腕と体が同調し、低く長いフォローで距離と方向を打ち分ける
タイガーのマスターズでのデータを見てみると、パーオン率が全体の1位(80.56%)と抜群のアイアンの切れからバーディチャンスを量産していたことが数字からもわかります。
ただ乗せるだけではなく、左右や奥に振られたピンに対して上りのラインが残るように計算され、コントロールされたショットでした。そのスウィングを見てみましょう。
まずは画像A。アドレスとハーフウェイバックを見てみましょう。右の写真では左腕が地面と平行になったポジションで背中がターゲットに向くくらい、大きく回転しているのがわかります。肩とグリップで作った三角形も崩れておらず、手先ではなく、腕と体の回転を同調させた理想的なテークバックです。
続いては、トップ(左)と切り返し(右)をつなげた画像Bをご覧ください。トップはコンパクトですが肩の回転は十分で、背中がターゲットを向いています。切り返しの写真と見比べると、クラブはバックスウィング方向に動いていますが、左ひざはアドレスの位置に戻り、下半身はすでにバックスウィングに入っていることがわかります。
これにより、肩のラインと腰のラインの捻転差(Xファクター)が生まれています。ポイントは腕に力が入っていないところです。腕やグリップに力が入るとどうしても上体から切り返すようになってしまいますが、タイガーの場合、腕ではなく、下半身や背中の大きな筋肉を使ってスウィングしていることがわかります。
そして抜群の方向性を生むポイントは長いフォロー(画像C)にあります。フェースのターンがゆるやかでボールを運ぶように使えています。手先でクラブをリリースするのではなく体の回転に従って自然とリリースされています。
もうひとつ、帽子のつばの向きを見てください。インパクトではトップの向きとほぼ変わっていませんが直後の右の写真ではターゲット方向に頭が回転しています。体に負担の少ないスウィングかつ回転を止めないことで、フォローが長くなり方向性のよさにも寄与しています。
マスターズで見せてくれた全盛期を思わせるアイアンの切れは、手先に頼らずに体を使って打つことで実現しています。とくにタイガーの場合、腕と体の運動量が非常にバランスよく同調していることでフェースの向きやヘッドスピードのコントロールが素晴らしく、プレッシャーのかかった場面でも正確性を発揮していました。
会場にいる全員、いやテレビを見ているファンのすべてがタイガーの復活優勝を祝福しているような幕切れでした。今のタイガーならば、ジャック・ニクラスの持つメジャー18勝の記録を越えることも可能なのではないか。期待が止みません。