たとえば2017年の賞金女王・鈴木愛の身長155センチに対し、松山英樹は181センチ。この二人に限らず、男女プロで、身長差はおおよそ20〜30センチほどあります。それでも、パターの長さは男女ともに33インチ(約84センチ)か34インチ(約86センチ)が主流です。これって不思議ですよね。
身長が低いと、パターを構えたときに「目とボール(上部表面)との距離」が自然と近くなります。実際にやってみるとわかりますが、目とボールとの距離が近ければ近いほど、ボールが大きく見えるし、集中力も湧いてくるんです。逆にいつもの構えより前傾を起こし、目とボールとの距離を離してみてください。ボールが小さく見えて、不安な感覚になると思います。
いわれてみると、背が低いジュニアはパター上手が多いし、周りにいるパター上手はそんなに背が高くない人じゃないですか? 実際、2017年度男子国内賞金王の宮里優作の身長は170センチ。賞金ランク14位までの日本人7名の平均身長は169.8センチです。しかも、2017年国内男子賞金ランク27位までに180センチを超える日本人選手は1人もいません。この、身長と賞金ランクの奇妙な相関関係には、パット時の目とボールの距離が関わっているかもしれないというのが今回のテーマです。
とはいえ、もちろん世界のトップ選手を含め身長180センチ前後、あるいはそれ以上の背が高いゴルファーでもパターの名手は沢山います。そんな人がどうやって構えているか見てみると……。メジャー最多勝記録を持つジャック・ニクラス(身長178センチ)は、体をかがめて小さく構えています。画像解析してみると、目とボールの距離は約105センチ。
同様に、“ゴルフの王”ことアーノルド・パーマー(身長178センチ)も約105センチでした。80年代に最強の名をほしいままにしたセベ・バレステロス(身長183センチ)も非常に似たように構えます。パットの名手として名高いベン・クレンショー(身長175センチ)は3名と比べると少し前傾が起きて見えますが、クレンショーはバレステロスより身長が8センチ低いため、クレンショーの目とボールの距離は約110センチと、決して離れてはいません。日本を代表するパットの名手・青木功(身長181センチ)が、やはり小さく構えて約105~110センチです。
女子選手に目を向ければ、畑岡奈紗(身長158センチ)は普通に構えて約100センチ。ミッシェル・ウィ(身長183センチ)は、アドレス改造前には約120センチ。2013年頃から目とボールとの距離を約105センチにして大躍進。その後更に改造して95センチまで行きましたが、現在は目とボールの距離が離れています。
とはいえ、世界ランク1位のダスティンジョンソン(身長193センチ)は目とボールとの距離が約140センチと離れていますし、タイガー・ウッズもしかりと、例外もあります。それでも、様々なデータや画像解析の結果は、目とボールの距離は近いほうがいいことを示唆します。
そこで実際にやってみました。身長181センチの筆者でも、50~55センチのワイドスタンスを取り、膝を曲げることにより前傾を深くすると、目とボールの距離が100センチでも違和感なく構えることができ、ストロークにも違和感がありませんでした。
しかし、さらに前傾を深めるなどしてボールと目との距離90センチで構えてみたところ、100センチのときよりボールが大きく見えることから、集中力、安定感が一層高まる一方で、スムーズにストロークする限界はこのあたりまでかとも感じられました。目とボールの距離は、やはり100センチ前後が適正なようです。
みなさんも、試しにいつもの構えよりもボールと目との距離を10センチ、近づけてみてください。それだけで、構えたときの安心感が「だいぶ違う」と感じると思います。さらにいつもより20センチ近づけたら「相当違う」と実感します。そして、実際にストロークして、振りやすさもチェックしてみてください。
その際、低く近くに構える分だけ肘を曲げるとともに、パターをグリップエンドから3~4インチ(7.5〜10センチ)余らせ、短く持つと一層ストロークが安定します。パットに悩んでいる方は、是非お試しください。