マスターズの優勝で完全復活を遂げたタイガー・ウッズ。タイガーの復活の裏には計算されたスウィング構築のプロセスがあったという。マスターズを現地で観戦したゴルフスウィングコンサルタントの吉田洋一郎が解説する。

スポーツ史に残る偉業を成し遂げたタイガー・ウッズ

今回のマスターズでタイガー・ウッズの勝利に大金を賭けて1億3300万円を手にした男性がいました。大金は投じなかったものの、私もタイガーのメジャーでの復活優勝にベットしてきた一人です。

私は光り輝いていた全盛期のタイガー・ウッズより、脇役のいぶし銀のプレーヤーを応援する天邪鬼なゴルファーでした。

しかし、度重なる怪我により世間で「タイガーは終わった」と言われはじめると、かつてのスーパースターがどのようにカムバックの過程を歩むのか興味がわいてきました。

ゴルフ界において今回のタイガーのような華々しいカムバックは稀です。かつて栄光を手にした天才がその輝きを失って復活できずに終わるほうが圧倒的に多いのです。

タイガーと同年代の1998年の賞金王デビッド・デュバルは、深刻なスランプで30代後半にはツアーの表舞台から姿を消しました。

タイガーは歴史的なカムバックを成し遂げることができるのか、それともこのまま消え去るのか。この物語の行く末が気になり、2015年ころからアメリカでタイガーのスウィングに関する取材を開始することにしました。

復活のカギはゴルフ・バイオメカニクス

なぜ、タイガーは復活できたのか。

タイガー復活のカギは「ゴルフ・バイオメカニクス」です。

タイガーは2014年にクリス・コモというほぼ無名のコーチと契約しました。彼は全米中の有名コーチたちに弟子入りし、ヤン・フー・クォン教授から学んだバイオメカニクスをゴルフティーチングに取り入れていました。

画像: 2014年にクリス・コモと契約したタイガー。2018年のファーマーズでは以前とは違う「体に負担をかけないスウィング」をしていたという

2014年にクリス・コモと契約したタイガー。2018年のファーマーズでは以前とは違う「体に負担をかけないスウィング」をしていたという

私はタイガーのスウィングを研究すべく、コモを指導したヤン・フー・クォン教授のもとを訪れ、スウィング計測やインストラクタープログラムを受講し、クリス・コモの主催する勉強会に通い学びを深めてきました。クォン教授やクリス・コモを通じてバイオメカニクスを知れば知るほどタイガーのスウィングの効率性の高さを感じ、復活を予期せずにはいられませんでした。

タイガーの復帰戦となった2018年のファーマーズ・インシュランス・オープンを現地で取材しましたが、そこで見たのは新生タイガーのスウィングでした。

そこにはタイガーの「自分自身の持っている特性を活かした、体に負担をかけないスイング」という明確なビジョンが具現化されていました。

タイガーは以前の筋力中心の「内力」に頼ったスイングから、地面反力や遠心力などの自分以外の力「外力」を最大限生かしたスウィングを手に入れていました。

全盛期を超える57.75m/sのヘッドスピードをマークするなど、トップフィールドに戻る準備を整え、メジャーでの優勝争いを経て、昨年の最終戦「ツアー選手権」で勝利を手にしました。今回のマスターズも練習日からスウィングは万全の状態で、今までタイガーを見た中で最も素晴らしいボールを打っていました。マスターズで勝利を手繰り寄せた正確なアイアンショットは万全の準備から生まれたものだったのです。

復活にはビジョンとストーリーが必要

PGAツアー会場で多くの選手やコーチを取材する機会がありますが、それらを通して結果を出す選手となかなか芽の出ない選手を見極めることができるようになりました。

結果を継続的に残している選手に共通することは明確なビジョンがあり、スウィング構築に一貫性があることです。結果から逆算した長期、中期、短期のビジョンを持ち、その過程において何が必要なのかを明確にし、実行に落とし込む。そして実験と検証を重ねハイパフォーマンスを実現し結果を出していきます。

画像: マスターズで優勝争いに絡んだモリナリは4人コーチを付けている(写真は2018年の全米プロゴルフ選手権 撮影/姉崎正)

マスターズで優勝争いに絡んだモリナリは4人コーチを付けている(写真は2018年の全米プロゴルフ選手権 撮影/姉崎正)

今回のマスターズで優勝を争ったフランチェスコ・モリナリのようにスウィング、ショートゲーム、パッティング、パフォーマンスと4人のコーチを付けることは珍しいことではなくなってきました。各分野のプロフェッショナルが集まり、チームでビジョンとプロセスを共有し、ストーリーを作り上げていくのです。

画像: 明確なビジョンを持っていたタイガーだからこそ、マスターズという舞台で復活優勝を挙げることができたという

明確なビジョンを持っていたタイガーだからこそ、マスターズという舞台で復活優勝を挙げることができたという

タイガーのスウィング構築の過程には明確なビジョンを感じることができました。クリス・コモという無名なコーチの登用、バイオメカニクスを用いた体に優しく飛距離の出るスウィング構築、メジャーで結果を残すためのピーク調整。すべてにおいて計算されたタイガーの復活は必然だったと思わざるを得ません。

タイガーの復活のプロセスは多くの捲土重来を期すゴルファーに参考になると思います。もしあなたがどれほどどん底と感じ、悔しい思いをしていたとしても、タイガーの絶望的だった状況に比べれば容易な立場にいるのではないでしょうか。ますはあなた自身の復活のビジョンを手に入れることが復活の第一歩になるでしょう。

画像: 飛ばしの練習法「スプリットハンドドリル」ってなに?~小澤美奈瀬の飛距離アップレッスン~ youtu.be

飛ばしの練習法「スプリットハンドドリル」ってなに?~小澤美奈瀬の飛距離アップレッスン~

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