やってはいけない③親の考えを押し付ける
レッスン会は盛況で、金子プロが1人の参加者を見るのは短い時間に限られた。その状況でも子どもたちの目線に立ち、ショットを誉めて笑顔を作る。派手なリアクションで場を盛り上げることはしないが、金子プロの飾らない人柄がよく表れた素敵な場になったと感じた。ただ、そんな中で金子プロが驚いたというのが、子どもを差し置いて話してしまう親御さんの存在だ。
「この日会った子たちは、みんな僕とは初めましての関係。だからまずはスウィングを見せてもらって、どんなことに悩んでいたり気になることがあるのかを話したかったんです。でも僕が選手と話す前に親御さんがワーッと割って入りしゃべり始めてしまって、子どもがそれを眺めているみたいなことが多々ありました。僕が選手に質問しても親御さんが答えるようなこともかなりありましたね。どうして『自分が考えていること=子どもが考えていること』になっちゃうのか、ちょっと怖いです」
金子プロは以前、ゴルフを始めた小学生から中学生の頃まで、父親からの暴力に苦しんでいたことを告白している。ゴルフを楽しいと思ったことがなく、学校へもたびたび行かせてもらえなかった経験を持つ。そんな彼の目から見ても、子どもを差し置いて前へ前へと出てくる親御さんたちの行動は異常に映ったようだ。

本人が自分の頭で考えることが大事
「日々、時間もお金もたくさんサポートしているから気持ちが入ってしまうのはある程度わかりますが、親と子どもは別々の人間ですからね。たぶん最初は子どものために良かれと思ってやり始めたことが、自分の考えを押し付けることに発展して、最後には自分の思い通りにいかないとイライラして怒ってしまうんでしょうね。でも、そんなことされたら絶対ゴルフが嫌いになっちゃいますよ。子どもの頃の記憶が『嫌なことをやらされ続けたことだけ』なんて悲しいじゃないですか」
この“先回り”は、子どもたちの成長という点でも問題があるという。
「自分の意見を言う場を日々奪われてしまうと、そのうち子どもは自分の頭で考えることをやめちゃうと思うんですよね。全部親が決めるし、それと違うことをすると怒られるってなっちゃうので。それってかなりヤバいですよね。自分の頭で考えたり意見を言うのって、大人になって突然できるようになることじゃないと思うんです。
子どもの頃からの積み重ねで少しずつできるようになっていく。ゴルフも同じで、できないことにチャレンジして試行錯誤するから技術が身に付くんですが、それを全部親がレールを敷くって子どものためにはなっていないと思います。今日も僕なりにアドバイスをしても親御さんの中には『でもそれって……』みたいに入ってきちゃう方がいました。普段のレッスンでも同じようなことをされていたら、コーチも大変だろうなって思います(笑)。
僕は選手ですが、プロのコーチがするアドバイスは特定の動きがおかしいからという理由だけではしないんですよ。どのタイミングでどんな言葉で、そしてそれをやったらどうなるかまでを想像して考えて伝えています。自分の考えを子どもに押し付けて言いなりに動かすより、子どもたちの言葉や行動を見守るように接したほうがもっと子どもが伸びるのにと思いました」
プロになって!は親のエゴ
殴っても怒鳴っても叱っても絶対上手くはなりません!by金子駆大
親御さんたちの“カットインコミュニケーション”と同じくらい驚いたというのが、選手たちの技術レベルの高さだ。
「お世辞抜きに全員スウィングを見た瞬間に『上手ッ!』って声が出ちゃいました。それぐらい本当にビックリしました。だからこそ、細かい技術的なことって教え込む必要がないと思うんですよね。ここまでできてるんだから、あとは自分で考えてやってごらんって思いました。もちろん試合に出れば順位がつくので、人と比べれば“差”はあると思います。でもそれを埋めたいと思うのは選手本人。親が無理やりやらせても意味がないし、たとえそれで身に付いたとしても一過性のものなので継続的な成長にはつながりません。大会で上位に入ってくると『プロにならせたい』なんて思うかもしれませんが、本当にジュニアの頃の成績なんて、その後のキャリアにまったく関係ないですから。勝ったら『いつもがんばってる成果だね』、負けてしまったら『またがんばろう!』でいいじゃないですか。子どもは親のロボットじゃありませんからね!」
PHOTO/ARAKISHIN
THANKS /東名カントリークラブ




