「週刊ゴルフダイジェスト」や「みんなのゴルフダイジェスト」で、障害者ゴルフの取材記事を執筆したベテラン編集者が、日本だけでなく世界にアンテナを巡らせて、障害者ゴルフのさまざまな情報を紹介する連載。今回は15歳の女子ゴルファーについて。

甲子園では左手指欠損の球児の活躍が話題になっていますが、ゴルフ場でも猛暑に負けず躍動する15歳の女子ゴルファーがいます。前回、この連載で紹介した「JAPAN WR4GD TOUR SERIES」の「東海マスターズWR4GDカップウイークエンドシリーズ」(岐阜麗·澤瑞浪GC高原C)に参戦した中島早千香(なかじま・さちか)さんがその人。大会のスコアは、1日目「95」、2日目「94」。グロスの部では8位、ネットの部では6位(HC17.5)に入りました。

画像: 自他ともに認める“人見知りキャラ”。しかし、コースでは負けず嫌いなアスリートだ。ずっとロングヘアで「ショートは自分には似合わないんです」。常に“しん”がある早千香さんです

自他ともに認める“人見知りキャラ”。しかし、コースでは負けず嫌いなアスリートだ。ずっとロングヘアで「ショートは自分には似合わないんです」。常に“しん”がある早千香さんです

当日の気温は39度近くあり、「とにかく暑かったです」という早千香さん。「(両日とも)前半はよかったけど、後半は崩れてしまいました。1日目の後半は(ショットで)スライスが多く出て、2日目はパターが入らなかった」と自己分析しますが、2日目の前半は3番パー5でバーディを奪うなど「44」を出し、80台も目前のスコア。同伴競技者の“おじさま”ベテランゴルファーから「負けないぞ!」とライバル視されるあたりが、早千香さんの現在の実力を物語っています。

私が早千香さんと初めて会ったのは2年ほど前。日本障害者ゴルフ協会(DGA)の大会に参加していた彼女のスウィングを後方から見て「美しい、カッコいいなあ」と素直に思いました。トップもきっちり決まり、大きなスウィングアークで、素晴らしい弾道のボールを飛ばすのです。当時の飛距離は150ヤードくらい。もちろんゴルフは「細かい技術」がどんどん必要となってきますから、スコアはまとまっていませんでしたが、その“粗削りさ”も魅力でした。ちょうどその頃、アメリカで行われる世界大会「アダプティブオープン」(USGA主催)で、早千香さんと同じような手の障害を持つキュートな女子大生のプレーを見てきたばかり。「早千香さんもきっと、世界の舞台に行ける!」と感じました。

画像: 右手より左手が短いため、自身で工夫した「スプリットハンド」でクラブを握り、大きく美しい軌道を描きながらスウィング。ほれぼれします

右手より左手が短いため、自身で工夫した「スプリットハンド」でクラブを握り、大きく美しい軌道を描きながらスウィング。ほれぼれします

中島早千香さんは、先天性の障害を持ち、生まれつき左手前腕部の橈骨と母指が欠損しています。もともと体を動かすことが大好きで、小4までは水泳をしていました。個人メドレーまでしていたそうですから、アスリートぶりがうかがえます。ゴルフは3つ上の兄の練習について行ったことがきっかけ。小2のときに始めました。

「最初から1時間半で700球打ちました。楽しかったんだと思います」。ゴルフに対しては「よくわからないけどストレスが解消できる。ドライバーは当たると気持ちよくてスカッとする」と感じたそうです。小4からは水戸市の自宅から近い練習場のスクールへ。そこの中島孝之コーチをはじめ、3人のコーチに今も教わっています。

画像: 大会参加選手は全員年上だが、「皆さん、とても優しくしてくれます」。しかし試合となれば、ライバルとして負けるわけにはいかないのです!

大会参加選手は全員年上だが、「皆さん、とても優しくしてくれます」。しかし試合となれば、ライバルとして負けるわけにはいかないのです!

試合は、一般ジュニアの大会にも出場したことはありますが、皆があまりにも飛ばすし、上手すぎて、少し引け目を感じてしまいました。そんなとき、父・佑樹さんがWebサイトで調べてDGAの存在を知りコンタクト、試合に出るようになったのです。学校の部活ではソフトテニス部に所属する早千香さん。テニスも大好きです。

以前聞いたときには、「テニスは部活であり、皆で話をしたり、楽しみながらやっています。ゴルフは本格的にやっていくもので、いいショットを打つのが楽しいんです」と答えてくれましたが、それは今も続いているようす。中3の早千香さんは本来ならば受験勉強で「引退」の夏。しかし、中高一貫校に通っているので、そのまま高校生の練習に参加することもできるのだそう。この夏も二刀流です。「テニスも好きなので、ゴルフとどちらも楽しみたいです」。

さて、会うたびに目標を聞く私に「100を切りたい」と言っていた早千香さん。これが1年ほど前には「コンスタントに100を切りたい」に変化し、今や100切りは当たり前の域に入っています。上達した一番の要因を聞くと、「コースにいっぱい行くようになったからだと思います」ときっぱり。そして、「スライスを減らすために、中島コーチから、右足を一歩引いて打つように言われました。以前もやっていたんですけど、気づいたらやらなくなっていたので。また始めたらよくなったんです」と、スライスもOBも減り、今やドライバーの飛距離は170~180ヤードになりました。

画像: ショートゲームの向上がスコアアップにつながった。インスタもチェック!「障害者ゴルフの普及に向けて何か情報発信できないかと思い始めました」(父)@sachika.golf

ショートゲームの向上がスコアアップにつながった。インスタもチェック!「障害者ゴルフの普及に向けて何か情報発信できないかと思い始めました」(父)@sachika.golf

また、苦手だったアプローチやパッティングは、練習を重ねたことはもちろん、クラブを替えたことも大きいそう。基本は“ゴルフ好き”なおばあちゃんのクラブを使っていますが、中島コーチのアドバイスもあり、58度と54度の2本のウェッジを入れたのです。「前より、ヘッドが重く感じられるようになってイイ感じになりました」。ヘッドが利いているので、打ちやすくなったのです。パターもオデッセイの2ボールパターに替えました。こちらはおじいちゃんの趣味だそう。

父・佑樹さんは娘の成長をこう語ります。

「ドライバーはスライスがなくなったのと、パワーがついてきたので飛ぶようになったと思います。UTでの100~120ヤードくらいのショットも精度が上がり、3オンできるようになったのも素晴らしい。パターはまだ感覚的に慣れていなくて苦戦しています。パットが入ればもっとスコアはよくなると思っているんです」

15歳の成長は日進月歩で、何より「ゴルフ、前より好きになった?」と聞くと、恥ずかしそうにうなずく早千香さんの姿が、とてもまぶしく感じられたのです。(次回に続く)

写真/中島佑樹、増田保雄

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