「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか? その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられているようです……。

昔のフィーリングで打てる軟鉄鍛造のセミストロング

GD 今、アスリート系アイアンのストロング化が進んでいて、代表的なモデルで言えば『タイトリスト T250』やピン『i240』があります。その中で軟鉄鍛造の一枚モノとなると、キャロウェイの「Xフォージドシリーズ」にセミストロングモデルがあり、中空構造と競合しています。

長谷部 日本のメーカーはなるべく上級者モデルは、鍛造もしくは鍛造のコンビネーションでの部分中空や重量物の複合モデルをラインナップしています。海外のメーカーでは「キャロウェイ」が面白いですね。「タイトリスト」みたいな複合化を『APEX』ではやっているけど、日本向けにはシンプルな構造の『Xフォージド』を残しています。
 
2024年にモデルチェンジをしましたが、キャロウェイって構造の進化、素材の進化を得意とするメーカーがあえて1枚モノを日本市場向けに出してくるところがとてもユニークですし、原点回帰って言われれば原点回帰なのかもしれないですけど、他の海外ブランドとは違う動きをしているので日本市場では受けますよね。

GD アイアンの進化を見ていくと、キャビティが出て以降、くぼみを広く、重心を低くというように削りとか形状を変えながら進化してきたと思います。そのひとつがアンダーカットキャビティだったりするんですが、軟鉄鍛造の一枚モノの良さを残しつつ性能を出すところに魅力があったと思います。

長谷部 シンプルなキャビティで、よりキャビティを深く。昔は本当にマッスルバックにポコッと穴を掘ったようなものから、より深く、より広く、鍛造技術が進化していって、さらに機械加工で精度を出していくことができるようになった。とはいえ、ヘッドサイズが限られた中でプレーヤーに対する心理的な効果も考えながら、軟鉄鍛造アイアンもやさしくなっているという思わせ方も重要だと思います。
 
あとはロフトが立っているってことも飛距離を気にするプレーヤー、年齢が上がってきたプレーヤーに対しては、昔のフィーリングで打てるアイアンがラインナップされているっていうことだと思います。

GD 最近のアスリートモデルの7番のロフト30度、ピッチング44度の源流を考えると、実は今日お持ちしたフォーティーン『TC-777』が2013年に実現しているので、決して新しいテクノロジーではありません。

長谷部 そうですね。見せてもらった『TC-777』はすごく緻密に考えられているなと思います。シンプルな形状なんですけど設計する人たちが見れば、ヒール側まですごく彫り込んでいるし、ショートネックにしてある。ソールの幅も広めで低重心にする効果を出しているので、ロフトを立てても十分球を上げやすくできるという外形上のポイントをとらえているので、これを2013年に作っていて、7番のロフトを30度で作っていたことは先見の明があるなという気がします。

GD ロフト30度は軟鉄鍛造だからできないという話ではないわけですね。

長谷部 もちろんです。昔から6番アイアンをそのロフトで作っているわけなので、作れないわけではありません。

GD 番手に合わせた球の高さとか寛容性とか、そういったものを形状で出そうとするのか、それとも複合素材で実現しようとするのか?

長谷部 「フォーティーン」の開発思想のひとつにペルソナを大きく広げずに、「あるコアターゲットターゲットプレーヤー」をイメージして作るのがコンセプトにあると聞いたことがあるので、まさにこの『TC-777』も上級者のちょっと飛距離が落ちてきているどなたか向けに作られたんじゃないかなという気がします。

GD いろんなものを詰め込んで性能アップなのかもしれませんけど、そういったものに見慣れると、逆にシンプルなものがよく見えます。

長谷部 製造技術があるから、あれもできたり、これもできたりと可能性は広がるんですけど、削ぎ落としていく考え方も当然あって、その中のひとつの答えがセミストロングロフトの軟鉄鍛造の1枚モノたったような気がします。
 
それが2024年に『Xフォージドスター』が女子プロを中心に受けて使われたことで、アマチュアにもかなり人気が出た。もうこれが証拠なんじゃないですかね。

GD 『Xフォージドスター』に集まってきてきたゴルファーは、以前は何を使っていたんですかね。

長谷部 一旦は複合系のロフトの立った中空アイアンとか高反発素材の鍛造系アイアンだと思うんですよ。もしかしたら、ちょっとミスしたけど結果オーライというやさしさや、思いのほか飛びすぎてしまった高機能が逆に物足らなくなってきたんじゃないですかね。

GD ゴルフのクラブってミスを許し始めると上手くならないという話もあるわけで。

長谷部 ふんだんに練習する機会のないアマチュアだからこそ、ミスはミスとしてはっきりさせておかないと、いつの間にかおかしなことになってしまうこともあると思います。プロは毎日のように球を打って、自分のスウィングをちゃんと理解して道具を選べるから許容性の高いもののほうが結果としてはいいのかもしれないんですけど、アマチュアはミスがミスとしてはっきり分かる。そこから得られる音と手に響くフィーリングの差というのが上達にもつながるんじゃないですかね。

GD 最近発売になったテーラーメイド『P8CB』は、スペック的に7番のロフト30度、ピッチング44度で、『Xフォージドスタープラス』と同じ設定になっていますが、今後、軟鉄鍛造1枚モノのセミストロングの広がりみたいなものは考えられますか?

長谷部 『Xフォージドスター』はロフトが立っているけれど、それほどオフセットも強くなくシンプルな形状に見えます。ただ今回のテーラーメイド『P8CB』は非常にオフセットが強く入って、フェースも大きいです。ちょっとターゲットが違うのかなという気がします。
 
なので、やさしい鍛造アイアンを探している人にはオフセットが強く、フェースの大きいものがあってもいいと思うんですけど、本当にこのフェース形状が良くて使いたい人は中空のほうがいいんじゃないの? と正直思ったりもします。構えた時に感じる構えやすさと、打ってみてのやさしさ。『P8CB』はちょうどボーダーラインにあると思うので人によって評価が分かれるアイアンなのかなって気がします。

GD アスリート系のセミストロング化を「30度」とすると、ここのあたりで定着しそうな感じはありますか?

長谷部 それはすごく感じます。「ユーティリティ、ショートウッドの番手幅が広がってくる。だからロングアイアンはいらないよね」、「ロングアイアンは中空にして、違った形のユーティリティっぽい高機能アイアンも選択できる。そういったものをブレンドで組み合わせてみましょう」みたいなことをいうメーカーが増えてきたことを考えると、もうすでに7番が試打クラブの中心になっていることもあり、7番アイアンがアイアンセットの一番上の番手というとなれば、もはや34度とかの7番はどんどんなくなっていって、主軸としては30度時代を迎えてしまうんじゃないかなって気がします。

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