今年、石川遼が参戦していることでも話題の米下部「コーンフェリーツアー」。バハマから始まり、2月から3月初めにかけてコロンビア、アルゼンチン、チリと南米を舞台に熱戦が繰り広げられた。今回、ブラジル在住のスポーツジャーナリスト・大野美夏がコロンビアとチリの試合に潜入。日本では情報の少ない貴重な大会の様子を3回にわたりレポートしてくれた!

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ギャラリーが誰もいない!?

2026年3月、舞台は南米チリのサンティアゴだった。6000m級のアンデス山脈を背にした100年の歴史ある名門クラブ、プリンス・オブ・ウェールズCCの16番ホール(10番スタート)。遠くから歩いてくる彼を見て、あれは本当に石川遼選手なのだろうかと目を疑った。なぜなら、日本ではお馴染みの大ギャラリーがいない。正確に言えば、そもそも、ギャラリーがほとんどいない。さらに正確に言えば、石川選手のグループには私1人だった。この光景こそが、15歳でプロになってから、ずっと花道を歩んできた石川選手にとって、初めての2部リーグ=コーンフェリーツアーということをまざまざと見せつけていた。 

画像: 日本では大ギャラリーが押し寄せる石川遼の組だが……

日本では大ギャラリーが押し寄せる石川遼の組だが……

コーンフェリーツアー(KFT)とは、男子ゴルフの世界最高峰・PGAツアーの下部ツアーである。すべての大会は統一され、賞金総額は100万ドル、優勝賞金は18万ドル。PGAツアーから見れば10分の1。

試合数はPGAツアーが38に対して、KFTは25と少ない。日本の男子ツアーが22試合なので、日本よりは多い。

今期のKFTには3人の日本人が参戦している。石川選手は昨年のQスクールの順位により10試合終了時点でリシャッフルの対象になっている。ポイントランキングで上位60位くらいに食い込まないとその後の試合に出られなくなる。杉浦悠太選手は、14試合目のリシャッフル。大西魁斗選手は一昨年KFTで優勝し、昨年はPGAツアーで戦っており、今シーズンのKFTはフルシードを持っているので、リシャッフルの心配はない。4月10日時点で、石川選手は67位なのでリシャッフルまではもう少し頑張らなければならない(杉浦選手は52位なのでこの順位をキープすればリシャッフルは免れる)。

そして、PGAツアーに昇格するには、最終的にポイントランキングで上位20位までに入ること。2022年までは上位50位に入ればよかったが、その後DPワールドツアー(欧州ツアー)からの昇格が追加されたことで30枠になり、さらにPGAツアーの出場人数削減などで2025年からは20枠となった。大西選手は2024年に25位で昇格したが、今ではさらにサバイバル競争は激化している。20位と21位の差はわずか1ポイントの世界。ちなみに、1勝するか、トップ5のビッグフィニッシュを複数回重ねれば20位までに入れる。

8年ぶりのアメリカツアー

石川選手は2018年以来のアメリカのツアーだ。8年前、彼は5年間戦ったPGAツアーでシードを失い、2部のウェブドットコムツアー(現在のKFT)を戦うことなく、日本への帰国を選んだ。PGAツアーで優勝はできなかったものの、最高2位にまで2度つけた実力者であり、5回マスターズに出場し、世界選抜としてプレジデンツカップにも2度出場経験もある。ただの34歳ではない。15歳でプロになってからすでに19年と長い時と濃密な日々を過ごしてきた。

初めてのアメリカ進出の際、日本ツアーではわずか5年のプロ歴で10回優勝し、2009年には史上最年少賞金王に輝き、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いでアメリカに乗り込んだ。今でもあの頃のことを覚えている。我らが日本の至宝、“ハニカミ王子”石川遼がアメリカでどれだけやれるのか、日本中がワクワクしていたものだ。

当時は同年代のジョーダン・スピース、ローリー・マキロイ、松山英樹、リッキー・ファウラー、ジェイソン・デイが優勝し活躍をしていたが、石川選手はトップ10入りを11回しながらも優勝には手が届かなかった。5年間のうち最後の2年間は怪我に苦しんだ時期であった。最終的には2017年シーズンでシードを喪失し、下部のウェブドットコムの場が残っていたが、日本ツアーに戻ることを決心して帰国となった。

「2017年、PGAツアーのシードを失った時、下部のウェブドットコムツアーに行くか、日本ツアーに戻るか、打ちひしがれていた。一番は挫折感、悔しいという冷静な感じではなく、自分の中ではどん底だった。他の人から見れば、うらやましいポジションだったと思うけど、自分にとっては苦しい時期だった。そこでかなり弱って、自信もなくして、日本に帰ってきて、ずっとまた挑戦したいと思っていた。2020年から剛さん(田中コーチ)にお願いしたのも、もう一度挑戦したいと思っていたから。日本に帰国した時は、24、5歳だった。当時はあまり何も考えていなかった。全然だめだという思いしかなかった。もっと前向きだったら違うチョイスをとっていたかもしれない」

あれから、8年。そのうちの7年間を田中剛コーチと一緒に取り組んできた。田中コーチは異色の人だ。香港のインターナショナルスクール卒の帰国子女で、大学は東京理科大建築学科。建築学科で統計データ分析を身につけた。スポーツが得意で、大学卒業後に、プロになると決めてオーストラリアに渡りゴルフを始め、1年でティーチングライセンス、そして2年でツアープロライセンスを取得。その後、中国の深圳でゴルフレッスンを始め、日本に帰国し、データ分析という切り口でゴルフを徹底的にマネジメント、スコアリングする。このデータ分析というアプローチに石川選手が興味を持って、コンタクトを取ったのが最初の出会いだったという。

画像: 2020年からタッグを組む田中剛コーチ(写真は2024年JAPAN PLAYERS CHAMPIONSHIP byサトウ食品)

2020年からタッグを組む田中剛コーチ(写真は2024年JAPAN PLAYERS CHAMPIONSHIP byサトウ食品)

田中コーチは、データ、数字で天才の感覚まで映し出すのだが、彼の真髄は感覚に頼ってプレーしている選手に対し、数字を通して選手が自分を理解し、もう1人の自分と会話できるように、選手の頭脳、心理のコントロールまでアナライズしてアドバイスするメンターでもある。

選手が、今、自分がなすべきことは何か、心の欲と戦い、してはいけないことはなにかを見極める根拠がデータなのだ。

アメリカでは2013年にスコット・フォーセットが提唱したDECADEメソッドが、データに基づいたコースマネージメントシステムとして広まり、現在ではアプリ、ソフトが大学ゴルフやプロの間でも広く活用されている。ショットのばらつき(分布)とPGAツアーのスコア統計(ストロークゲインド)を組み合わせることで、状況ごとの最適な狙いどころを導き出す戦略だ。(DECADEとはDistance、Expectation、Correct Target、Analyze、Discipline、Executeの頭文字を取ったもの)

石川選手は子供の頃からの天性の感覚や才能を武器にトップにまで上り詰めた。が、当然どんなにトッププロでも、うまくいく時もあれば、いかない時もある。うまくいかなかった時に、なぜ、自分はダメなのかと落ち込むにも、原因の答えがわかっている時と、わからないままどん底に落ちるのとでは大きな違いだ。その理解を助けるのが、数字なのだ。データから、選手はプレーの内容を、失敗の理由を、してはいけないこと、してもいいことを理解し、ひいては、冷静さを保ち、メンタルを安定させることができるのだ。


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