2026年6月21日、全米オープン最終日。過酷なシネコックヒルズゴルフクラブを舞台に、サム・バーンズが奇跡の猛追を見せた。首位と7打差という絶望的な位置からスタートした彼は、序盤からアクセルを踏み込んだ。前半の8ホールで4アンダーを奪う猛烈なチャージを見せ、リーダーボードを駆け上がる。サンデーバックナインの緊迫した空気のなか、彼は最終的にこの日「67(3アンダー)」をマーク。しかし、優勝したウィンダム・クラークのスコアには、わずか「1打」届かなかった。絶望的な差を跳ね返しながらも、あと1打に泣いた死闘。その重みが、ホールアウト後の彼を包み込んでいた。

「父の日」のメジャー制覇という叶わなかった夢

画像: 最終18番グリーン上、バーディパットが外れパターを投げて落胆するサム・バーンズ

最終18番グリーン上、バーディパットが外れパターを投げて落胆するサム・バーンズ

試合後の公式会見。惜しくも大逆転劇を逃したバーンズに、ある質問が投げかけられた。

「ラウンド後、お父様から最初にかけられた言葉は?」

その瞬間、気丈に振る舞っていた彼の言葉が詰まった。

「『本当に誇りに思う』と……」

溢れ出す涙を堪えきれず、彼は声を震わせながら言葉を絞り出した。

「父の日にメジャーで勝つという記憶がどれほど特別なものになるか、お互いに分かっていたから……」

バーンズにとって、両親の存在は自らのゴルフの原点だった。決して練習や試合を強要せず、彼自身の意思で純粋に夢を追わせてくれたという。だからこそ、最高の大舞台で、最高の「父の日」のプレゼントを贈りたかった。流した涙には、溢れんばかりの感謝と、あと一歩で叶わなかった夢への無念さが痛いほどに滲んでいた。

2歳の息子との時間、そしてプロゴルファーとしての価値観

「息子」として無念の涙を流したバーンズだが、彼自身もまた一人の「父親」である。実は彼がクラブハウスリーダーとしてクラークのホールアウトを待つ極限の緊張状態のなか、駐車場で2歳の愛息子・ベア君と無邪気に遊ぶ姿が目撃されていた。

その理由について、彼は穏やかな表情でこう明かした。

「ただ、一緒にいたかったんです。妻は妊娠37週目で、今夜には帰宅します。これから1週間、息子に会えなくなるのは本当につらい。だから、少しでも長く一緒に過ごしたかった」

最高峰のメジャータイトルを争う究極のプレッシャーの中にあっても、彼の価値観は決してブレない。

「競技者として全力を尽くして勝とうとするけれど、コースを離れればゴルフはそれほど重要ではない。家族のほうがずっと大切なんです」

敗者が語る「勝負の分かれ目」と次なる戦い

あと1打の涙を飲み、敗れはしたものの、バーンズは最後までスポーツマンシップと冷静さを失わなかった。サンデーバックナインの戦いについて、彼は明暗を分けた「勝負の分かれ目」を冷静に振り返っている。

画像: PGAツアーでも随一ともいわれるパット巧者のサム・バーンズ。そんな彼でもシネコックヒルズのグリーンは難しかった

PGAツアーでも随一ともいわれるパット巧者のサム・バーンズ。そんな彼でもシネコックヒルズのグリーンは難しかった

「15番で3パットをしてしまったことで、残り3ホールで少なくとも1つか2つ(バーディが)必要だと感じた」

その15番のパットについては、「夕方になってグリーンが乾燥し、踏み荒らされた状態になると、こういうこと(思ったラインと違う方向に切れること)が起きる」と、名門コースの午後のグリーンの恐ろしさを語った。さらに、「絶対に入った」と確信したという最終18番のバーディパットについても、「スピードも狙い通りだった。ただ、入らなかっただけだ」と語っており、「あと1打」の重みがより生々しく伝わってくる。

【動画】サム・バーンズ、最終18番のバーディパットを外してこのリアクション【全米OP公式X】

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普段はUSGA(全米ゴルフ協会)に対して批判的な立場をとることもあると自認する彼だが、「今週のコースセッティングは本当に素晴らしかった。彼らは見事な仕事をした」と手放しで称賛した。さらに、初日の朝に発生した濃霧による遅延が、結果的に風の止んだ夕方にプレーできた遅いスタートの組(クラークら)に有利に働いたと冷静に分析しつつも、最後は一切の言い訳をせずに「結局のところ、最も良いプレーをした男が勝ったのです」と言って勝者を讃えた。

彼があと1打で敗れたにもかかわらず、これほど清々しく勝者を讃えられた背景には、明確な精神的成長がある。昨年(2025年)の全米オープン(オークモント開催)でも上位で戦いながら敗れた彼だが、当時の感情との違いを問われると誇り高くこう語った。

「昨年は『自分でトーナメントを失った(負けた)』という感覚が強かったが、今日は絶対にそんなことはない。勝つチャンスを得るために、やれることはすべてやった」

事実、彼はメジャー制覇という夢に確実に近づいている。自身のキャリアにおける最初のメジャー16大会ではトップ25入りがわずか1回と大舞台で苦戦していたが、直近のメジャー9大会では今回を含めて「4度のトップ10入り」を果たしているのだ。

勝負の世界の非情さと、その裏にある温かく揺るぎない家族愛。そして敗北を糧にする確かな成長。2026年の全米オープンは、サム・バーンズという一人のプロゴルファー、そして一人の「父親」の生き様を、ゴルフファンの胸に深く刻み込んだ。彼がメジャーの頂点に立つ日は、そう遠くないはずだ。

写真/USGA

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