設計がされるようになっているから、インパクトロフトによって初速がどう影響するのか細かく見直されると思います。
例えばロフト10度までとか、13度までとか初期条件で制限されるのだとしたら、一番飛ぶべきドライバーが飛ばなくなる。ロフト16度がめちゃめちゃ飛ぶっていう結果が、もし出たとしたらそういう組み合わせが出てくる可能性はゼロじゃないと思います。
GD それまでは大きな進化は、とりあえず見えない?
長谷部 見えないというか、細かいところの最適化が進むと思うんですよね。ボールの初速制限に対応クラブですっていうような言い方になった時に何をするかの話だと思うので、少々乱暴ですけどシャフトで飛ばすという話が出てきたりとか、そういうこともあり得るかもしれません。
GD 今メーカーは何を研究していると思いますか?
長谷部 販売の前線で言うと、間違いなくフィッティングのレベルを上げようとしていますよね。日本はフィッティングのレベルが低いって言ったら失礼ですけど、歴史がアメリカほどじゃないと思うんです。日本はインドアでやるフィッティングが盛んなんですけど、アメリカは屋外、ゴルフ場のレンジで芝生の上から打つのが当たり前で、そこでアイアンでもカチャカチャやっているのがもう何十年も前から始まっていて、それがスタンダードになっています。
そういったことが日本で環境を整えられるかって問題はありますが、パワーマーケティングで売っている「テーラーメイド」ですら日本での新しいフィッティングシステムを作ろうとしたりしていることからすると、やっぱり販売の現場ではフィッティングのスキルを上げていく、標準化することで間違ったクラブを選ばさせないことになるんじゃないですかね。