PGAツアーの年間王者を決める最終戦「ツアー選手権」に集結したトップエリートたち。彼らの圧倒的なパフォーマンスを支えているのは、日々の鍛錬だけではない。世界最高峰のコースとプレッシャーの中で、ミリ単位の感覚を頼りに選ばれた「道具(ギア)」の存在だ。開幕前の公式会見で、ローリー・マキロイ、パトリック・カントレーが語ったのは、新製品サイクルに揺れる「道具の現実」と、「ボール(飛距離規制)の未来」についての本音だった。

メーカーの新周期がもたらす安心と、物理的限界

画像: マキロイはドライバーの新製品リリース周期が「2年」になったことを歓迎している(写真は26年全英オープン)

マキロイはドライバーの新製品リリース周期が「2年」になったことを歓迎している(写真は26年全英オープン)

現代最高のドライバーの名手であるローリー・マキロイは、メーカーから次々と新しいクラブが提供されるツアープロの恵まれた環境と、その裏にある非常にシビアで繊細な感覚を明かした。

きっかけは、用具提携先であるテーラーメイドが、新製品のリリース周期を「2年サイクル」へと変更したことだった。マキロイはこの変更を「プロたち全員が強く望んでいたことだ」と大いに歓迎する。

「気に入ったドライバーで戦っているのに、手にしてからわずか9カ月〜10カ月後には、もう次の新製品を渡されてテストを強いられる。メーカーは僕らを完璧にフィッティングしてくれるけれど、どうしても個体差があるんだ」

その極小の個体差を、プロたちは「スノーフレーク(雪の結晶)」と呼ぶという。

「同じヘッド、同じロフト、同じウェイトの『Qi4D』であっても、僕が使っているのと全く同じスペックのものを渡されて、時として全く同じには感じられないことがある。僕のメンタルの問題かもしれないけれどね。だからこそ、新製品の周期が延び、気に入った1本を18カ月という長いスパンで使い続けられることは、選手にとって大きな精神的安心感に繋がるんだ」

実はこの「2年(24カ月)」という新リリース周期は、プロ用のドライバーが迎える「物理的な寿命」とも、極めて絶妙に調和している。

「そもそも、プロのスウィングスピード(ボール初速約85m/s)で打ち続けると、これらのドライバーヘッドは1年半(18カ月)ほどしか持たない。フェースが摩耗して反発係数のルール上限(CTテスト)に引っかかって不合格になったり、ヘッド自体がへたって寿命を迎えてしまうんだ。実際、昨年の全米プロで僕はその被害に遭ったし、スコッティ(シェフラー)も経験している。どのみち1年半で交換せざるを得ないから、この2年サイクルは選手にとって本当に合理的なんだよ」

商業的な都合で無理に替えさせられるのではなく、道具の寿命の極限まで愛着のあるクラブと戦える贅沢。100分の1グラムを感じ取る超一流ならではの、生々しい道具への向き合い方がそこにはあった。

マキロイ vs カントレー:真っ向から対立する「ボール飛距離規制(ロールバック)」論争

選手の進化と道具の進化がもたらした「圧倒的な飛距離」。これが今、ゴルフ界に大きな論争を巻き起こしている。USGAやR&Aといった統括団体が主導する「ゴルフボールの飛距離規制(ロールバック)」である。この問題について、ツアーを代表する2人の意見は真っ二つに割れている。

【規制賛成派】ローリー・マキロイ:「歴史あるコースを守るために必要」

伝統的なコースの価値を守る立場から、マキロイは規制に賛成の姿勢を見せる。

「1年か2年前は少し焦っていて『頼むから誰か何かしてくれ』と思っていた。でもそれは少し単純すぎた見方だったと思う。メーカーの技術はとても優れているから、統括団体がルールを設けても、結局は抜け道を見つけてしまうだろうね」

これはマキロイの妄想ではない。キャメロン・ヤング、ゲーリー・ウッドランドが実戦投入したタイトリスト「Pro V1 Double Dot(ダブルドット)」がその最たる証拠だ。

このボールは、今後施行されるであろう厳格な飛距離規制(ロールバック)の新ルール下でも「適合ルール内」に収まるよう設計されている。それにもかかわらず、メーカーの技術力があまりに高いため、飛距離性能が落ちることなく実戦で使用されているのだ。

そう前置きした上で、マキロイはエリート層に対する規制の必要性を改めて強く訴えた。

「統括団体やメーカー、PGAツアーがもう少し協力的に取り組むようになったのは良いことだと思う。(規制の実施には)あと数年かかるかもしれないが、用具が規制される必要があることには皆が同意している。アマチュアはそのまま(バイファーケーション=ルールの二分化)でいい。でも、このエリートレベルにおいては、我々が行きたいと願い、語り継ぎたい歴史あるコースを意味のあるものに保つために、用具(ボールであれクラブであれ)は現在よりも高度に規制されなければならない」

【規制反対派】パトリック・カントレー:「アスリートの肉体進化の賜物だ」

画像: カントレーは飛ばないボールの採用に否定的だ(写真は26年全英オープン)

カントレーは飛ばないボールの採用に否定的だ(写真は26年全英オープン)

一方、選手会の理事(PACメンバー)でもあるパトリック・カントレーは、マキロイの主張に真っ向から反対する。

「ボールのロールバックには賛成していない。この国では年々プレーされるラウンド数が増え、新しいゴルファーが増えている。ゲームは今、本当に良い状態にあると思う」

カントレーは、飛距離の向上は道具の進化だけでなく、アスリートとしての肉体的な進化の賜物であると主張する。

「選手たちが遠くへ飛ばすのは、彼らが遠くへ飛ばすように努力し、トレーニングしているからだ。選手たちはより大きく、より強くなっている。ボールを変えるような大規模なことをする必要はないと思う。(規制によって)プロにとってメリットがデメリットを上回るとは思えないね」

パフォーマンスと歴史の間で揺れるゴルフ界

雪の結晶のような個体差を持ち、寿命を迎えるまで酷使されるドライバー。そして、アスリートの肉体的な進化と、ゴルフというスポーツが持つ歴史と伝統の間で揺れ動く「飛距離規制論争」。

スコアボードの数字や、フェアウェイを切り裂く美しい弾道の裏側には、これほどまでに深く、そして複雑な「ギアと思想のドラマ」が詰まっているのである。

写真/R&A提供


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