沈黙のパターと「1.4」の謎
この日、松山が奪ったバーディ数「7」は、出場選手の中でトップタイの数字である。では、何が良くて7つのバーディだったのか。
パッティングによるスコアへの貢献度を示す指標「SG: Putting」を見ると、松山の数値は「-0.185」で全体41位。つまり、パッティング単体で見れば、フィールドの平均を下回る「マイナス評価」だった。
それにもかかわらず、別のパッティング指標である「パーオン時の平均パット数(Putts per GIR)」は「1.4」を記録し、こちらは全体2位タイという極めて優秀な数値を叩き出している。「パターの貢献度が平均以下であるにもかかわらず、パーオンしたホールでのパット数は極端に少ない」。この奇妙なスタッツの矛盾は、いったい何を意味しているのだろうか。
謎の答えは「アイアンの精度」にあり

まさにアイアンの精度によってバーディを量産した松山英樹(写真は26年キャデラック選手権)
この謎を解く鍵は、グリーンを狙うショットの貢献度「SG: Approach to Green」に隠されている。松山のこの日の数値は「+3.148」で、堂々の全体2位。さらに決定的だったのが、決めたパットの総距離を示す「Feet of Putts Made」だ。この数字がわずか「70フィート3インチ(約21.4メートル)」で、全体36位に留まっていたのである。
つまり、松山は長い距離のパットを次々とねじ込んでバーディを量産したわけではない。「外しようのない短い距離に、アイアンでベタピンにつけ続けた」という圧倒的な事実が、このパット総距離の短さに表れているのだ。
実際、この日の松山のパーオン数は18ホール中10ホール(全体32位タイ)と、決してグリーンを多く捉えたわけではなかった。しかし、一度グリーンに乗れば、ピンの目と鼻の先に止まる。その結果、パーオンした10ホールのうち、なんと7ホールでバーディを奪うという、驚異の「バーディ奪取率70.00%」を叩き出したのである。
これがどれほど異常な数字か、PGAツアーの「基準」を知るとその凄みがより鮮明になる。
世界最高峰のツアーにおけるプロ全体のパーオン時のバーディ(以上を含む)奪取率の平均値はおよそ29%〜30%に過ぎない。百戦錬磨の天才たちが集まるPGAツアーであっても、グリーンに乗せたチャンスのうち7割はパー以下で終わるのが「普通」なのだ。
その中で、松山の今季のシーズン平均は33.58%(ツアー23位)。これは「3回に1回は確実にバーディを獲る」という、彼がすでにツアーを代表する超一流のショットメーカーであることを証明する数字だ。
しかし初日の松山は、自身が持つその世界トップクラスの基準すらも倍以上に跳ね上げ、プロ平均の2.4倍に達する「70.00%」という神がかり的な決定力を見せたのである。
この日、松山のティーショットの平均飛距離は302.70ヤードで全体52位に留まった。決して飛距離でアドバンテージを握ったわけではない。それでも出場選手トップタイのバーディを奪って上位に食い込めたのは、パターの不調を補って余りある、ショットメーカーとしての「圧倒的なアイアン精度」があったからに他ならない。
週末へ向けたさらなる期待
パッティングのスコア貢献度がマイナスでありながら、アイアンの圧倒的なキレだけで4アンダー(全体6位タイ)までスコアを伸ばした事実。それは、現在の松山のショットの状態がいかに異次元であるかを無言のうちに証明している。
もし、この研ぎ澄まされたショットの精度に、グリーン上のパッティングの調子が噛み合ったら一体どうなるのか。データが暴き出した「矛盾」は、週末に向けたさらなる大爆発の予感を強く抱かせるものとなっている。2024年に制した大会で今季初優勝を見ることができるのか、期待したい。
写真/岩本芳弘
