「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか? その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられているようです……。

20年間ドライバーをリードしてきた『ゼクシオ』

GD ここにある2つのドライバー、2002年に発売された『2代目ゼクシオ』と、2018年に発売された『ピン G400マックス』は、ここ20年余りのドライバー開発に多大なる影響を与えたクラブだと言えます。

日本のメーカーのみならず外ブラに影響を与え、追いつけ追い越せといった状況になったわけですが、なぜこの2本のドライバーがそれほどの影響力を持ったのでしょうか?

長谷部 『ゼシクオ』に関して言うと、このモデルの前身となる「キャロウェイ」の存在は無視できなくて、キャロウェイは元々プロモデルではないアマチュアにとってやさしいクラブを作ることをコンセプトに生まれました。日本では「ダンロップ」がその販売代理店をしていたということが根底にあります。

「ダンロップ」の販売網を使って、プロモデルではない市場を形成し始めたのが90年代後半。それまではプロモデル全盛の時代で、打てなくてもかっこいいプロモデルを使いたいという憧れがゴルフ市場を支えていました。それが「キャロウェイ」の登場によって、アマチュアが快適に打てるクラブを選ぶのもありなんだというように、ゴルファーの気持ちが徐々に変わっていきました。

その後、「キャロウェイ」が日本で販売会社を作り独立し、「ダンロップ」から離れる動きの中で、当時売り上げのかなりのウェイトをしめていたダンロップにも危機が訪れます。その前に「ブリヂストン」のJ‘S危機がありましたけど、1つの大きなブランドを失うことをダンロップもブリヂストンも経験しています。

その危機から生まれたのが『初代ゼクシオ』で、2代目でブランドは確固たるものになりました。最初は「キャロウェイのモノマネでしょ」って言われていた『ゼクシオ』も、用意周到な「ダンロップ」のリサーチと営業網、研究開発力によって実を結んだと言えます。

GD 「テーラーメイド」のメタルが日本に入ってきてメタルブームが起き、次にキャロウェイの『ビッグバーサ』が入ってきて、「やさしいクラブは飛ぶ」ということが一気に広まりました。プロモデルとは違うアマチュア市場が注目され、やさしいクラブが次々と出はじめるようになりました。

長谷部 きっかけになったのは確かシニアツアーだったんじゃないかなと思います。シニアツアーで『ビッグバーサ』が弾けて、なんかやさしいし飛ぶぞと。打つとメチャメチャ高い音がするけど、やさしくて飛ぶから手放せない。そんなシニアプロがじわじわと増えたこともあったと思います。スライス防止のためのアマチュアのクラブではなく、プロが使ってもやさしく飛ばせるという実証が多方面から発信されました。

GD 男子のレギュラーツアーでも「ダンロップ」の契約選手は、メタルの『ビッグバーサ』をリシャフトして使っていました。プロモデルでなくても、スペックさえ合わせればアマチュアモデルでも飛ばせるという衝撃を与えました。

長谷部 そうですね。当初はネックがない、非常に独特の形状を持っていたクラブでしたけど、理にかなった重量配分であったりとか、その後のCAD設計が全盛になっていくきっかけだったりするので、そういった意味では本当に時代を変えたクラブ、ブランドがビッグバーサであり、ゼクシオでした。

GD 今、『2代目ゼクシオ』を見るとどのような感じがしますか?

長谷部 この当時は重心距離を短く、重心アングルを大きく、つかまりを重視した設計をとにかくやっていました。大型ヘッドに移行する手前のスライス防止、なおかつ自然とスイートスポットに当てやすいようなシャフトの位置などが上手く作られているクラブでしたよね。これを模していろんなメーカーがフェースの位置であったり、ネックの位置を研究して真似ていましたよね。

GD 『2代目ゼクシオ』は片山晋呉が使って賞金王になったことで、プロアマ問わず使える性能があることを周知したクラブですけど、当然ライバルメーカーは研究してスペックを採取するわけじゃないですか。でも、なかなか同じような感じのものができなかったというのが事実で、何か特別なものがあったんですかね?

長谷部 全くコピーをすることは当時も今もあまりしないと思います。それぞれのメーカーが分析する際に、どこが市場で評価されているのか、いくつかのポイントを抑えていきます。形なのか、音なのか、そういったところを真似はしましたけど、全くそっくりに作ることはできないし、特に音を真似することは結構難しかったですね。

GD 素材、構造がわかっていても、それでもなかなか追いつくことができなかったし、横並びになったクラブもありませんでした。『ゼクシオ』が2代目以降モデルチェンジしても、他メーカーとの距離が縮まりませんでした。

長谷部 そこには保守的な日本人の気質が邪魔をしているというか、なんか気にはなるんだけれども他には手を出さない。今までのブランドに落ち着いてしまう。ダンロップはキャロウェイを失ったことで『ゼクシオ』で対抗した。

追随するメーカーからすると、その時点で 2歩、3歩遅れていたのかなって気はします。遅れてしまっているぶん、各社ゼクシオ対抗の新ブランドを立ち上げるブームがこの後来るわけですけど 1代目、2代目、3代目で終わってしまって、これほど長く続けられるブランドまでは競合メーカーとしてはできなかったということだと思います。

GD クラブの企画会議で、「なんでゼクシオに勝てないんだ」ってなると思うんですが、その時の開発現場の声はどうだったんですか?

長谷部 全く同じものは作れるというのが開発現場の意見なんですけど、抑えるべき指標というのはそれで全てなのかっていうと、そこにはちょっと疑問があったかもしれません。本当に細かい話ですけど、『ゼクシオ』のリーディングの面取りの意味はゼクシオ関係者しかわからないんですよ。普通はこんな面取りしないんですよね。面取りをすることで、フェースの位置をちょっと上に上げている。だから重心の位置とフェースのセンターが合致していますよみたいなことは、「ダンロップ」は言わない。

結果としてそう見えるんですけど、それはあくまで分析する競合メーカーの勝手な思いなので、本質の理由まではさすがに社外秘なので教えてくれません。でも意図があってここが面取りされてフェースが上にズレているはずなので、こういったことも含めてフェース重量が軽減されれば他に重量配分できる。そういったところも含めて全く同じものって作りづらいわけですよね。だけど、似たようなパフォーマンスは出せるよねっていうとこでみんな出していく。それが正解かどうかは市場に出してみないとわからなかった。

GD 結果的には歴史が物語るように『ゼクシオ』を超えられなかったわけで。

長谷部 そういうことですね。『ゼクシオ』はある一定のファンをがっちりと初代、2代目で掴んでしまったので。

GD それは機能なのか、ブランドなのかといったら?

長谷部 当時は機能から始まっていますけど、結果ブランドになってしまったと思います。

GD 『ゼクシオ』を買っとけば安心みたいな。

長谷部 あとはもの凄い営業力で販売店をしっかり抑えていたから、『ゼクシオ』を売っていこうという機運が販売店にもありました。製販一体となって売っていた気がします。

店頭で試打測定みたいなものが当時はあまりなかったのと、まだゴルフ量販店が今ほど影響力を持ってない時代だったので、街のゴルフショップが積極的に自分たちのお客さんに『ゼクシオ』を売り込んでいたのは間違いありません。

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