メルセデス・ランキングでもシード権を得られるように
つい先日、日本女子ツアー2020年シーズンの日程が発表されましたね。今日は、それと同時に発表されたメルセデス・ランキング周りの改定についてお話ししようと思います。まずは具体的な変更点を、LPGA(日本女子プロゴルフ協会)の公式サイトより、引用してみましょう。
(1)メルセデス・ランキング上位50位までに翌年度のシード権を付与。
(2)メルセデス・ランキング51~55位までの選手に翌年度の第1回リランキングまでの出場権を付与。
※(1)(2)については2020年度のランクに基づき、2021年から付与。
いままで、シード権や前半戦の出場権は、優勝者や永久シードなどを除けば、賞金シードの上位者に与えられていましたが、それをメルセデス・ランキング上位者にも付与するというものです。
そもそもメルセデス・ランキングとは
そもそもメルセデス・ランキングとは何か、というところからおさらいしましょう。LPGA公式サイトには「LPGA ツアー競技の各大会での順位や出場ラウンド数をポイントに換算し、年間を通じての総合的な活躍度を評価するランキング」とあります。
ですが、正直に言えば賞金ランキング、「賞金女王」の称号を懸けた争いに比べるとツアーを盛り上げる要素としての存在感は薄かったように思います。
ですが、賞金ランキングには以前から制度上の問題がありました。賞金総額が試合によって変わってくる都合上、より金額が高い試合で活躍した選手のほうが有利になるのです。
ありえない想定ですが、大会Aと大会Bという同じ3日間の試合で、まったく同じメンバーが、まったく同じスコア、同じ順位で大会を終えたとします。それでも大会Aの賞金総額が8000万円、Bが2億円であれば、得られる金額は大きく異なります。
もちろん、大きい賞金額は選手たちにとってはこの上ないモチベーションとなるでしょう。しかし、実力を測る指標としては疑問点もあるのです。
2018-19シーズンを例にとると、鈴木愛選手は年間で7勝しましたが、年間3勝のシン・ジエ選手、4勝の渋野日向子選手と最後まで行方の分からない賞金女王争いを繰り広げていましたよね。勝利数が多くても賞金額次第で結果が変動してしまうのが賞金ランキング。対してメルセデス・ランキングにはそういったことが起こりにくいというメリットがあります。
先に挙げた例でいえば、賞金総額8000万円の大会Aで5位に入った場合と、賞金総額2億円の大会Bで5位に入った場合で、賞金額は変われど得られるポイントは同じですから。
さらに、この変更によって今まで賞金ランキング50位以内に入れず、シード権を獲得できなかった選手たちにもチャンスが生まれます。
「シミュレーションしてみても、何人かはそういう選手が出てくるのではないか(という結果が出た)」
そう語ってくれたのはLPGAトーナメント事業部の志賀祟絋さん。実際に2018-19シーズンを見てみると、賞金ランキング50位より下、かつメルセデス・ランキングが50位以内の選手は藤田さいき、蛭田みな実、森田遥、金澤志奈と4名います。彼女たちは、2020年シーズンだったならば、シード権を獲得していたということになります。
また、メルセデス・ランキング51~55位でシード権を持っていない選手も、カリス・デイビッドソン、原江里菜、東浩子の3名(53位の畑岡奈紗は米女子ツアーを主戦場としているため除外)と、少なくない人数の選手たちが前半戦の出場機会を得られることになります。
また、大会開催前週までのメルセデス・ランキング上位30位までの選手には、ツアー最終戦でありメジャーでもある「LPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ」の出場資格が付与されます。
海外メジャーにもポイントが付与されるようになった
さて、そんなメルセデス・ランキングですが、試合によって得られるポイントが違います。制度変更後は3日間競技(1位の場合200ポイント)を基準にして、4日間競技は1.5倍、国内メジャーは2倍、海外メジャーは4倍ものポイントを得られることになります。
海外メジャーもメルセデス・ランキングの対象となったのも、大きな変更点と言えますね。これには「積極的に海外の試合に参戦してほしい」という意図があると前出の志賀さんは言います。
「ツアー強化を掲げて、どんどん海外に行って活躍してほしいという思いがあります。(いろいろな策の)その一つとして、海外競技、メジャー競技にもどんどん行ってほしい、(だから)ポイントが付きますよ、というふうに変更しました。日本を留守にしても海外で結果を残せばポイントが付きますよ、だからどんどん行ってください、ということです」(志賀さん)
海外競技に出ている間はポイントも獲得賞金も変動しない、それどころか日本の試合に出ないぶん他の選手との差が広がってしまう、という状況が改善されたというわけです。こうした制度面の変更は、「PGA(米男子)ツアーのフェデックスポイントランキングを参考にしている」と志賀さんは言います。
「フェデックスランキングのシステムは参考にさせていただいています。(PGAツアーは)今年も最終戦のやり方を変えましたよね(最終戦の勝者=年間王者となるように、その試合までのポイントランクを元に、トップが10アンダーからスタートするハンデ戦として開催した)。おそらく海外でも賛否両論があったとは思いますが、最終戦優勝者=年間王者というのはわかりやすいですよね。すごいシステムだなと思うので、我々もPGAツアーをベンチマークとして色々取り組んでいきます」
PGAツアーの良いところは、毎年のように少しずつ制度を変更して、ダメだったら直す、良かったら残す、という取り組みを続けているところです。LPGAも各ポイントランキングを参考にしながら、制度変更によってどんな効果があったのかを見つつ、より良い方向へ進んでいくのでしょう。
もちろん選手にとっては試合に出るための切符が増えますし、さらに上位を目指すモチベーションにもつながりますし、そうなれば競争はますます激しくなって、観る側がより楽しめる試合展開も生まれてくるでしょう。
これは私の願望、というより妄想みたいなものですが、メルセデス・ランキングがしっかりと機能すれば、今後PGAツアーでいうプレーオフシーズンみたいな何かが追加される、なんていうことも考えられますよね。最後の4試合はポイント上位しか出られない。その人数は試合ごとに減っていく……といったような。きっと盛り上がると思うのですが、いかがでしょうか(笑)。
いずれにしても、今回のメルセデス・ランキングの改定は、選手側にとっても観る側にとっても嬉しい制度変更なのではないかと感じました。