全米オープンを制すればキャリアグランドスラムを達成!
フィル・ミケルソンが全米オープンの“主役”の一角を常に占めるようになって、2018年で5年目になる。
どういうことか。話は2013年にさかのぼる。ミュアフィールドで開催された全英オープンで、ミケルソンはヘンリク・ステンソンとの歴史的激闘を制する。それまでにマスターズ3勝、全米プロで1勝を挙げたミケルソンは、これによりグランドスラムへ残すは全米オープンのみとなった。
おそらく、今後ミケルソンが現役の競技者である限り、全米オープンはつねに「ミケルソン、グランドスラム達成なるか」がニュースの見出しとなり続けるだろう(そんな“主役”でありながら、ミケルソンは2017年の全米オープンを娘の高校の卒業式に出席するために“欠席”。それがまた、なんとも彼らしい)。
ちなみに、ミケルソンが全米オープンで2位、あるいは2位タイになった回数は驚くなかれ「6回」。初めて2位となったのは20年前で、その時の勝者は飛行機事故で亡くなる直前のペイン・スチュワートだったのを記憶している方も少なくないだろう。生きる伝説というべきか、シニア入りもそう遠くない47歳の今も最前線に立ち続けるのは驚異的なはずなのに、どこか「ミケルソンだから、まあ当然」という気にさせられるから不思議だ。
今シーズンはWGCメキシコ選手権で5年ぶりの勝利を挙げ、現在ランク5位。堂々たる優勝候補の一角としてメジャーに臨むミケルソンの強い味方になっているのが、彼が愛用するキャロウェイの「クロム ソフト X」ボールだ。昨年から同銘柄のボールを使用しているが、今年に入って登場した同じ名前のニューモデルに変えた途端に勝利を挙げたのは、偶然ではありえない。
クロム ソフトはそもそもツアーモデルの中でも“超ソフトフィール”で知られるモデル。クロム ソフト Xは、超ソフトフィールはそのままに、インパクトでの手応えをプラスしたモデル。ミケルソンが現在使用し、変えた途端に勝利を挙げたのは、その三代目となるモデルで、地球上でもっとも軽くて強いと言われる素材「グラフェン」をアウターコアに配したボールだ。
これが、ミケルソンにハマった。“ミケルソン・シング”と一部では呼ばれる、ボールを自由自在に操るショートゲームの妙技はこのボールを採用したことで誰も到達できないレベルに達している。
論より証拠で、数字で示そう。「10ヤード以内のスクランブル率」という指標がある。パーオンを逃した場合に、10ヤード以内の距離からバーディ、またはパーで上がった率なのだが、ミケルソンは55回中、54回スクランブルに成功している。外したのが10ヤード以内であれば98.18%、チップイン、あるいは寄せワンで切り抜けているわけだ。グリーンに乗るのと乗らないのとで天と地の差があるPGAツアーでこの数字は、一言でいって異常だ。しかし、ミケルソンと、彼の手の延長線上とも言えるマックダディウェッジ、そしてクロム ソフト Xが組み合わさったとき、世間の基準での“異常”は“当たり前”になってしまう。
今年は娘の卒業式もない。ポケットには過去最高に頼れるボールが入っている。生きる伝説・ミケルソンが、史上7人目のグランドスラマーになることを妨げるものは、もうなにひとつ残っていない。
撮影/姉崎正