
「今回改めて自分のゴルフの確立がいかに大事かを思い知らされました。マキロイは結局、攻めて勝った。最終日は18番で2回ドライバーを持ち、自分のスウィングで振り抜いて、勝利をつかみ取りました」(佐藤プロ)
マキロイの魅力的なプレースタイル
ローリー・マキロイの史上6人目のキャリアグランドスラム達成で幕を閉じた第89回マスターズ。松山(英樹)くんが優勝した21年に匹敵する興奮と感動を覚えた人も多かったのではないでしょうか。
マキロイのゴルフの原風景は、97年大会のタイガーの優勝にあります。マスターズで勝ちたい。その一心で、すべての情熱を注いできました。11年には2位に4打差の単独首位で最終日を迎えながら80を叩いて逆転負け。その後全英オープンを制しグランドスラムに王手をかけたのが14年。そこから11年、周囲はもとより自身に課すハードルは年を追って高くなっていきました。
世界ランクトップにいるスコッティ・シェフラーを「タイガーも含めて今までで一番ボギーフリーのラウンドが多い選手じゃないだろうか」と評し、そのゴルフに「憧れている」と語り、大会の前週にはジャック・ニクラスとランチを共にし、1番から18番までの攻め方を聞かれ説明すると「その攻め方でいい。だが、思い描いた通りにはいかないものだ。たとえば林の中に入ったら謙虚に出す。それがマスターズの必勝法だ」と伝授されたとか。
マスターズの公式YouTubeで2025年マスターズを振り返る
A Look Back at the 2025 Masters | Rory McIlroy and the 89th Masters Tournament
www.youtube.comさて、最終日です。林の中からわずかな隙間を見つけて打っていったショットが何度あったか。あれほどボギーフリーにこだわりながら、初日と最終日にはダブルボギーが2つずつ。4つのダボを叩いてグリーンジャケットを着た初の選手になりました。
何度も奈落の底に落ちてははい上がってくるジェットコースターのようなゴルフ。終わってみれば歴史に残る名勝負となったものの、皆さんも疲労困憊したはずです。しかし、このプレースタイルこそがマキロイの魅力。感情は3日目までとてもコントロールされていましたが、最終日は随所で自然と溢れていました。ミスの後のリアクションも大きく(10番セカンドや13番サードなど)、5番ティーショットでも打った瞬間に珍しく「Oh, no! Sit ! Sit! 」。それだけマスターズ制覇への思いが抑え切れなかったのでしょう。プレーオフは、ジャスティン・ローズ有利の流れと感じた人も多かったはず。
マキロイは優勝会見で、18番ティーにカートで戻るとき、キャディのハリーと「今週の月曜日に、もしサドンデスに残るって聞いたら喜んで受け入れられただろ?」「あぁ間違いないね」というやり取りがあり「あれで気持ちがリセットされた」と話していました。家族の存在も大きかった。優勝スピーチでは「欠かせないのは家族とチーム。毎年、重荷を背負ってこの大会に参加するボクを支えてくれた。(娘の)ポピーには絶対に夢を諦めないでと伝えたい」と、家族への感謝に言葉を詰まらせました。
さて、家族とリラックスして最終日を迎えたマキロイに対し、対照的だったのがブライソン・デシャンボー。アイアンの調子が悪かったデシャンボーは、大会を通じて練習場で一人黙々と打ち込んでいました。でも、最終日の前夜は近くのショートコースで見知らぬ若者と一緒に回ったそうです。
インタビューでは何度も「Fun(楽しい)」という言葉が聞かれましたし、彼のYouTubeなどを見ても、とにかくゴルフが、また一般の人と触れ合うことが楽しくて仕方がないという感じ。3日目終了後の会見でも「マキロイと一緒に回れることが楽しみ」と言っていました。結局、アイアンが本調子に戻らず優勝争いから脱落しましたが、握手を求めるギャラリーに対する試合中の対応を見ても、終始ゴルフを楽しんでいる空気が伝わってきました。昨年の全米オープンでの優勝に続き、人気はますます上がっているでしょう。
そしてジャスティン・ローズ。これでマスターズでは3度目の2位。プレーオフは17年にガルシアに敗れて以来、2連敗です。悔しいに違いありません。しかし、勝負が決まってマキロイと抱き合い、言葉を掛け続けた姿は感動的でした。グッドルーザーとは、まさしくローズであり、彼の態度です。今回のマスターズの出場のきっかけは、昨年の全英オープン。この全英オープンは26年ぶりの予選会からの出場で、その結果が2位となり、今年のマスターズの出場権を得たと同時にますますメジャー優勝(2勝目)への思いを強く持って迎えたはずです。
ボクはローズと試合で回ったことがあり、そのナイスガイぶりを肌で感じました。またガルシアに敗れた17年のマスターズは現地でその姿を見ています。それだけにマキロイの念願のグランドスラムも見たかった一方、ローズにも優勝してほしかった。こういう思いを見ている人々に与えるプロです。この敗北はローズの新しい歴史の幕開けになるはずです。マスターズは毎年、ゴルフ史はもちろん、自分のなかのゴルフを塗り替えていく。そんな大会なのだなと改めて思いました。
◆デシャンボーにも注目! 「ゴルフを楽しむ」「目標をしっかり持つ」いくつになっても上達できる!

全米プロのデシャンボーにも注目
デシャンボーの『ゴルフを楽しむ』という境地は、プロであれアマであれ、どのレベルのゴルファーでもやっぱり大事にしたい。またローズの72ホール目のロングパットのバーディは、いくつになっても夢を諦めない、彼の人生そのものでした。目標をしっかり持っていれば、ゴルフはいくつでも上達できることを教えてくれたと思います。
PHOTO/Blue Sky Photos
※週刊ゴルフダイジェスト2025年5月6日号「さとうの目」より