「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか? その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられているようです……。

PINGとタイトリスト。2つの大きな軸がハッキリと見えてきた

長谷部 今年の「D-1グランプリ」、タイトリストが3連覇を達成しましたね。

GD 「D-1グランプリ」は1997年に始まった月刊ゴルフダイジェストの名物企画で、「一番飛ぶドライバーはどれか?」をガチンコで検証するものです。詳細については現在発売中の「月刊ゴルフダイジェスト8月号」でご確認いただきたいのですが、「3連覇」というのは、過去の歴史を振り返ってもあり得ない快挙です。

長谷部 今回の結果を見て「なるほど」と思う部分もありました。自分自身も「GTS3」を試打した際に、オフセンターヒット(トウ側に外したショット)での初速の落ちにくさを体感していたので、「GTSシリーズ」は本当にすごいのだなと感じています。

巷のレビューでも「初速性能が高い」と評価されています。今年は各社が多層構造のフェーステクノロジーを打ち出してきていますが、タイトリストは独自の進化を歩みつつ、確実にパフォーマンスを上げている印象です。

GD 今回の「GTSシリーズ」も、前作の「GTシリーズ」同様にコンポジット(複合素材)構造なんですか?

長谷部 同様のコンポジット構造ですが、「GT」はクラウンのみに異素材(樹脂系)を使用していたのに対し、「GTS」はソールまでラップするように新素材をヘッド全体に採用し、構造をさらにフルサーモフォームボディへと進化させています。打感や打音といったフィーリング面が気になっていましたが、実際に打ってみると違和感はなく、むしろ軟らかく感じられて好印象でした。

GD 実際の機能面は? ヘッドの挙動や安定性についてはどう進化しているように感じますか。

長谷部 ヘッドの挙動が安定している理由として、ヘッドの中央部分を軽くして両サイドを重くする構造、いわゆるバーベル効果のようなものが挙げられます。カーボンよりも比重の小さいPMP樹脂素材なので中央部分が非常に軽いのがメリットであり、それに加えて、エアロダイナミクス(空力性能)も進化しています。

タイトリストはこれを大々的には謳っていませんが、他社に比べてコンポジット構造でありながら、空力性能をしっかりと取り入れている点が進化のポイントだと思います。かつてコブラの「エアロジェット」やテーラーメイドが「SIM2」などで強調していたような空力を、タイトリストが改めて新モデルに組み込んできた印象です。

GD 最先端のテクノロジーが詰まっている。ただ、「D-1グランプリ」でここまで圧倒的な強さを見せつけられると、「テスト環境がタイトリストに有利だったのでは?」という意地悪な見方も少し出てきそうですが、そのあたりはどうですか?

長谷部 もちろん、テスト球が「プロV1」だったという側面も考慮すべきかもしれませんが、試打するテスターが(横田英治プロ以外は)入れ替えがあるなど、特定の偏りがないように配慮されています。その条件下で、各社の大型でやさしい「MAXモデル」やプロ向けの小ぶりなモデルを横一線で比較した結果、タイトリストが勝ったわけですから、アマチュアゴルファーとしても無視できない結果です。

GD 室内のシミュレーターで測る飛距離と、実際のフィールドで見るナマの弾道は違いますからね。今回の検証は実際のナマの弾道を計測しているからこそ、「本当に飛ぶ」というデータの強みと説得力があります。

長谷部 そうですね。芝の上できちんとアドレスし、ティーアップして、風などの外部条件も感じながら打っています。ロボットテストのようでありながら、ゴルファーの心理的影響も加味されたデータなので、非常に実践的な内容になっていると思います。

GD この3年間、他のメーカーがタイトリストに太刀打ちできていない理由は何なのでしょうか?

長谷部 「太刀打ちできていない」と言い切るのも何ですが、例えばプロギアの「DUO」も良いところまで行きましたが勝てなかった。「RS DUO MAX」が準決勝で「GTS2」に負けたのは、DUOの設計意図が初速アップに振り切っていたので、テスターには若干スピン量が多かったのかもしれません。

GD 他のメーカーは、こぞって「MAX」を冠した寛容性重視のマックス路線で攻めてきています。一方で、タイトリストはモデル名に数字(2、3、4)を使ってキャラクターを分けていますが、「マックス」という言葉は使いません。「何がマックスなのか?」という議論はありますが、結局他社はスイートエリアの拡大やミスへの寛容性を追求した結果、「平均的には飛ぶ」けれど「最大飛距離」という意味では、寛容性を前面に出しすぎないタイトリストに分があったように見えます。

長谷部 その通りかもしれません。車に例えるなら、大型セダンやSUVは運転が安定するものの、山道などでコーナリングなどの「操作性」には難があるようなものです。ゴルフクラブも大型化、高慣性モーメント化(マックス化)すれば安定はしますが、手首の返しやタイミングを合わせるのに一定の負荷がかかります。タイトリストは操作性を十分に重視し、プロやアマチュア上級者が感じる振りやすさを維持する方向性で作り続けたことが功を奏したのではないでしょうか。

他社は「MAX」という言葉の呪縛に囚われ、ピン(PING)が独走するマーケットを追従しようと右往左往した結果、クラブとしての熟成や「振りやすさ」を突き詰めきれなかった気がします。各社が「もう慣性モーメントの天井(10Kなど)は目指さない」と戻し始めていますが、それは一度極端な方向へ行ったものを戻しているだけで、本質的な試作評価が足りていなかったのではないかと感じます。

