「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか?その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられているようです……。

過去のエースドライバーには「好み」が詰まっている

GD 今回は視点をちょっと変えて、過去に使っていたドライバーのスペックを分析することで、スウィングとの相性みたいなものが発見できないかを探ってもらいたいと思います。(サムネイルに挙げた)4本のドライバーは、私のエースドライバー遍歴になります。

『テーラーメイド R9スーパートライ(2010)』、『初代グローレ(2012)』、『プロギアRS(2016)』、『RS5(2020)』。この4本のドライバーをクラブ設計家の松尾好員さんに計測してもらいました。

今日はさらにクラブコンシェルジュの視点で長谷部さんにもう一歩踏み込んだ分析をお願いし、スウィングとクラブの間に因果関係のようなものが存在するかを聞きたいと思います。もし、傾向のようなものが見つかれば、次に使うドライバーの方向性が見えてきます。

長谷部 わかりました。面白い試みだと思います。事前に送っていただいた計測データから、いくつかの興味深い傾向と共通点が見えてきました。今日は、そのときどんな球筋が出ていたか、どんなゴルフスタイルを目指していたか聞きながら分析していきたいと思います。

【4モデルの名前/長さ/重さ/バランス】
●『R9スーパートライ』/45インチ/318.2グラム/D3.6
●『初代グローレ』/45インチ/312.7グラム/D2.0
●『RS(2016)』/45.25インチ/307.6グラム/D1.8
●『RS5(2020)』/45.13インチ/302.8グラム/D0.7

まず、長さに関して言うと、45インチから45.25インチまで微細な変化に見えます。総重量に関しては 318グラムから302グラムで、シャフトの重量を変えつつ徐々に軽くなっていく傾向があります。ただ、バランスはD3を超えたものからD1弱にまで軽くなっているので、この4モデルに関して言うと、クラブ全体は長く軽くなっていることがわかります。これは年齢的なこともあるとは思うんですけど、ヘッドスピードを上げたい、そういう意図で選ばれているのかなという気がします。

【4モデルのヘッド重量】
●『R9スーパートライ』/206.3グラム
●『初代グローレ』/195.1グラム
●『RS(2016)』/197.9グラム
●『RS5(2020)』/199.4グラム

それぞれのヘッド重量を見ていくと、重かったり、軽かったりという感じになっています。200グラムを超えている『R9』が最も重くて、おそらくヘッドがヘビーで振りづらかったんじゃないかな?という気がします。

【4モデルのヘッド左右慣性モーメント(平均値)】
●『R9スーパートライ』/4883g㎠(4295g㎠)
●『初代グローレ』/4245g㎠(4315g㎠)
●『RS(2016)』/4668g㎠(4429g㎠)
●『RS5(2020)』/5342g㎠(4830g㎠)

慣性モーメントも当然非常に大きなものになって、2010年の平均値から見ても、『R9』はめちゃめちゃヘッド慣性モーメントが大きい。重くて慣性モーメントが大きいからクラブとしては振りづらかったことが松尾さんの分析コメントにも入っていますけど、そうなんだろうと思います。

この時、多分悩みがあって、『初代グローレ』に移行したんだと想像するんですけど、ここの変化が非常に大きくて、クラブ全体が軽くなった。5グラムぐらいなんですけど、バランスもそんなに大きく変わっていない中で、ヘッド慣性モーメントが非常に小さくなっています。重心距離はそれほど変わってないんですけど、ヘッド自体の重量が10グラムぐらい軽くなっていること。

【4モデルのネック軸回り慣性モーメントと(当時の平均値)】
●『R9スーパートライ』/7844g・㎠(6947g・㎠)
●『初代グローレ』/6962g・㎠(6875g・㎠)
●『RS(2016)』/7461g・㎠(7202g・㎠)
●『RS5(2020)』/8238g・㎠(7741g・㎠)

バランス、クラブの長さが大きく変わっていない中で、ヘッド重量を軽くするメリットが生きていて、ネック軸回り慣性モーメントが『初代グローレ』から一気に下がるんですね。『初代グローレ』のネック軸回り慣性モーメント値は、よくよく見ると2010年の平均値なので、2年遅れで世の中の平均値に戻っています。

GD 『R9』を使っていた頃を思い出します。先調子のシャフトがよさそうだと使っていました。でも、『初代グローレ』の時は先調子と中調子を行ったり来たり。シャフトの調子というのも関係しますか?

長谷部 調子が合う、合わないは、「手元の硬さで見ましょう」って以前も話したんですけど、振りやすいものを求めている時に、タイミングの取りやすさを手元の硬さで選んでる人は、おそらく手首をそんなに返したくないんじゃないかと思います。

自然にヘッドが返ってきてくれるシャフトがいいんだろうということで、グローレの時はヘッド慣性モーメントが小さくなっているので、中調子でも特に意識せずにヘッドが戻ってきてる感覚があったため、先調子と中調子を試していたんだと思います。

GD 結局は中調子の『ツアーAD PT6』に落ち着くんですけど、そのほうが相性よかったってこと?

長谷部 そうだと思います。

GD 先調子は調子を感じたいがために、過剰に手を使っていた可能性もある?

長谷部 手を使うというよりは、インパクト前後の手首の使い方になるので、ダウンスウィングの振り下ろしのタイミングが合う、合わないよりも、インパクトの手の動きに全部集中していたと思います。そういった時にヘッド慣性モーメントの大きいほうがオフセンターヒットに強かったんじゃないかなと……。先調子はタイミングのズレが多少発生しますので。

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