
PGAツアーでベルギー人として初優勝したトーマス・デトリー。「優勝前夜はなかなか眠れなかったというデトリー。それでも心の中では大丈夫だと思えていたそうです。これも瞑想の効果なのでしょう。ぜひ取り入れてみたいものです」(佐藤プロ)
今年のフェニックスオープンで、2位と7打差で圧勝したのが32歳のトーマス・デトリー。ベルギー人で初めてPGAツアーの優勝者に名前を連ねました。しかし、初優勝までに意外と時間がかかったなあという印象です。実際、欧州、PGAで2位が7回ありましたから。
ジュニア時代からベルギーはもとより、欧州のトップアマとして活躍しました。進学したイリノイ 大時代は通算5勝、オールアメリカンにも3度選出されています。16年にプロ転向、欧州のチャレンジツアーからスタートし、デビュー戦の母国ベルギーで6位、フランスで2位タイ。そして8月、イ ングランドのBSチャレンジで初優勝を飾ります。この優勝が圧巻で、4日間で29アンダー、2位との12打差は同ツアーの新記録。ちなみにそれまでの記録は、ブルックス・ ケプカの10打差でした。
18年、メルボルンで開催されたワールドカップ。トーマス・ピータースと組んだデトリーは、マーク・レイシュマン&キャメロン・スミス組の地元オーストラリアを相手に競り勝ち、ベルギーに初優勝をもたらせました。
このとき初めてしっかりとデトリーのプレーを見たのですが、これまで紹介したプロフィールも含め、欧州でもPGAでも“すぐに優勝する選手だろうな”と感じました。特に最終日の最終ホールは、完全アウェイに加えて、左OB、右バンカーという嫌なシチュエーション。
そこでフェアウェイど真ん中に打った自身も振り返る「最高のドライバー」は、今も鮮明に覚えています。そんな選手が初優勝までこれだけ時間がかかったのは、良くも悪くも旺盛なエネルギーを抑えきれない性格にあったようです。

デトリーはパッティングも上手いと佐藤プロ
何かの記事で知りましたが、13年、イリノイ大5連覇のかかったカンファレンス選手権。1年生のデトリーの放ったショットはバンカーのアゴの近くに。怒りを抑えきれないデトリーは、ここで半狂乱状態に。コーチのマイク・スモールは彼の襟首をつかみ、「いいから横に出してサッサと5で上がれ!」と怒鳴ったそうです。記念写真ではTシャツで隠れていますが、中のポロシャツの襟は少し破れていたとか。
昨年2月のコグニザントクラシックでは、予選通過ギリギリの場面で2オン6パットでキレる気性の荒さも見せました。しかしここ2年行っている朝晩10分ずつの瞑想で、心の安定を手に入れたようです。奥さんに勧められアプリを使ってやっているとか。緊張すると鼓動が速くなり先のことを考えてしまう。
そういう堂々巡りのようなことをなくし、今は目の前のことに意識を持ってくることができるようになったそうです。昨年は54人の逮捕者を出したフェニックスオープンの熱狂は、ベルギー人のデトリーには完全アウェイ状態。ギャラリーが一番集まる16番パー3での勝負を決めたベタピンショット、18番のあのワールドカップを思わせる最高のドライバーショット、上がり4ホールで4連続バーディです。これらは、心の成長を物語っているのでしょう。今年はライダーカップの年。大舞台でのこの勝ち方は、欧州キャプテンのルーク・ドナルドも評価するのではないでしょうか。
距離は出るほうですがズバ抜けているわけではない。スウィングはナチュラルでオーソドックス。体形も含め、アダム・スコットに通じる教科書的に綺麗なスウィングです。皆が憧れる綺麗さとは何か。それは、アドレスにせよ、トップ、フィニッシュにせよ、ポジションが“個性的ではない”ということになるのでしょう。
習い始めの幼少時、まだスウィングが固まる前に、きちんとしたポジションを教わっているなあと思うのです。たとえば松山英樹くんもトップの間こそ個性的ですが、ポジションはきちんとよい。これはお父さんに教わったと聞いたことがあります。
デトリーはパッティングも上手いですが、こちらもストロークがオーソドックス。硬い感じがしないのが素晴らしい。そしてこちらもポジションがしっかりしているんですね。
個人的にベルギー人選手には見た目が安定的にカッコいい人も多いと思います(笑)。スウィングの安定に心の安定も加わったデトリー。今シーズンの快進撃が期待できそうです。
参考にしたいポイント=手とヘッドが重なるポジションチェックで安定感を得る

手とヘッドが重なるポジションチェックで安定感を得る
「真っすぐ上げるためのポジションチェックとして、後方の鏡に映したとき、ハーフウェイバックで手とヘッドが重なることを欧米の選手の多くは見ています。ジャスティン・トーマスやリッキー・ファウラーなど、スウィング前にここをチェックする人は多い。これがスウィングの綺麗さと安定につながるのです 」(佐藤プロ)
PHOTO/Blue Sky Photos、Tadashi Anezaki
※週刊ゴルフダイジェスト2025年4月1日号「うの目たかの目さとうの目」より