「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか? その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられているようです……。

ドライバーは「やさしさ」と「飛び」を繰り返して進化

GD 「ドライバーの進化」を考えたときに、「やさしさ」と「飛び」のジグザク進化をしてきたのではないかと思うんです。ボールの進化は「スピン」と「飛び」。プロが「もっと止めたい」と言うと次のボールはスピン重視の設計となり、「もう少し飛ばしたい」と言うと飛び重視の設計になるということを聞いたことがあります。ドライバーに関しても同じで、やさしさ重視と飛び重視のジグザク進化だったのではないかと。

2025年は「ピン」の「G440シリーズ」が売れたことからも、「やさしさ優位」だったのかな?と思うのですが、ドライバー市場を見ると、コアモデルの『G440MAX』が1位で、2位が『G440LS』となると、性能ではなくブランドで選ばれているのか? わからないところがあります。

長谷部 「やさしさ」と「飛び」で言ったら、やさしさ優位の時代であることは間違いないでしょうね。

GD それと最近感じるのは、スピードの時代(高初速)ではなくなった?

長谷部 初速の限界もあるし、「これ以上を期待してもしょうがない」と作り手もユーザーもわかっているのだと思います。「ピン」に関して言うと、『G440LS』は『G440MAX』ではちょっとスピンが入りすぎてしまう人のためのドライバーで、極端なロースピンモデルじゃないんですよ。微妙な”さじ加減”で「ピン」の特徴であるシャローフェースと、重心が深くてやさしいモデルの範疇の中で微妙に重心を前に出しているので、「テーラーメイド」のLSとか「キャロウェイ」のトリプルダイヤのように、ものすごく重心が前にあるわけではない。

「LS」の名前の付け方とお客様の良い意味での誤認とが相まって、「G440LS」が売れているわけです。自分もLSモデルが好きだし合うタイプだと思っていたんだけど、「ピン」のLSを打ったらそこそこのスピンで曲がらないので「これがいい」になった。でもテーラーのLSとかキャロウェイのトリプルダイヤを打つとスピンを減らせて1発は飛ぶんだけど安定性がない。

ここにアマチュアのジレンマがあって本当の最大距離を狙うのか、そこそこ吹き上がらないで安定して飛ぶドライバーがいいのかって言ったら、後者を選んじゃった。自分はやさしさのゾーンにハマってしまったということですね。

画像: 今年のドライバー市場を席巻した「G440シリーズ」の3モデル。左から『LST』、『MAX』、『SFT』

今年のドライバー市場を席巻した「G440シリーズ」の3モデル。左から『LST』、『MAX』、『SFT』

GD 2008年に飛びの最大要素の高反発をもぎ取られたわけじゃないですか。そこから10年間飛びに対してメーカーも消極的で、「やさしいが飛ぶんだよ」って言い続けてきた時に突然プロギアが「ギリギリ」でスピード(初速)を前面に打ち出し大ヒットしました。それも約10年前の話になるんですが、その後、スピード時代に突入し、ふと思うと「やさしさ重視」の時代に切り替わっているように思ったんですよ。

長谷部 「10K」が出てきて、やさしさの中にどれだけ飛びの要素を入れられるか、ギミックを含めてそんな状況でしょうね。

GD ドライバーの進化は、やさしさと飛びを繰り返しているような気がします。例えば『ゼクシオ』。2代目(2002年)から高反発フェースになり、やさしさの中に飛びの要素を加えた。『初代グローレ(2010年)』もやさしさに飛びを加えて一世を風靡しました。やさしいのに飛ぶ。なんとなく今の時代と重なる部分があるような気がします。

長谷部 『初代グローレ』はシニア向けの日本ブランドの軽量モデルで、さらに鍛造カップフェース構造で飛ばしの要素を加えて、当時は各メーカーが積極的に採用していた反発の良い素材SP700のドライバーになります。形状的にはテーラー独特のシェイプではあるんですけど、日本のシニアがやさしく飛ばせるようにヘッド重量も軽くしているし、飛びの性能もちゃんと加えていたのが大ヒットした要因でしょう。

『初代グローレ』は多くのシニアが手にした名器の一つ

GD 当時、『初代グローレ』を“神の重心が宿ったクラブ”だと紹介していました。素材的なこともあったんでしょうけど、まだ何も重量調整ができない時代に万人が打てる。振り返ってみると『2代目ゼクシオ』も神の重心が宿っていたんだろうなって思います。名器として名を残すこの2本は、他のドライバーと何が違ったんでしょう。

長谷部 鍛造チタンのヘッド重量でウエイト調整無しのおおよそ170グラムぐらいで作っていたら、約23グラムのウェイトを後方ヒールに配置して重心位置をコントロールする。あまり奇をてらわないで、つかまりを意識した荷重ですね。前重心にももちろんしてない。反発のいいカップフェースでフェースのセンター目に重心がくるように狙って作っている。『グローレ』はテーラー独自のフェースマスキングで、フックフェースでも逃げ顔に見えるこだわりのベテランゴルファーの気持ちを満たす見た目という感じでしょうか。

GD 先日、練習場で県アマのシニアチャンピオンが打っていて、今でも『初代グローレ』を使っていました。神の重心って15年経っても神なんだって思ったんですよ。

長谷部 当時のフルチタンでは、今でいうと重心がちょっと高いので打ち方が悪い人はスピンが入って飛ばない人が多いはず。この重心位置を打ちこなせるスウィングの持ち主は、ちゃんとアッパーで打てていて、ちょっとフェースの上目に当てることができている証拠なので、安定したドライバーショットが打てているはずです。

GD 『初代グローレ』は各メーカーが、「何で飛ぶんだ?」と研究したと思うのですが、どうなんですか?

長谷部 製法、構造は至ってシンプルだし、意識的に「テーラーメイド」がこの重心位置が美味しいと思って作ったようにも見えないので、各社はそれほど深く研究はしていないんじゃないかな。というのも、「これなら自分たちでもできるはず」って考えるはずなので、中庸なところを形も含めて自分たちなりにバランスをとって設計してしまうんですね。だからモノマネやコピーという事にはならず、仮に“グローレ対抗”というフレーズの競合品も現実には対抗にならないから、グローレ人気が根強かった。

GD スタート地点が同じだとしても、同じようなものができないのは過去のデータがないから?

長谷部 過去の経験を甘くみてはいけなくて、試作だけでなくプロや市場の評価にさらされて初めてわかる事があります。目標値がライバルの解析からわかったとしてもズレちゃいけない方向を知っているメーカーと、それをわからずに近いところを狙っているメーカーは逆に振れたときには思わぬ結果になってしまう。設計ができても量産には公差が必ずあって、バラつきがある。それも踏まえてどっちだったら安全サイドかをわかって作っている。この違いです。

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