GD 結果論ではありますが、何が正解だったのかが見えてしまうのが開発の怖さですね。タイトリストの歴史を振り返ると、大きな転換点は「910」(ナインテン)の登場でした。それ以前は「アマチュアには打てない難しいクラブ」という認識でしたが、その後を継いだ「TSシリーズ」では、確実にアマチュア層も取り入れてきました。しかし、そうは言ってもやっぱりタイトリストです。

長谷部 タイトリストは2年サイクルで開発を行っているため、毎年のようにバタバタとコンセプトがブレません。2年かけて前作を反省し、じっくり熟成させて戻してくる。今回は「GTS2」でアマチュアの幅広い層までさらに深くカバーできるようになりました。

その上で、前作の「GT2」で見えてきた課題を抑えつつ、「GTS3」はより形状(シェイプ)にこだわり、前作で小ぶりだった「GT4」に対して、「GTS4」はあえてヘッド体積を大きく設定してきました。ユーザーの受け皿として3つの選択肢を綺麗に用意しています。

GD それぞれのターゲットに合わせた棲み分けができている。ただ、ヘッド体積が大きくなったり形状が変わったりすると、アマチュアとしては実際のロースピン性能やミスへの寛容性がどうなっているのか気になるところです。

長谷部 スピン量を減らす(ロースピン)という意味では非常に進化しているため、今回の「GTSシリーズ」は寛容性が高く、ヘッドの大きさを感じつつもスイッチしやすい工夫がされています。「GTS3からGTS2やGTS4へ移行する」、あるいは「合わなければ今後出るであろう「GTS1」(軽量・ライトウェイトモデル)を待つといった選択肢が取れるため、非常に選びがいがあります。

GD 他社で言うところのコアモデルとなる「GTS2」の仕上がりはどうですか?

長谷部 「やさしい」という評判を維持しつつも、構えた時の顔(シェイプ)が前作の「GT2」より綺麗に見えます。上から見た時にヒール側がすっきりと抑えられているため、洋梨型とまでは言いませんが、前作の「GT3」ユーザーが移行しても違和感のない形状になっています。
そのため、やさしさを求めるなら「GTS2」の一択になるでしょうし、実際に最も売れるモデルになると思います。上級者層の移行もカバーできていますね。

GD 「GTS3」は? やはり男子プロ向けという印象でしょうか。

長谷部 実は女子プロのツアーで使用者が増えているという話もあるほどです。見た目のシャープさや、構えた時の「振りやすそうなイメージ」を重視する人にとっては、「GTS2」よりも「GTS3」が好まれていますね。

GD いずれ登場するであろう「GTS1」も含め、ラインナップが充実していますね。こうなると、市場は「ピン(PING)の路線」と「タイトリストの路線」という2つの大きな軸に分かれる気がします。

長谷部 まさにその通りです。他の大手メーカーや国内メーカーが、どちらの路線を狙うのかを明確にしないと、どっちつかずの中途半端なクラブになってしまう懸念があります。

GD テーラーメイドは「打倒ピン」の姿勢が見え、キャロウェイはあらゆるゴルファーをカバーすべく全方位で出してきていますが、やはり一番のライバルはピンだと捉えているように見えます。タイトリストをターゲットにしているようには見えません。

長谷部 タイトリストの領域(アスリート・上級者層)は、他社も「敵わない」と割り切っているのかもしれませんね。上級者=LSモデルだけではないので、ちょっとした「味付け」の意味ですね。

GD ただ、アマチュア目線で言うと、やはり使い手を選ぶブランドであることは変わりません。それでも「いつかはタイトリストを打ってみたい」と思わせる憧れブランドとしての立ち位置は譲っていません。

長谷部 アイアンでもロフトの寝たやさしいモデルを出すなど、受け皿を広げていますが、マインドとして「アマチュア向けに媚びる(やさしくなりましたとアピールする)」ことは一切言いません。その姿勢がブランド価値を維持している理由だと思います。

GD 今回の「D-1グランプリ」全体の総評としてはいかがですか?

長谷部 予選を1位で通過したプロギア「RS DUO F」が健闘してくれたのは嬉しい結果でした。プロギアに限らずフェースの多層化で、ルールの適合基準(CT値とCOR)をうまく利用した設計をしているキャロウェイも上位にいました。フェースの反発ルール(CT値)をクリアしつつ、ヘッド全体の総合的な反発パフォーマンス(COR)を上げるモデルが今後注目だと思いますね。

GD 逆に、意外な結果はありましたか?

長谷部 テーラーメイドの「Qi4D」がベスト16止まりで、ベスト8に進出できなかったのは意外でした。また、世間で大ヒットしているピン(PING)の10Kモデルも、早い段階で姿を消し、ベスト16にも残っていませんでした。

GD 世間で売れているピン「G440」や、テーラーメイドの「Qi4D」がベスト8に残っていないというのは驚きですね。

長谷部 そうですね。もちろん、このテストが「オフセンターヒット(ミスショット)に強いモデルが必ずしも上位に来るわけではない」というテストの特性による部分もあります。ただ、一つの指標として「どれが一番飛ぶか」をロフト10.5度で標準シャフト仕様の最新モデルを横並びで比較したリアルなデータとして、今回の結果も非常に興味深く、尊重されるべき内容だと思います。

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