古江彩佳とのプレーオフを制して今季初優勝
秋の日差しがグリーンに長い人影を作る。18番を使ったプレーオフ2ホール目、山下は短いウィニングパットを沈めると、左手でキャップのひさしをつまみ、小さく2度頭を下げた。
大ギャラリーから沸き上がる拍手と歓声を浴び、古江と健闘をたたえ合うようにがっちり抱擁。ようやくつかんだ今季初優勝にほっとしたような笑みがこぼれた。
優勝インタビューでは涙声になった。
「(今季は)いい順位で回れていたんですけど、何かもうひとつ足りない部分があったりというのを、お父さん(勝臣さん)と考えながらやっていたので、優勝できてうれしいです。いつも応援していただいている人たちにプレーで恩返しできたので、すごくうれしく思います」
日本の女王VS海外メジャーチャンプ
日本の女王VS海外メジャー大会覇者。
大ギャラリーが見守る中、頂点を極めた2人の誇りと意地をかけた死闘が繰り広げられた。
舞台は今大会難易度ナンバー1の18番パー4。1ホール目は両者ボギーで決着がつかず、迎えた2ホール目。気まぐれな風が明暗を分けた。
先に2打目を打った山下はフェアウェイからピンまで残り169ヤード4Uでピン左6メートルにオン。一方で古江は同じくフェアウェイから残り156ヤードを7番アイアンで狙ったが、スウィングの直前に強い向かい風が吹き、ボールは高いアゴがカベのようにそびえる手前バンカーにつかまってしまった。
全米女子プロを含めて2位が8度
古江は第3打でピン方向を狙えず、やむなくピンのはるか左へ出すだけ。それでもパーパットを強気で打ってピンに当て、ギャラリーを沸かせた。それを見届けた山下は2パットで堅実にパーをセーブし栄冠を勝ち取った。
「(古江の)最後(のパット)は入ったと思いました。あのようなパットを見るとドキッとしますね。優勝は最高!しかなかったです。(ウィニングパットが)入った瞬間、やっぱり優勝って違うなと思いながら、歓声を浴びながら、もう最高という感じです」
一昨年、昨年と年間女王に輝いたが、今季は前週まで全米女子プロを含めて2位が8度あるものの、優勝に手が届かなかった。
「お待たせしました」(山下)
それだけに今大会での今季初優勝の喜びはひとしお。優勝会見の会場に姿を見せると
「お待たせしました」と微笑んだ。
「皆さん(報道陣)からなかなか1勝目に届かないと言われることも多くあったけど、本当にその通りで、自分の思うようなショットが打てず、イメージ通りのショットではないけど、上位には(今まで)いたみたいな感じが続いていました。今日もショットはあまりよくなかったけれど、パターが入ってくれたので、プレーオフで優勝できたのかと思います」
プレーオフに持ち込む道のりも平坦ではなかった。
2打差6位から出て11番までに7バーディを奪って単独首位に立ったが、13、14番で連続ボギーをたたき、古江に並ばれた。最終18番も最後は13メートルのパーパットが残ったが、このフックラインを読み切ってミラクルパーをセーブし、古江が17番でボギーをたたいた瞬間にプレーオフが決まった。
「(正規の)18番のパーパットは入れるしかなかった。あの距離は入れようと思ってもなかなか入らないので、ラッキーと思いましたね」
米ツアー最終予選会受験を決意
生みの苦しみを味わった今季初Vを果たしたことで、逆転の3年連続年間女王の可能性も広がった。今大会終了時点で首位を独走する竹田麗央とのメルセデスポイント差は541.40。最終戦まで残り6試合でひっくり返せない差ではない。
「竹田さんは本当に素晴らしい選手だなと思っていますし、プレースタイルは違うんですけど、残りの試合も精一杯頑張りたいと思っています」
今季は全米女子プロ2位、パリ五輪4位と海外で結果を残したことで米ツアー最終予選会受験を決意した。国内ツアー今季初優勝が31戦目までずれ込んだにしても、メジャーチャンピオンの古江を破って優勝を果たしたことで、海外挑戦へも大きな弾みがつく。
「とりあえずショットを直して臨みたいです」
今季欠けていた優勝という空白のピースを埋め、身長150センチの小さな”巨人“が満を持して海外へ打って出る。