「1ペナ」に等しい深いラフ。その過酷さこそが、松山英樹の「魔術」を引き出す
なぜ松山英樹は、世界のエリートたちが集うこの難コースでこれほどまでに無類の強さを発揮できるのか。
データによれば、TPCサウスウィンドは「フェアウェイを外した時のペナルティ(スコアを落とす確率)がツアーで2番目に高い」という恐ろしい顔を持っている。名物のバミューダ芝の深いラフに一度捕まれば、いかにパワーのある選手であってもグリーンを捉えることは難しく、ティーショットのミスが文字通り「1ペナルティ」に等しい代償を要求される。
しかし、ここで一つの疑問が浮かび上がる。実は松山の今季のフェアウェイキープ率は61.25%(ツアー71位)と、決してティーショットが真っすぐ行くタイプではない。実際、彼が優勝した2024年の本大会でも、フェアウェイキープ率は57.14%(25位タイ)に留まっていた。
では、なぜそれなのに、彼はこの「フェアウェイを外せば即ボギー」のサバイバルコースで100%トップ20に入り続けられるのか。
その答えは、彼の「グリーン周りの魔術」にある。
松山の今季のスタッツを見ると、グリーン周りのアプローチの貢献度(SG: Around-the-Green)はツアー6位(+0.434)、リカバリー率(スクランブリング)は14位(64.48%)、バンカーセーブ率は11位(61.24%)と、いずれもツアー最高峰の数字を叩き出している。
つまり、このコースは「フェアウェイを外さない正確な選手が勝つ」のではない。誰もが深いラフに捕まる極限状態において、「外した後に、最も涼しい顔でパーをセーブし続けられるプレーヤー」が勝つといえる。
他の選手たちがラフからのトラブルショットで自滅していく中、世界屈指のショートゲームで淡々とパーを拾い続ける松山のリカバリー力こそが、このシビアなセッティングにおいて、ライバルたちに差つける最高の武器となっている。
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x.com初戦で起きる「下克上」のデータと、久常涼が秘める爆発力
さて、松山自身は次戦への進出条件である「ポイントランキング上位50名」の安全圏内で初戦を迎えるが、ボーダーライン前後にいる選手(同43位の久常涼も含む)たちにとって、このメンフィスでの戦いはまさに生き残りを懸けた死闘となる。
プレッシャーが極限まで高まる難コースだが、だからこそ一発逆転の「下克上」が起きやすいのもまた事実だ。過去のプレーオフのデータを見ると、この初戦では信じられないような“大まくり”が頻発している。
たとえば2022年、ルーカス・グローバーは大会前121位という絶望的な位置から(※2022年までは上位125名に第1戦の出場権があった)、上位に食い込むことで一気に34位へとジャンプアップを果たした。さらに遡れば、2016年のショーン・オヘアは108位から15位へという驚異的な“ごぼう抜き”を見せている。
初出場の久常涼にとっても、この大まくりのチャンスは十分にある。今シーズンの「WMフェニックス・オープン」第2ラウンドで見せた「わずか5ホールで6アンダー(バーディ・バーディ・イーグル・バーディ・バーディ)」というツアー年間ベスト級の爆発力があれば、メンフィスの難コースでも一気にリーダーボードを駆け上がることが可能なはずだ。
少しのミスが命取りになる一方で、コースとスウィングが完璧に噛み合えば、たった一週間で人生を変えるほどのポイントを荒稼ぎできるのだ。
波乱含みのプレーオフ開幕

プレーオフシリーズに日本人2名が参戦。13年連続の松山英樹と初出場の久常涼。活躍に期待だ(写真は26年MWフェニックスオープン3日目最終組で一緒にラウンドした18番グリーン上)
トップ70のエリートたちであっても、一瞬の隙が命取りになるTPCサウスウィンド。今年もまた、当落線上の選手たちが命を削るような劇的なサバイバルドラマが繰り広げられることだろう。
その極限のプレッシャーが渦巻く中で、抜群の安定感と圧倒的なコース相性を誇る松山英樹、そして一発逆転の爆発力を秘めた初出場の久常涼がどのようなプレーを見せてくれるのか。大舞台での日本勢の躍動に期待せずにはいられない。
写真/岩本芳弘
