ツアー解説でおなじみの佐藤信人プロ。今回は、3月のプエルトリコオープンで、PGAツアー初優勝を飾ったカール・ビリップスについて語ってもらった。
画像: カール・ビリップス。「『彼が近い将来、PGAツアーで活躍するのは間違いない。未来のスター候補選手の一人だ』とは、契約締結時のタイガーの弁。その期待に応えるべく、タイガーよりも先に、新ブランドを身に着けての初の優勝選手になりました」と佐藤プロ(PHOTO/Getty Images)

カール・ビリップス。「『彼が近い将来、PGAツアーで活躍するのは間違いない。未来のスター候補選手の一人だ』とは、契約締結時のタイガーの弁。その期待に応えるべく、タイガーよりも先に、新ブランドを身に着けての初の優勝選手になりました」と佐藤プロ(PHOTO/Getty Images)

今シーズン、ルーキーの優勝は、現時点ではビリップスだけです。昨年、スタンフォード大を卒業したばかりの23歳。インドネシアのジャカルタで、オーストラリア人の父と、インドネシア人の母の間に生まれました。

1歳のときに両親が離婚。父と2人でオーストラリアに渡ります。2歳でゴルフを始め、当時の写真や映像はYouTubeで見られます。最初はドライバーと7番アイアン、パターの3本でゴルフを始めました。メキメキと力をつけ、やがて父はフルセットを用意するのですが、裕福ではないため拾い集めたロストボールを売って買い求めたものでした。父子鷹としてのいい物語を感じますよね。

いわゆる天才少年で、7歳と9歳でUSキッズ世界選手権で、また10歳と12歳にはサンディエゴで開かれる世界ジュニアで優勝しています。前後して11歳でアメリカに渡ると、高校は首席で卒業。大学はスタンフォードに進む文武両道。大学時代は1勝しかしていませんが、オールアメリカンにも一度、選ばれています。

学生ゴルファーの登竜門であるPGAツアーユニバーシティは10位で、コーンフェリーツアーの限定的出場権とPGAツアーアメリカズの出場権を獲得。ちなみにPGAツアーへの出場権が与えられる同1位は、同じスタンフォード大のマイケル・ソービヨンセン。今は少し苦戦している感がありますが、4月のダブルス戦、チューリッヒクラシックではビリップスと組み、前週のプエルトリコの2位に続き4位と2週連続でのベスト10フィニッシュを果たしました。

話をビリップスに戻すと、コーンフェリーにはようやく7月に出番が回ってきて4戦目に優勝。結局10試合に出場してランク19位となり、早くもPGAツアーメンバーに昇格します。そして今シーズン、1月のソニーオープンから出場できるはずでしたが腰痛のためにしばらく休み、2月のメキシコがルーキーイヤー初戦。3戦目のプエルトリコで初優勝を飾ったのです。ちなみにビリップスは、スタンフォード大の先輩、タイガー・ウッズの作ったアパレルブランド「サンデーレッド」(Sun DayRed)の契約第1号です。

コーチはオーストラリアつながりで、子どもの頃からジェイソン・デイの指導をしてきたコール・スワットン。母子家庭のデイを二人三脚でメジャーチャンピオンに育て上げた名コーチです。ビリップスは父子家庭ですが、前述の“父子鷹”のエピソードや、アマチュア時代、USGAの試合の遠征費をYouTubeの収益で捻出したりしたという話は、どこかデイとかぶると感じますよね。

17年にはジュニアプレジデンツカップに選出され、18年にはアルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたユースオリンピックで金メダル。ちなみにジュニアプレジデンツカップのチームメイトはマル(丸山茂樹プロ)の長男のショーン・マルヤマ(丸山奨王)で、銀メダリストがPGAツアー2勝のアクシャイ・バティアでした。気の早い話ですが、32年のオリンピックはオーストラリアのブリスベン。31歳でちょうど脂の乗り切る時期だけに、母国での金メダルの期待もかかります。

【動画】2018年のカール・ビリップスのアイアンスウィングを父・ポール氏が運営する公式Xでチェック

@Koalakarl2001 post on X

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ニックネームは「コアラカール」。オーストラリアと可愛いマスクにちなみ、そう呼ばれているようです。SNSのアカウントにも使われています。そこに頭脳明晰、ゴルフも強いとなれば、人気が出ないはずがありません。プロ転向当時はそれほど注目されていたわけではありませんが、コーンフェリーでの優勝、そしてPGAツアーでの初優勝と、一気に駆け上がってきたスピードはルーキーのなかでも一番でしょう。

さて、彼のゴルフですが、24年のコーンフェリーのスタッツを見ると、ドライビングディスタンスは326.6ヤードで3位。特に飛距離の求められるコーンフェリーでも、飛ばし屋の一人でした。一方で平均パット数も7位でバランスのいいゴルフが持ち味といったところでしょうか。

飛ばし屋なのに安定しているのは、腰から腰の安定したスウィングプレーンがあるから。オーソドックスというよりどちらかといえば特徴的で、ダイナミックなスウィングに見えますが、いわゆるビジネスゾーンと呼ばれる腰から腰のクラブの動きは実に安定しています。

優勝後は少し苦しんでいる感もありますが、今はまだコースとPGAツアーの雰囲気に慣れる時期でしょう。また一人、今後が楽しみな若手が出てきました。

◆参考ポイント=ハーフショット練習で腰から腰のビジネスゾーンを安定させる

画像: スウィングを作るのはハーフショットやスリークオーターショットという佐藤プロ

スウィングを作るのはハーフショットやスリークオーターショットという佐藤プロ

アマチュアの皆さんは、フルショットの練習ばかりしがち。少しでも飛ばしたいという気持ちはわかりますが、スウィングを作るのはハーフショットやスリークオーターショット。それによって腰から腰のいわゆるビジネスゾーンを安定させることが大事です。

その結果、ミート率が上がり、ムダな力みが抜ければ、むしろ飛ぶようになる。それがゴルフです。

※週刊ゴルフダイジェスト2025年6月10日号「さとうの目」より

期待のルーキー、カール・ピリップス

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