「ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープン」水曜日の練習日。その練習場は午後から強烈なアゲンスト(向かい風)が吹いていた。この厄介な風の中、どうすればボールをコントロールできるのか? プロコーチ・井上透が門下生の武尾咲希に指導した内容をプロゴルファー・中村修がレポート!

後方にはトラックマン、正面にはGC4

強烈なアゲンストの吹く中、練習をはじめた工藤遥加と武尾咲希の両選手。ともに、井上透コーチの門下生です。井上コーチは練習打席の後方にレーダー式弾道測定器の「トラックマン」をセットし、選手の真正面にはカメラ式弾道測定器「GC4」をセッティング。

ゴルフの科学者ブライソン・デシャンボーのような“測定器二台体制”の元、風対策の練習をおこなっていました。

画像: 選手の真正面にカメラ式計測器「GC4」、後方にレーダー式の「トラックマン」。2台の計測器を使って風の影響を計測しながらの練習をする竹尾咲希と工藤遥加

選手の真正面にカメラ式計測器「GC4」、後方にレーダー式の「トラックマン」。2台の計測器を使って風の影響を計測しながらの練習をする竹尾咲希と工藤遥加

なぜ、測定器をふたつも使う必要があるのでしょうか? それを理解するには、ふたつの測定器の特徴を知る必要があります。

どちらも弾道を計測するのは同じ。ですが、レーダー式のトラックマンは飛んでいるボールをずっと追尾するので、“実際に飛んだ飛距離”を正確に計測するのに対し、カメラ式のGC4は弾道の初期条件から弾道をシミュレートする仕様のため、風の影響を排除した“理論上の飛距離”を出せるという特徴があります。

そのため、GC4で計測した飛距離からトラックマンで計測した飛距離を引けば、風によってどれくらい飛距離が落ちたかがわかるというわけです。風の影響まで数値で出せるとは……まさに最先端です。

画像: 左がトラックマンによる実測値で、飛距離は128.4ヤード。右はGC4の数値で飛距離147ヤードと表示されている

左がトラックマンによる実測値で、飛距離は128.4ヤード。右はGC4の数値で飛距離147ヤードと表示されている

この方式で“気づき”を得たのが武尾選手。風速10メートルの強風が吹く中、ロフト26度の6番ユーティリティで打った弾道は、GC4では147ヤードを記録しましたが、トラックマンで測った実際の飛距離は128ヤード。なんと、約20ヤードも飛距離が落ちていたのです。

20ヤードも飛距離が落ちては縦の距離感を合わせるのは至難の業。そこで井上コーチは、「もっと軽く打ってみて」と提案。するとどうでしょう、GC4での計測は140ヤードながら、トラックマンでの表示は130ヤード! 風の影響が減り、フルショットした場合よりも実際の飛距離が伸びるという結果になりました。

一体どういうことなのか。井上コーチに聞きました。

「強いアゲンストを感じるとどうしても風に負けないように強く打とうとしてしまいますが、そうするとダウンブローの度合いが強くなり過ぎ、スピン量が増えたり、フェースの開閉が増えて左へ引っかけたりとミスが多くなりがちです。逆に軽く打つことでスピン量が減るし高さも抑えられるので、風の影響を少なくできるんです」(井上)

井上コーチによれば、アゲンストのときは軽く打つといいということを知るだけではなく、「実際にどれくらいの軽さで打つとどれくらい飛ぶのかを知ることが大事」なのだそうです。そうすることで番手を上げて軽く打つというようなマネジメントを選択できるようにもなり、強風下でもスコアをキープすることにつながるのだそうです。

ちなみに横で練習していた工藤遥加選手の場合、スピンを落とさず高さを抑える男子プロのような球筋で、アゲンストでも飛距離がほとんど変わりませんでした。余談ですが、驚きの技術とパワーでした。

話しを戻すと、武尾選手自身は肌感覚ではどれくらい影響を受けるかわかっているものの、実際に計測したことで理解度を深め、強風の中を軽く打ってボールをコントロールする技術を深めることに成功していました。

かなり高度な技術ではありますが、アマチュアゴルファーのみなさんがご自分のゴルフに活かすとすれば、フルショットと軽く打つショットの両方を普段から練習することでしょう。

打ちっ放し練習場で見ていると、ほとんどのゴルファーはクラブが長くなればなるほどフルショットの練習が多くなっています。ブルックス・ケプカのキャディのヤーデージブックには、たとえば7番アイアンだと4分の3は186Y、フルでは194Y、マックスだと200Yといった具合に3つの距離が各番手ごとにメモしてあります。爽快感につながるフルショット練習をしたい気持ちも理解できますが、軽く打つショットの練習を見直してみることで、風のゴルフに強くもなるし、スコアップにもつながると思います。

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