前回に続き、「東京2025デフリンピック」のゴルフ競技を振り返ります。
デフリンピックで協働通訳を担当した増成真理さんは、かつて大学のゴルフ部に所属されていました。ゴルフの魅力に関して、「ゴルフコースはその土地ならではの美しい景観を生かし、自然のなかでのプレーは季節を楽しむこともできます」と言います。
「デフリンピックでの『デフゴルフ』はそれぞれに地域柄が垣間見え、まさに国際試合だと感じました。パット練習ひとつとっても、整然と練習をする国もあれば、和気あいあいと笑顔で練習する国もあり、雰囲気の違いが面白かった。選手の人数よりスタッフのほうが多い大所帯の国もあり、デフゴルフが国を挙げたスポーツであると実感させられました。昨年のパリオリンピックで活躍したインドの選手や海外のプロ選手、日本からの現役女子大生、ブラジルからの最年少15歳など、多種多様な選手のプレーを見られて楽しかったです」
そうです。デフリンピックは国際大会であり、成績を争う競技でもあるのです。今回は、競技としてのデフゴルフ、ゴルフの技術という観点から考えてみたいと思います。
競技スタッフとして通訳と運営を担当した袖山由美さんは、世界デフゴルフ連盟の事務局メンバーであり、日々ゴルフを楽しむ“ゴルファー”でもあります。ご主人の袖山哲朗さんはデフリンピック・ゴルフ競技の日本代表選手であり、日本デフゴルフ協会の事務局長。由美さんは、日本にデフゴルフを普及させ、正しい競技通訳を行うために、自分自身でも「ゴルフというもの」を理解したいと15年前にゴルフを始めました。哲朗さんの厳しくも真剣な指導のかいあり、現在のハンディキャップは22です。まず由美さんは、男女混合戦で見えた“支え合うゴルフ”に心を動かされたと言います。
「初めて導入された男女混合戦では、選手同士が励まし合い、ハイタッチを交わし、相談しながらプレーしていました。個人戦では見られない表情があり、競技の新しい魅力を感じました」

今大会で初めて取り入れられた男女の「ミックス団体競技」。個人戦とは違った面白さを、選手たちもチームも観客も楽しんでいた
今回のミックス団体競技は、18ホールのフォアサムストロークプレー方式(ペアが各ホールで交互に1球ずつ打ち、1サイドとしてプレー)で行われました。ペアは男女1名ずつで構成され、各国から最大2ペアまでエントリーできるという方式です。オリンピックのゴルフ競技でも団体戦導入が議論されていますが、この競技方式は非常に参考になるのではないでしょうか。
また、今大会には、プロ資格を持つ5名が参加しました。その中には欧州ツアーで活躍するプロもいます。
「プロの参加で競技レベルが一気に向上しました。その一方で、トップ選手と下位選手の差も明確になり、今後の育成課題も感じました。プレーのテンポ、考え方、フィジカルに大きな差があります。特に海外の女性選手はパワーがあり、日本では考えられない攻め方をする場面もありました。たとえば、18番ホールで隣のホールに打ち込んでしまったとき、日本の選手なら『出す』ことを優先する場面で、アメリカの選手は木の上を越えてグリーンを直接狙い、オンさせていました。男女ともにセカンドショットで長距離をグリーンオンさせられるパワーがあり、パーオン率が非常に高いことも印象的でした。一方、パーオンできない選手はパッティング勝負となり、精神的な負担も大きいように見えました」
ゴルフを知る由美さんだからこその視点です。この技術差をどう考えるか。これはオリンピックやパラリンピックにも共通する課題です。世界的にそのスポーツを普及させるための“伸びしろ”と捉えるのか、競技レベルを上げて観客を熱狂させる際の“足かせ”と捉えるのか。「参加することに意義がある」とは、近代オリンピックの創始者クーベルタン男爵の言葉として知られています。由美さんは今後の改善点として、最大の課題に「ルールの理解不足」を挙げます。
「実は私自身も100%理解できているわけではありません。日本ゴルフ協会のルール動画は現在、音声と字幕のみです。ここに手話通訳がつけば、理解度は大きく向上するはずです。また、『ゴルフ手話』の普及や、ろう者のゴルフ審判員の育成も急務です。実際、12番ホールでトラブルが起きた際、通訳が2人入らざるを得ず解決に時間がかかり、後続の3組が詰まってしまう場面もありました」

男女個人の金メダリストは、ともに欧州ツアーでも活躍するプロゴルファーで、優勝スコアは共に3日間で11アンダー。対して最下位のスコアは男子が108オーバー(40人中)、女子は107オーバー(21人中)。「参加することに意義がある」は、勝敗のみならず、その挑戦や過程、努力の意義を考える言葉だ
今後、由美さんは「ゴルフルール手話動画の制作、アジアのデフゴルファーの育成、アジア選手権の開催、そしてゴルフ手話の普及に取り組みたい」と語ります。
「聴者も当たり前に使えるように。一緒にラウンドする際の、最低限の会話を可能にしたいんです」
由美さんは、ゴルフの魅力は「トータルスポーツ」という点にあると言います。
「思考、スタミナ、瞬発力、パワー、左脳・右脳、全身の運動、メンタル……すべてを使うから面白いです。18ホールあるから、ミスを引きずらないように切り替える力も鍛えられます。自然との闘い、禅のような精神性、そしてコースごとの景色や食事も魅力のひとつです」
これは、すべてのゴルファーが共通して感じることでしょう。
「ゴルフは5時間ほど共に過ごすスポーツ。コミュニケーションの量が他の競技より圧倒的に多いです。聞こえない人が1人だけだと、挨拶とスコア確認だけで終わってしまい、孤独を感じることもあります。だからこそ、最低限のコミュニケーションが取れる環境づくりが重要だと思うのです」
「共生社会」におけるゴルフの役割と、「インクルーシブゴルフ」発展への課題はこういうところにもあるのかもしれません。(次回に続く)


