金子駆大、杉浦悠太、石川遼の日本人3選手が挑んだ、2026年PGAツアーへの登竜門「PGツアー Qスクール presented by コーン・フェリー」。TPCソーグラスのダイズバレーコース(6850ヤード・パー70)とソーグラスカントリークラブ(7054ヤード・パー70)の2コースで開催された最終日、1打差を逆転し、トータル14アンダーでメダリスト(1位通過)に輝いたのは、カナダ出身の26歳、A・J・エワートだ。日本では馴染みの薄い名前。しかし、彼のバックグラウンドを紐解くと、そこには「勝つべくして勝った」男の強烈な自負と、エリート街道から一度は弾き出された反骨心が隠されていた。
画像: メダリストに輝いた後、会見に挑むA・J・エワート(PHOTO/Getty Images)

メダリストに輝いた後、会見に挑むA・J・エワート(PHOTO/Getty Images)

生後13カ月でクラブを握った!? 「勝利の申し子」

A・J・エワートの父、ブラッド・エワートはカナダのブリティッシュコロンビア州のゴルフ界で知らぬ者はいない伝説的なティーチングプロだ。父の証言によれば、A・Jがゴルフを始めたのは、なんと歩き始めてからわずか1カ月後の「生後13カ月」。おむつが取れるよりも先に、彼はクラブを振っていたことになる。

父・ブラッドの教育方針はユニークだ。「ゴルフは人生そのもの」と語る一方で、息子にはアイスホッケーやサッカーなど多様なスポーツを経験させた。そして週末には必ず、地元のショートコースで開催されるジュニア競技に参加させたという。

「パー、バーディ、ボギーの取り方を学ぶ場所だ。8打も9打も叩くことを覚える場所じゃない」

父の教え通り、幼少期から「スコアを作る」「勝つ」ことを体に叩き込まれたA・Jは、文字通り“勝利の味”を知るゴルファーとして育った。

アリゾナ州立大からの「非情通告」をバネに

順風満帆に見えた彼のキャリアだが、大学進学時に大きな試練が訪れる。 当初、ジョン・ラームらを輩出した名門・アリゾナ州立大学(ASU)への進学が決まっていた。しかし、当時のコーチ(フィル・ミケルソンの弟、ティム)が辞任。後任のコーチからは、電話一本で非情な通告を受けたという。

「お前は良い選手だが、ASUのレベルじゃない。奨学金は約束の半分以下だ。来たければ親父さんから電話させろ」

屈辱だった。A・Jは「大学ゴルフなんて行かない」と激昂したが、最終的に選んだのはフロリダのバリー大学(NCAAディビジョンII)だった。 「あそこ(ASU)を見返してやる」。その怒りは燃料となった。彼はバリー大学で実に14回の優勝を果たし、予選ラウンドでは「59」という驚異的なスコアも叩き出した。

Qスクール後の会見で、バリー大学の後輩と共に通過したことについて問われると、彼は誇らしげにこう答えている。 「悪くないですね。プログラムが何を築き上げてきたかの証明です」

「5位狙いなら自分を安売りしている」

今回のQスクール最終日。5位以内に入れば来季のPGAツアーカードが手に入る状況で、彼は守りに入らなかった。「小さく狙い、小さく外せ(Aim Small, Miss Small)」。会見で語ったこの言葉に、彼の哲学が凝縮されている。

「もし『3位か4位でいい』なんて言っていたら、自分自身を安売りすることになる。私はゴルフトーナメントで勝つ準備をしてここに来たんです」

実は今年、彼は下部ツアー(コーン・フェリー・ツアー)への昇格をかけた「PGAツアー・アメリカズ」のプレーオフで敗れている。故郷のカナダで、家族が見守る中での敗戦。だが、彼はそこでも折れなかった。「もう一度、立ち上がるだけだ」と自らを鼓舞し、最短ルートであるQスクールでの一発逆転を狙ったのだ。

その結果が、下部ツアーを飛び越えてのPGAツアー行き。まさに「急がば回れ」ならぬ「強気で突き進め」である。

キャディとの車内カラオケとドレイク

コース上では「ゾーン」に入り、冷静沈着にフェアウェイを捉え続けたA・Jだが、素顔は26歳の若者らしい一面も持つ。 キャディを務めるのは大学時代のチームメイトであり親友のタイラー。Qスクールのプレッシャーがかかる中、A・Jは大音量で音楽を流していたそうだ。

選曲はカナダの英雄、ドレイク。 「僕がいつもドレイクを歌うもんだから、彼(キャディ)はちょっとイライラしていたみたいですけどね。もう少ししつこく歌ってやろうと思います」と笑う。

張り詰めた緊張感の中で、友人とバナナを頬張り、ラップを口ずさむ。この「緩急」こそが、難関Qスクールをトップで駆け抜けた勝因かもしれない。

父・ブラッドはポッドキャストでこう語っている。「テクノロジーが進化しても、勝つためのメンタルは変わらない」と。 英才教育、屈辱の大学選び、そして下部ツアーでの敗戦。すべての経験を血肉に変えたA・J・エワート。

1月のソニーオープン・イン・ハワイから始まる彼のルーキーシーズン。松山英樹らと相まみえる日が今から楽しみだ。

【動画】PGAツアーQスクール最終日をプレーバック【コーンフェリーツアー公式YouTube】

画像: A.J. Ewart's stellar play wins PGA TOUR Q-School www.youtube.com

A.J. Ewart's stellar play wins PGA TOUR Q-School

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