プレーに影響するメンタルの“本質”とは

富士桜CC、壮大な富士山に向かってゴルフができる
「試合になると極度に緊張するんです」
「気持ちがブレてしまいました」
「自分をうまくコントロールできなかったんです」
「気持ちが切れてしまって、立て直せませんでした」
こうした言葉を、スポーツの現場で耳にすることは少なくありません。特にゴルフのように、“静かに戦う”競技では、メンタルの状態が、そのままプレーに影響することも多いものです。
では、そもそも“メンタル”とは何なのか? そして、「メンタルが弱い」とは、一体どういう状態なのでしょうか。
少し視点を変えて、「富士山に登る」という例で考えてみましょう。
標高3776m。山頂を目指して、必死に登り続けて3時間。ふと見上げると、そこは「5合目」。
ある人はつぶやきます。
「えっ、まだ5合目? こんなに歩いてきたのに……」
一方で、別の人はこう言います。
「お、5合目まで来た! 景色もなかなかいいね。山頂からの景色は、もっとすごいだろうな」
同じ場所にいながら、前者は疲労と焦りで足取りが重くなり、後者は期待とワクワクでさらに歩き出します。
ここに、メンタルの本質が表れています。
メンタルとは「感情のこと」。
そしてその感情は、「思考」から生まれています。人は、目の前の出来事を“どう捉えるか”で、感じ方が大きく変わるのです。
前者は「まだまだ先が長い」という“消耗”の視点。
後者は「ここまで来れた」という“前進”の視点。
つまり、“メンタル”が弱い・強いというのは、“気合”や“根性”の問題ではなく、「どんな角度から物事を見ているか?」という“視点のクセ”なのです。
ーーゴルフに置き換えて考えてみる
一方我々は、ティーショットでOBを打ってしまった際には「もう終わった……今日は崩れるかも」と落ち込む人もいます。でも別の人は、「これは想定内。ここから立て直そう」と切り替えます。
同じ出来事でも、見ているものが違えば、気持ちも、プレーも変わっていく。
ここが整っていないと、たとえスウィングの技術があっても、たとえ体調が万全でも、結果に引っ張られて、パフォーマンスは安定しません。
逆に、視点が整えば、感情が整い、身体も自然と動き出します。すると、いつもの自分を、いつでも出せるようになるのです。

全米プロゴルフ選手権で優勝したスコッティ・シェフラー(撮影/Blue Sky Photos)
ここでひとつ例を挙げましょう。
全米プロで優勝したスコッティ・シェフラーです。彼は2日目を終え、記者からの「初日の16番でのダブルボギーからどのように立て直しましたか」という問いに対して、「道のりには困難があり、挑戦があります。初日は泥だらけのボールが間違いなく少し厄介で、悪いスウィングをしたわけではないのに、ただ不運な出来事でスコアを崩しました。それはどんな場面でも悔しいものです。どう立ち直るかですが、昨日と今日、ショットの瞬間、瞬間に集中しました。最高の状態ではなかった2日間でしたが、それでもトーナメントに残ることができました。昨日と今日はかなり難しいゴルフだったので、決勝に残れていることを誇りに思っていますし、あと2日間を楽しみにしています」と答えており、これはまさに、先ほどの“前進”の視点といえるでしょう。
もちろん、メンタルには生まれ持った気質の影響もあります。
ですがそれ以上に、“思考の選び方”を整えることができれば、誰でも変えていけるものです。
不安に目を向けるか。それとも、可能性に目を向けるか。どのような視点を選択するかで、その日のゴルフは大きく変わります。
メンタルとは、“心の見え方”を選ぶ力。
「メンタルが弱い」のではありません。ただ、自分に見せたい未来を、見失っていただけ。
焦点を変えよう。視点を整えよう。そこから、未来は打ち直せる。

坂本雅史メンタルコーチ
オリンピックメダリストなどトップアスリートサポート実績を持つメンタルコーチの池努に師事し、脳科学・認知科学・コーチングを学び22年にメンタルコーチとして独立。現在はプロゴルファー志望の選手を中心にサポートを行い、プロテスト受験者4名中3名の合格に貢献。