上手くなりたければ、ミスがミスとわかる軟鉄鍛造の1枚モノ
GD 今日は軟鉄鍛造のいわゆる「1枚モノ」と言われているセミストロング系アイアンについてお聞きします。ロフトで言うと7番で30度、ピッチングが44度くらいのアイアンがザワついているような気がします。長谷部さんは「軟鉄鍛造の復権傾向にある」と言われていますが、軟鉄鍛造のセミストロング化はどう感じていますか?
長谷部 中空構造のアイアンのほうが、ウッドのように設計の自由度が高く、タングステンを入れたり、打感を良くする工夫として、樹脂を入れたりすることでフィーリングを向上させる技術が高まってきて、2020年くらいから中空アイアンがけっこう流行ってきましたね。
上級者も使える、プロも使う傾向が高まったと思うんですけど、やっぱり根底にはマッスルバックとか、シンプルな鍛造のセミキャビティがツアーユースでは支えられていて、「スリクソン」の『ZXシリーズ』が2代続いて売れていたり、「ブリヂストン」の鍛造アイアンも売れていることからも、鍛造人気が根底にあるんだなと思います。
GD 1980年代の話になってしまいますが、一時世界中のアイアンから軟鉄鍛造が消滅するという危機があって、日本の「ミズノ」がフォージドアイアンを作り続け、タイガー・ウッズが使ったことがきっかけで軟鉄鍛造が見直される。そこから30年以上経っていますが、軟鉄鍛造がまた見直されるというのは、何か流れ的みたいなものがあるんですか?
長谷部 あるというか、ドライバーは460ccという体積制限の中でも進化をずっと続けてきています。最近は素材も工夫されていたりするんですが、アイアンは限られたサイズや重さの中で開発競争がされていたけれど、一番衝撃だったのが「キャロウェイ」の『ビッグバーサ アイアン』の大きなヘッドでした。それをオマージュした『ゼクシオ アイアン』などが日本では席捲していて、チタンフェース全盛時代が2000年前半にはあったんですよね。
ですが、そこでも当時「ブリヂストン」が頑張って鍛造アイアンを作り続けていましたし、もちろん「ミズノ」もあったので、日本が鍛造アイアンの市場を守り続けてきたような気がしますけどね。
GD なんだかんだ言っても鍛造の一枚モノの打感って評価されるじゃないですか。それと飛距離が常に比べられてきて、飛距離優勢の時代と打感優勢の時代がなんとなく交互に起きているような気がします。しかしどちらも消滅することなくアイアンは進化してきたように感じます。
長谷部 一時大きくなったアイアンのヘッドサイズが少し戻ってきていることにもつながっていると思うので、「そんなにヘッドを大きくしなくても済むんだったら軟鉄でもできるじゃん」っていうのがあると思うんですよね。
今日サンプルで持ってきてもらったフォーティーン『TC-777」』(2013年発売)は、非常にシンプルなデザインですけど、そこそこヘッドも大きいし、鍛造でできているというのを見せられると、「なるほどそうだよね」と思います。
シンプルな構造なので軟鉄鍛造でもできる。製造技術が上がってきているので、重心調整のタングステンを入れるとか、中空構造にしなくても、「単一素材としての心地よさ」という言い方をしたいんですけど、軟鉄の良さを生かしながら機能を進化できるようになるんじゃないですかね。
GD 「ミズノ」の打感ってすごく評価されるじゃないですか。いわゆるミズノ特有の「鍛流線」がフェースからつながっているからだと言われています。ここに異素材を加えると打感に影響してくるものなんですか?
長谷部 打感の影響はあると思います。タングステンで無理やり何かをしようとすると重心位置も変わるので影響があるでしょう。構造が最終的には打感につながり、音の波形にも影響を与えるはずなので、異素材が入るとフィーリングが違うという評価にはなるんでしょうね。
GD 打感=打音だとすれば、軟鉄鍛造の一枚モノと異素材が入った複合形のフォージドでは、打感、打音が多少変わってくる。
長谷部 自分は今、古いモデルで小さいヘッドのキャビティアイアンをリメイクして使っていますけど、単一素材の一枚モノはちょっと芯を外すとカチンと言いますもんね。
それを良しとするか悪いとするかなんですけど、芯に当たった時はグチャと締まった音がするんですけど、芯を外せばカチンと手に響き、耳に刺さるような音がするということも軟鉄の良さとすると、芯でとらえた時のソフトなフィーリングの裏返しとして芯を外せばミスがはっきりわかるというところが軟鉄の良さのような気がします。