千葉の酒井元土さん(38歳・左片麻痺)
千葉の酒井元土さん(38歳・左片麻痺)が脳出血を発症したのは29歳のとき。病院で目覚めたときは、「左半身がこんにゃく人間みたいに感じられた」のだそう。そして、この使える“右手”をいかに使うかの研究が始まるのです。
「僕は右利きです。そして体の右側しか使えない。最初はレンタルクラブを使い、左右どちらで打つことも試しました。大学(日体大)の授業で、野球やソフトを子どもに教えるため、両打ちを練習していたから打てるんですよ。右打ちは当たれば飛ぶけれど全部右に曲がる。ドライバーで平均100ヤードしか飛びません。練習場のコーチも物理的は絶対に左打ちのほうが得だと言いますし、力学的に考えても左打ちのほうが関節をロックしやすくブレないんです。飛距離は100ヤード以上伸びました。芯に当たった気持ちいい感覚って忘れられなくなります」
リハビリ初期は暴れてチェーンでベッドに縛られていたこともあるという酒井さん。この“馬力”がゴルフの邪魔をすることもしばしば。最近は、振り回さないスウィングを覚えて方向性がよくなり、スコアもまとまるようになりました。
「昔は3Xのシャフトをブン回して260ヤード飛びましたけど、フェアウェイにいかないと意味がない。今はわざと飛ばさないように、軟らかいシャフトを使いティーを低くしてコントロール重視にしてゆったり振っています。キャリーで210ヤードくらい、転がれば230ヤード飛びます。また、アイアンは打ち込みが上手くできないから距離感がバラバラになるので、ヘッドの大きいやさしいモデルにし、払い打ちでいいと考えたら安定しました。片手でも動かし方を変えればスウィングはよくなりますし、道具を変えるだけでもスコアは変わります」

元アメフト選手の屈強な体を使った豪快なスウィング。フィニッシュまでムリなく大きく振る。「最近、クラブに仕事をしてもらうという発想になりました。動く体のパーツが少ないのに、関節を上手く使うのは難しいんです」(酒井)
元アメフト選手の屈強な体を使った豪快なスウィング。フィニッシュまでムリなく大きく振る。「最近、クラブに仕事をしてもらうという発想になりました。動く体のパーツが少ないのに、関節を上手く使うのは難しいんです」(酒井)
兵庫・尼崎の常本剛志さん(51歳・左片麻痺)
兵庫・尼崎の常本剛志さん(51歳・左片麻痺)が脳梗塞を発症したのは49歳のとき。手術後目覚めて辛かったのは、大好きな野球ができないと感じたことだと言います。さて、ゴルフでも“飛ばし屋”だった常本さん。ゴルフ再開後、いかに飛距離アップするかに日々取り組んでいます。片手だからこそ、“手打ち”にならないように気を付けているそうです。
「やはり体を使うことが大切です。DGA(障害者ゴルフ協会)の大会にも参加されてる理学療法士の本田さんは、僕のセラピストでもあるんですけど、右手片手打ちのスタイルが僕と一緒なんです。だから、コツを教えてもらっています。ポイントは右手のひらにマメができたら、グリップを握りすぎだということ。確かにマメができているときは調子が悪いんです。クラブはレディス・シニア用の軽いものにしています。ドライバーのロフトを17度にして、球が上がるようになりました」

右軸になりやすい。左1軸でスウィングできるようにすることが必要だと考えている。「この右手のひらにマメがでたらダメなんです。でも、野球のクセでグローブせずに素手で握ります」(堂本さん)
右手だけで5、6回、大きめのワッグルを行い、その勢いでトップまで上げ、リズムよく振ります。
「昔の仲間には、このルーティンやリズムは前と一緒だと言われます。ただ、スロープレーにだけはならないように気を付けています」
電車で河川敷のショートコースによく通うという常本さん。
「体が悪いのにゴルフの帽子をかぶってクラブを持って、変な人に見られてますわ。席を譲るべきかも迷わせてますね(笑)。でも、ショートコースで30ヤード飛べば楽しめますし、やっぱり外でやるんは楽しいものやから」
こうして日々の体験から発見したことを、アプリの「note」で発信して、同じような障害者ゴルファーの役に立ちたいと考えている常本さんなのです。
鹿児島・川内の末廣信吾さん(49歳・左片麻痺)
鹿児島・川内の末廣信吾さん(49歳・左片麻痺)が脳出血を発症したのは41歳のとき。り患部が脳の中心に近かったので温存治療となり、「最初は元の体に戻れると思って辛いリハビリも頑張った」と言います。しかし今、末廣さんは、体の左側が動かない自分を冷静に観察し、ゴルフのスウィングにも生かしています。
「しけこんでも仕方ない、リハの先生なんかとも、『ああしたいこうしたい』『何ができるかなあ』と言いながらやっています」
会社経営者として、何事も道筋を立てて考え、進めていく末廣さん。ゴルフ歴は20年。4年前に再開し、半年前から大会に出るようになり、より“考える″ようになったと言います。
「当時から100は切れていないんです。でも今のほうが練習時間は多いですよ。先生はYouTubeです。いろいろな人の動画を見て、どういう切り口で説明しているのかを理解するようにしています。それらの情報が合わさって、ようやく自分のなかで少しずつ固まってきている。まだ正解は見えていませんが、大会に出ることで自分の課題が見えてくるようにもなりました。ドライバーは打感が好きだからピン。3番ウッドと7番ウッドがテーラーメイド、アイアンはスリクソンの顔が好き。パターにもこだわり始めて今はタイトリスト(スコッティキャメロン)を使っています。バラバラでこだわりがあるんかないんかわからんでしょう(笑)。でも、最近はちょっと当たりがよくなってきてるから。本当はもう少しゆっくりプレーしたほうがいいんかもしれないけど、スロープレーにならないように気にしないといけないですからね」

アドレス時だけは左手を添えて、その後は右手だけで振る。「最初から右手だけだと、体が開いてしまいスライスしたり左に引っかけたりする。最初に左手を添えることですごく安定します」(末廣さん)
右手片手でも、大きなスウィングアークでしっかり芯にヒットさせる末廣さん。
「自分でプレーしていても、『90台の前半が出ないのはどうよ』といつも自分に言う感じなんです。2オンしているのに、その後にグリーン周りでちょろちょろやったり。でもゴルフなんてそんなもんやないですか」
PHOTO/Yasuo Masuda