「週刊ゴルフダイジェスト」や「みんなのゴルフダイジェスト」で障害者ゴルフの取材記事を執筆してきたベテラン編集者が、日本だけでなく世界にアンテナを巡らせ、障害者ゴルフのさまざまな情報を紹介する連載。今回も「東京2025デフリンピック」ゴルフ競技の“裏方”として活躍したお2人のお話をご紹介します。

曽根靖裕さんは、ろう者代表のDRでICSDゴルフディレクター委員長のギャビン氏の同行サポートを担当しました。過去にデフフットサル日本代表として海外で活動したこともある曽根さんですが、世界選手権も含めた国際デフゴルフに携わるのは初めてで、大会前から楽しみにしていたそうです。実際会場に入ると、規模の大きさに圧倒されたと言います。

「事前準備や動画チームの様子、スタッフの数には大変驚かされました。動画に関してはYouTubeを観た方から、すごく見やすくて見ていて楽しかったという声を聞きました。カープロジェクターを見ていても本当にプロと同じくらいのレベルで流していたので感心しかありませんでした。スコアもリアルタイムに変更されていて、連携力はさすがだなと思いました」

画像: カープロジェクターには、手話の同時解説者も映っていた。コース内にあるスコアも、リアルタイムで更新

カープロジェクターには、手話の同時解説者も映っていた。コース内にあるスコアも、リアルタイムで更新

国際経験がある曽根さんにとっては、文化や価値観の違いはそこまで感じなくとも、やはり手話の違いによるコミュニケーションの難しさは感じたそうです。

「日ごとに手話の意味をつかんだり、教えてもらったりしながら、他国の方に、何を伝えたかったのか、どう伝わるようにしたらいいのか、を考えながらコミュニケーションを取っていました。身振りだけでは限界でしたが、手話を通してお互い理解しようとしていくことがデフ界の面白さかなと思いました」

「手話」は大事な“言葉”ですが、その前に“理解する心”が必要です。またこれを「面白い」と感じることも、次につながる要素かもしれません。

「健聴者との会話や交流には、やはりスポーツは役立ちます」

デフフットサルの選手だった曽根さんがこう話してくれることで、説得力が増しますよね。

「スポーツがなければそこまで健聴者と多く触れ合う機会はなかったかもしれません。ただ、サッカーやフットサルは健聴者と交流する機会が多いのに対して、ゴルフはまだ少ないように感じました。僕はまだゴルフ歴が浅く、ホームコースは持ってないため1人予約でしか健聴者と交流していません。もっと健聴者と交流する機会を増やせたらいいと思っています」

画像: コースでは多くの動画配信のカメラが、選手たちのプレーや数々のドラマを映し出していた

コースでは多くの動画配信のカメラが、選手たちのプレーや数々のドラマを映し出していた

ゴルフ歴5年(平均スコア104)の曽根さんですが、ゴルフの魅力を語ってくれました。

「ゴルフは“適当”とはいきません。スウィングのタイミング、天候やコースなどの状況判断、メンタル1つでスコアに影響することがゴルフであり、魅力でもあります。フットサルは一瞬の判断で結果につながるけど、ゴルフは1人でプレーしますし、景色を見るといろんな情報が入っていろいろと考えすぎてしまう。でもそれもゴルフの面白さかなと思います」

今屋朝子さんは、ボランティアとしてIDチェックやアテスト業務を行いました。今屋さんは聴者ですが、その立場では思いつかないようなトラブルもあったそう。それを今後のご自身のゴルフライフに生かしていきたいと言います。

「大変だったことは、やはり多言語でのコミュニケーション。まだまだ勉強が必要だと思ったと同時に、自分と違う言語やコミュニケーションスキルを持つ人との関わりを興味深く面白く経験できて、モチベーションにつながりました。音に無頓着なろう者へのイメージが“聴者目線”であるという出来事がありました。ろう者が心地よく過ごせるような世界にするためには、やはり聴者の理解が必要だと思います」

画像: 日本代表チームの野尻房男総監督と日本手話言語通訳者の進藤洋子さん。2人とも表情豊かに集中して話をする

日本代表チームの野尻房男総監督と日本手話言語通訳者の進藤洋子さん。2人とも表情豊かに集中して話をする

また、手話通訳さんの表情の豊かさとコミュニケーション能力の高さを実感したとも言います。

「最終的には伝えたいという情熱が大切です!」

こうして実際に経験したことが「もっと勉強したい」という思いに繋がっていくのでしょう。そして、ゴルフを通じて共通点を感じることも多く、それが楽しかったとのこと。こういう人々の1つ1つの思いが、インクルーシブゴルフを推進していくのだと思います。

「聴者よりも平衡感覚がなく方向性が取りづらいと聞いていましたが、そんなことが感じられないくらい素晴らしいプレーヤーがたくさんいてびっくりしました。ただ、ルールに関しては、いろいろなケースに触れて学ぶ機会を増やしたほうがいいと思いました。細かいルールに触れる機会が少ないのかもしれないと推察できる場面がありましたから」

ゴルフ歴15年、平均スコアも85というゴルファーである今屋さんならではの視点があります。

「進行と安全を考慮し、フォアキャディの配置を増やすか、視覚的方向指示器のようなものがあると便利だと思いました」

これからまた、デフキッズのイベントで競技に触れる機会を作っていきたいという今屋さん。

「ろう者と聴者がスポーツ競技を通じてともなは相互理解を深める機会を増やしていきたい。違いや不便を感じる場面を知っているかどうかだけでも“配慮”は生まれると思います。ゴルフは生涯スポーツなので長く楽しめるし、いろいろな世代と交流できる。ろう者であることが比較的ハンディになりづらい競技だと思います。ろう者、聴者、アベレージゴルファー、競技ゴルファー、老若男女どんな違いがあっても、それぞれ自分の目標や目的はそれぞれです。でも一緒に楽しめるスポーツであることがゴルフの最大の魅力です」

大会に関わった一人一人の想いが広がっていく――これこそ、国際大会開催の意義なのだと思います。(次回につづく)

PHOTO/Tsukasa Kobayashi

関連記事はこちら


This article is a sponsored article by
''.