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障害者ゴルフの世界大会「THE G4D OPEN」が始まりました。初日は雨予報でしたが当日朝になってみると晴天。晴れ男or晴れ女がいるのか、誰かの祈りが通じたのか、コースはさわやかな空気に包まれました。
ウェールズのセルティックマナーリゾート・ローマンロードコースはフェアウェイが広く開放的。スタートホールに立ってみると、伸び伸びと打っていけそうな気になります。選手は3サムもしくは2サム(車椅子ゴルファー)で、11分間隔でスタートしていきます。

究極のバランスから生まれる美しいスウィング。ポスティゴは初日77で12位タイ
トップスタートは、セルティックマナーがホームコースのリッチー・ウイルス(68歳・HC9.7・右足大腿切断・STANDIND2)。3000回以上プレーしているコースとはいえ、やはり世界大会独特の雰囲気に緊張しているようす。20代まではサッカー選手、その後ゴルファーとして活躍していた彼は、41歳のときに交通事故に遭い義足の生活となりました。地元のギャラリーたちの熱い声援を浴びながら放った“ファーストショット”はしっかりフェアウェイにヒット。手を振りながらスタートしていきました。
本大会には、日本でも“なじみの”選手が出場しています。まずは昨年の「日本障害者オープン」で優勝したスペイン出身のプロゴルファー、ファン・ポスティゴ(30歳・先天性右大腿欠損・STANDING1)。いつものように甘いマスクで、いつものように松葉杖を使ってボールまで歩み寄り、左足だけで抜群のバランスを取りながらパワーをボールに集約してボールを飛ばし、スタートして行きました。今春、兵庫のよみうりCCで開催された「グリコパラゴルフ選手権」で3連覇を達成した韓国出身のサイモン・リー(28歳・自閉症・INTELLECTUAL1)。

いつも冷静にプレーするサイモン・リー。ふとした笑顔がキュート。初日75で5位タイ
彼もプロとして活躍していますが、これまではスポンサーが開催する「SKテレコムオープン(韓国ツアー)」と日程がかぶっていたため、本大会は今回が初出場。障害者ゴルフの大会では22年にUSアダプティブオープンを制すなど輝かしい戦績を残しています。ティーグラウンドに現れたサイモンの状況を心配そうに見守っていたお母さんに聞くと「少し緊張しているようですね」。それでも鋭い素振りを数回行い、本番でも力強いショットでスタートしていきました。
さて、我らが日本人選手3人は全員午前中のスタート。小山田雅人(58歳、右前腕下切断、STANDING2)は、プリファードライのルール確認をしっかり行い、吉田隼人(42歳、右大腿切断、STANDING2)は今週の連ランで痛めたという左手首にしっかりテーピングを行い、それぞれまずまずのショットでスタートしました。
初日は2年ぶりに本大会に出場した小林茂(70歳、左下肢障害、STANDING3)に注目していきましょう。朝、プレーヤーズラウンジで会った小林は、コーヒーを飲みながらリラックスした様子。
「調子はどうかな、やってみないとわからない。ピンの位置が難しいみたいです。僕はこの大会で一番年上かもしれないけど、ゴルフは年を取っても若い子と勝負できて面白いよね。
『昔はこうだった』と考えることがダメ。視力は悪くなるし、筋力は落ちるし、体は回らなくなるけど、“常に前進”の気持ちで、今だからこういうスウィングにしよう、としっかり自分を見つめてやっていかないといけません。一番大事なことはタイミング。宮里藍さんのようにゆっくり振ること。僕はトップで止めるくらいの意識で振っています。そうするとよりスピードが出て飛ぶんです」
朝から前向きな言葉を聞くと、こちらも元気になります。ちなみに調べたところ小林は本大会の最年長ではなく、他にイングランドの80歳女性ゴルファー、キャロル・グリネル(HC25.6 ・左足切断・STANDING3)と小林と同じ年、同じくイングランドのテリー・カービー(HC31.5・車椅子・SITTING1)が参戦しています。

レフリーに「小林はどこだ!」と探され、慌ててスタートホールに向かう小林。これもご愛敬!「少し緊張していたんですよ(笑)」
4人の子を持つキャロルは10年前に事故に遭った後立ち直り、今は他の選手の励まし役でもあるそう。テリーは、ゆるぎない不屈の精神を持ち、自身のゴルフクラブでキャプテンを務め、これは車椅子ゴルファーとしては初の快挙だそうです。「励まし役」「不屈の精神」は、小林にも共通するものでしょう。
小林は現在も1日200球、週に1000球は練習場で打ち、週1ラウンドのペースでゴルフに取り組みます。
「いろいろな距離のショートゲーム練習で球数の半分を打ち、残りはいろいろな番手をマン振りしますね。暇があればパター練習もしていますよ」

1番パー4。ティーグラウンドからは広々して見えるが、フェアウェイ・グリーンのアンジュレーションや硬さが選手を翻弄
小林は地元、埼玉で人気のレッスンプロ。以前は毎日だったレッスンの仕事を週4日に減らしました。今は残りの1日をラウンドに、2日を今まで支えてくれた奥さまのためにできる限り使っているのです。
「旅行にも行きますよ。子どもがいないから嫁を大事にしないとね。ゴルフばっかりやってきたから」

〝とにかく明るい″が屋号。小林茂はこの日も、「ゴルフができることに感謝」しながら元気いっぱい挑んでいた
1年ぶりの世界大会を「これが最後のつもりで頑張っています」としみじみ語る小林。
「やっている以上、上位に行きたいけど、何よりこういう大会に参加できて、いろいろな人と話ができるのがいい。若い選手は飛ぶ。それを見られることもやっぱり刺激になります。ここまでゴルフができて楽しいですし、本当に幸せだなあ。他の人ができないいろいろな経験ができていますから」と、相変わらずニコニコ楽しそう。そのままの勢いでスタートホールに立ち、ベストポジションにナイスショット。周りの「ベリーグッド!」の声に「サンキュー!」と答えつつ、小さな声で「緊張するねえ」とつぶやきながらスタートしてったのでした。

セルティックマナー(トゥエンティテンコース)は過去2回ライダーカップを開催。至るところに当時の写真やロゴが飾られている
この日もお昼くらいに雨が降り、一時ヒョウまで吹きつけ一瞬グリーンに積もる天候に。イギリスらしいといえばそれまでですが、日本選手3人も気温の変化や難コースにイマイチ対応できず、初日の結果は、小山田が82で総合31位タイ、吉田が85で総合42位、小林が84で総合38位タイ。

スタートゲートをくぐる小山田雅人。今年も挑戦が始まった。「70台が出ない気がしないんですけど、グリーンが勝負ですね」
ホールアウト後3人で細かいプレーを反省・分析しながら小林は、「同じ組の2人とも飛ぶから20~30ヤード置かれていくし、2人とも2打目はアイアンだからね。それにやっぱりグリーンが難しくて、エッヂからダボになったりする。でも本当に勉強になりますよ。いろいろあったけど、楽しかったよ」とニコニコ。

本大会は全員が個別にカート使用。18番ホールでもカートからニコニコ手を振る小林。「天候が変わりすぎて辛いけど頑張ります!」
「明日がんばらないと明後日回れないからね」と予選カットに気を引き締めつつ、引き続きゴルフ自体を楽しもうとする姿勢を崩しません。これこそが明日につながるのだと思います。



