公差の範囲内で作られているのが市販品
GD ギアに明るい人は知っていることだと思いますが、ゴルフのクラブには「市販品」、「カスタム品」、「プロ仕様品」に分けられると思うのですが、この違いは一体何なんでしょうか?
長谷部 「市販品」は量産品なので大量生産しているモノになります。ある一定のロットで作るので、一気に同じ番手を何百個単位で作ります。だから「鋳造だと精度が高いですよ」、「鍛造の精度は若干甘いですよ」みたいなことがあったとしても、一定の公差の中で作ればそれで終わりというのが量産品です。
ですから、ロフト角、ライ角のスペックも公差内であれば、1度ぐらい多かったり、少なかったりしても販売されますし、重量についてもプラスマイナス3グラムのヘッド重量の管理であれば、その中でやりますし、モノによっては1.5グラムというモノもあったかもしれないですけど、大体プラマイ3グラムぐらいで作っているので、一応、番手間で重ならないような重量の設定にはなっていたと思います。
モノによってはバランス調整が必要で、以前にも話したと思いますけど、ヘッドは軽めに作ったほうが組み立てしやすいという理屈は、鉛を入れたり、重量調整をして組み立てするのが前提になっているのが量産品ということです。
「カスタム品」はその中でもある程度重量を選別して、より組み立て時の鉛の量を減らしたりとか、ライ角、ロフト角の揃ったものを選んで組み立てています。
さらに「プロ仕様」となった時には、もちろん量産品を1回は打ってもらうと思うんですけど、プロがちょっとこうしてほしい、ああしてほしい、ソールの当たり方をこうしてほしいっていうような要望があったときは、ゼロからヘッドを作ることがあります。
ゼロから作るというのは、全く形状を模していない鉄の塊、“お化け鍛造”って昔は言っていましたけど、こういったものから作り込んでいく場合があります。そうなるともう手作りなので、1個あたり5万円とか10万円という値段がついてしまうモノになるんですけど、提供していたことはあります。今でもそうなんじゃないかなと思います。
GD アマチュアゴルファーの90%以上が市販品、量産品を使っていると思いますが、プラマイ何グラム、プラマイ何度の公差の中で組み立てられているとすると、モノによっては6番アイアンが飛ぶ、 7番アイアンが引っかかるっていうようなことが言われますが、あり得る話ですよね?
長谷部 アイアンセットで球筋が揃わない原因は、ライ角を疑ったり、ロスト角設定を疑ったりすることが多いんですけど、流れを作ってみても合わないとなった場合には、重量調整がどこまで入っているのかを疑ってもいいのかなって気がします。ただ距離と方向性に関しては、ライ角とロフト角を疑うのがまず先だと思います。
GD 製品管理というのは、市販品に関しては厳密なところまでは達成されず、ある程度のプラスマイナスの世界で流通していると考えていいですか?
長谷部 そうですね、カタログ値というのを見ていただけたらわかるんですけど、番手によっては2度の差しかない、4度差がありますというアイアンが通常あると思うんですよね。カタログに公差プラマイいくつとかって書いてあれば、その中で作っているので、カタログ値で2度の差があるものが、もしかしたら最悪揃ってしまうことはある、もしくは近しいものがある。
GD プラス2度、マイナス2度の公差もあり得る?
長谷部 そこまで極端なことはないと思うんですけど、プラマイ1度の中で話をすると、逆方向に振れている番手があるとすると、2度しか差がないものが1度の差になってしまったら、距離の差が出ないよねってことは当然あり得ると思うんですよね。だからそういったことを疑うことがよくて、あくまでもカタログ値はカタログ値として見ていただいて、自分の望む飛距離が出るような調整を後からフィッティングとか、工房でネック調整をすることをお勧めします。
ちょっとお金もかかったり時間もかかったりするんですけど、そうしていただくのが理想です。あくまでもカタログ値はメーカーが推奨するロフト、ライ角であって、「お客様に全部合いますよ」とは言ってないはずなので。そこは後々アフターサービスとかでやってくれるところがあれば、そういったところで調整するのがいいと思います。
GD アイアンセットを組むとき、ワンセットで組んでいくんじゃないですか?
長谷部 それはカスタムではありますし、「ピン」なんかはそうやっていると聞きます。でも、それはカスタムの世界の話だと思います。大量生産の場合には、5番なら5番を大量に作ってしまう。7番なら7番で作ってしまう。それをラックに入れておいて最後にセットに組んで出荷します。
GD 当然グリップに公差があり、シャフト、ヘッドにも公差がある。それを組み上げてクラブになるわけだから、当然公差は出てきますよね。
長谷部 その通りです。総重量で重いモノ、軽いモノは出てしまいます。
GD 軽いモノと重いモノを振り分けて、軽いモノだけで組もうとか、重いモノだけで組もうとかはしないんですか?
長谷部 それをやっているメーカーもあるとは聞きますけど、基本的にどこまで手間をかけるかどうかは、それぞれメーカーの考え方だと思うので、組み上がったクラブの総重量を重い、軽いで振り分けてセット組みしているっていうのは、なかなか手間がかかる作業かなと思いますよね。