「週刊ゴルフダイジェスト」や「みんなのゴルフダイジェスト」で、障害者ゴルフの取材記事を執筆したベテラン編集者が、日本だけでなく世界にアンテナを巡らせて、障害者ゴルフのさまざまな情報を紹介する連載。今回は15歳の女子ゴルファーについての後編。
 
▶前編 猛暑を跳ね返す15歳の挑戦。左手前腕部の橈骨と母指欠損の女子ゴルファー・中島早千香が見せた成長と笑顔

すっかり100の壁を超えた中島早千香さん。練習はスクールも含めて週2~3回、ラウンドは月1回程度で、試合があればその回数は増えます。ゴルフ仲間は主に、平均スコア90~95の祖父と平均スコア85~95の祖母。

「おじいちゃんにはときどき勝つこともあります。おばあちゃんには負けるかな」

家の近くのコースに行きますが、お2人も孫と一緒に大好きなゴルフが楽しめることがすごく嬉しいようです。「孫のため」と、水戸グリーンCCの会員になったとのこと。「このコース、ジュニアの料金がすごく安いんですよ」としっかり者の早千香さん。

父とも2カ月に1度くらいラウンドしますが、「お父さんはOKパットありなので、私と同じくらいのスコアかな。最近、お母さんも始めました。同じスクールで習っています」。早千香さんがゴルフを始めるきかっけとなった高校3年生の兄はしばらくゴルフから離れていましたが、妹の影響で、復活!「でもお兄ちゃんは受験生なので、遊びの感じ。90ちょっとで回れます」

画像: 麗澤瑞浪GC高原C「東海マスターズWR4GDカップウイークエンドシリーズ」に参戦。世界ランキング着々と上がってます

麗澤瑞浪GC高原C「東海マスターズWR4GDカップウイークエンドシリーズ」に参戦。世界ランキング着々と上がってます

今月上旬に行われた岐阜の大会には家族4人で行きました。父が皆を乗せて運転し、試合中、兄と母は観光していたそう。こんな“家族旅行”も思い出に残るかもしれません。自分のことを“人見知りキャラ”という早千香さん。でも、試合でラウンドを重ねるにつれて少しずつ、物事や人に対しても積極的になってきているようです。“おじさま”ゴルファーはもちろん、女性ゴルファー、海外ゴルファーと回る機会も増えます。

また、DGAの大会に世界ランキング対象の試合が増えて、「モチベーションになります。ランキングは上がったら嬉しい。行けるならできる限り参加したいです」。パラリンピックを目指すアスリートとして、「ゴルフで国際交流もしたい」と考える国際人として、世界への道は明るく照らされています。

「海外は2歳くらいの頃、家族でグアムに行ったことがあるみたいですけど覚えていません(笑)。世界大会には出てみたいです。英語は、ギリギリ(英検の)3級の1次は受かったけど、話すほうはなかなか難しいです。でも今は翻訳機がありますから。人見知りが出なければいいけど……」

画像: ライバルで仲間の存在は心強い。上は香港から参戦する同世代のアンドレアス・マーくんご家族と。下は、アメリカの世界大会で部門2位になったこともある片倉郁江さんと。「片倉さんに4月の試合では勝ちました(笑)」

ライバルで仲間の存在は心強い。上は香港から参戦する同世代のアンドレアス・マーくんご家族と。下は、アメリカの世界大会で部門2位になったこともある片倉郁江さんと。「片倉さんに4月の試合では勝ちました(笑)」

同じスクールには、幼稚園から小学生くらいまでの小さな仲間たちがたくさん増えました。

「私の年代にはアスリートコースといって、プロを目指すようなクラスもある。同世代の子は女の子でも200ヤード飛びます」

この月例会などに出場するのは少し苦手。やっぱり差を感じてしまいます。でもきっと、練習の先には、同じ舞台が待っていると思うのです。父と始めたインスタグラムでは、障害者ゴルフの普及に向けて、早千香さんのゴルフの経験を情報発信しています。

「特に、同じ障害(橈骨欠損・母指欠損)やジュニア世代に『ゴルフという選択肢がある』ことを伝えられたらいいと思っています。早千香自身も競技者増加や多様性がパラリンピック正式種目採用につながると認識しているようです」(父・佑樹さん)

画像: アプローチは10~20Yくらいの短い距離を練習した。バンカーショットも練習してコースでもしっかりと出せるから、苦手意識はない。「でも、砂が硬いと難しいですね」

アプローチは10~20Yくらいの短い距離を練習した。バンカーショットも練習してコースでもしっかりと出せるから、苦手意識はない。「でも、砂が硬いと難しいですね」

人見知りでシャイだけれど、期待されたり目立つことは嫌いではない、自分が頑張る姿を見て、障害者ゴルフが広がってくれたらいいな、とも思っている早千香さん。現在のゴルフ課題はアプローチとドライバーの飛距離を伸ばすこと、そしてパッティング。

「前は好きじゃなかったけど、今はアプローチも好きになってきました。パットの打ち方は、小山田(雅人)さんがいつも考えて教えてくれます。ラインの読み方が難しい。読みすぎることもあるし。考えすぎかもしれない。パターで変なミスをしなければ80台は出るかな。ショットは悪くてもどうにか転がってくれるときもありますし」

目下のベストスコアは85。伸び盛りですから、あっという間に更新するでしょう。
早千香さんのプレーを見ていて感じること。それはゴルフの大事「プレーファスト」です。ご家族やコーチの教えもあるでしょうが、「時間をかけても意味がない、結果は変わらない」とは本人の言葉。シンプルにクールに。早千香さんの目指すゴルフはここにあるのかもしれません。

改めて、ゴルフの魅力を聞くと「ストレス解消できる。大人になっても楽しめること」と話す早千香さん。ゴルフの目標は「試合で80台を出すこと、片倉(郁江)さんに勝つことです」ときっぱり。「ゴルフは前より楽しくなってきました。いい感じに当たったときとか寄ったとき、綺麗にパターが入ったときが楽しいです」

画像: 昨秋は家族総出で福岡に遠征!早千香さんとゴルフを通じて、行動範囲も人とのつながりも広がります。父・佑樹さんは「レゴ シリアスプレイ ファシリテータ」や「日本パラスポーツ協会公認初級パラスポーツ指導員」の資格を取得し。様々なつながりを生んでもいるのです

昨秋は家族総出で福岡に遠征!早千香さんとゴルフを通じて、行動範囲も人とのつながりも広がります。父・佑樹さんは「レゴ シリアスプレイ ファシリテータ」や「日本パラスポーツ協会公認初級パラスポーツ指導員」の資格を取得し。様々なつながりを生んでもいるのです

この後の試合の予定は、9月下旬の「柏オープン」と、見事予選を通過して臨む11月中旬の「日本障害者オープン」になります。

将来の夢は、「福祉関係がいいかな。義肢装具士になりたいです」と語っていた早千香さん。さらに、世界で輝くゴルファーとの“二刀流”の道も見えてきていると嬉しいですね。

写真/中島佑樹、増田保雄

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