「魔法のパット」と「完璧なアイアン」が生んだビッグスコア
驚異的なビッグスコアを根底で支えたのは、間違いなく神がかったパッティングだった。キム自身が「パットを打つ前に思い描いた通りにボールが転がる、最高の感覚だった。今日はずっとそんな気分だったよ」と振り返るように、この日の彼のパターには魔法がかかっていた。
データはさらにその凄まじさを浮き彫りにする。この日のパッティングのスコア貢献度(SG: Putting)は、実に「6.524」という驚異的な数値を叩き出し、フィールドの全体1位に君臨。18ホールでの総パット数はわずか「21」、そして沈めたパットの総距離は「145フィート4インチ(約44.3メートル)」に達した。
さらに驚くべきは、パットだけでなくアイアンショットも絶好調だったことだ。グリーンを狙うショットの貢献度(SG: Approach the Green)でも「4.204」を叩き出し、こちらも堂々のフィールド全体1位を記録。パットが神がかっていただけでなく、ショットもピンに絡みまくるという「完全無欠のラウンド」だったことが数字からも証明されている。グリーンに上がれば必ずカップに沈む——そんな絶対的な自信が、歴史的快挙への推進力となっていた。
「60じゃ意味がない」 最終18番のプレッシャーと執念
怒涛のバーディラッシュを見せたキムは、大記録「59」まであと1バーディに迫った状態で、最終18番ホール(パー5)のティーイングエリアに立った。並の選手であれば、プレッシャーから安全策に逃げたくなる極限状態だ。しかし、キムの胸中には記録への凄まじい執念が燃えたぎっていた。
「60や61ではあまり意味がない。歴史に名を刻む瞬間だ。運に頼って(59に)滑り込むのではなく、自らステップアップして、本当に素晴らしいショットを打とう」
強烈なプレッシャーの中で自らを鼓舞し、見事にグリーンを捉える。残すは24フィート4インチ(約7.4メートル)、きつい上りのバーディパットとなった。
大歓声の中で決めた「59」へのパット
「ただショートだけはさせないように」
その強い意思とともに放たれた運命のボールは、上り傾斜を力強く転がり、見事にカップの底へと吸い込まれた。
ボールが消えた瞬間、16番グリーン付近から徐々に集まり、最終18番を取り囲んでいた地元の大観衆から割れんばかりの大歓声が沸き起こった。

狙って決めた18番ホールのバーディパット。マイケル・キムは直後に大きなガッツポーズを決めた(写真をクリックすると18番バーディパットの動画をご覧いただけます)
www.golfdigest-minna.jp「地元のファンが本当にたくさん集まってくれた。素晴らしいファンの前でこんなロースコアを出せて最高だよ」
沸き立つギャラリーの熱狂の中心で、キムは静かに興奮を噛み締めた。とてつもない重圧の中で決めたこのパットについて、彼は「これこそがプロゴルフから得られる最高の喜びだ」と語り、その瞬間のカタルシスを表現した。
疲労困憊の中でのドラマと、週末の戦いへ
歴史的偉業を成し遂げた直後であっても、キムの足はしっかりと地についている。リーダーボードの頂点に立ってはいるが、「まだ半分が終わっただけ。(まだ囲み取材時にはホールアウトしていなかった)あのスコッティ・シェフラーもどうせ良いスコアを出してくるだろうしね」と、浮かれる様子は一切ない。
実はこの謙虚な姿勢の裏には、あるドラマが隠されている。会見でキムは、「全米オープンから6連戦で疲労が溜まっており、正直なところ今週は出場するかどうか迷っていた」と明かした。プレーオフシリーズ進出に向けて少しでもポイントを稼ぐために無理を押して出場し、結果的に歴史に名を刻むことになったのだ。
勝負の週末に向けて、彼が自らに課したルールはシンプルだ。
「明日は、今日のラウンドと自分を比較しないことが重要だ。たとえスタートがつまずいたとしても、今日のようにプレーできないからといって落胆してはいけない」
王者の足踏みと、猛追する日本のエース
しかし、首位のキムの予想に反して、この日の午後のコースは世界No.1プレーヤーにも容赦なく牙を剥いた。午後スタートとなったスコッティ・シェフラーは、強風と不運なバウンドに苦しめられ、14番で池に入れるなどスコアを伸ばしきれず。「70」でホールアウトし、通算7アンダーで足踏みをする結果となった。
一方で、そんな過酷な強風下で世界1位を凌ぐ圧巻のゴルフを見せたのが、同組でプレーした日本の松山英樹だ。劇的に復調したアイアンと、外したグリーンをすべてパーで凌ぐ鉄壁のアプローチで、6バーディ・ノーボギーの「65」をマーク。54人抜きの大猛チャージを見せ、シェフラーと並ぶ通算7アンダーの13位タイまで一気に浮上してみせた。
偉大な大記録の余韻に浸るのは今日までだ。歴史に名を刻んだ男と、最高峰の舞台で猛追するトッププロたちが、緊迫の優勝争いへ挑む週末のティーオフを待っている。
写真/Getty Images

