LIVによってPGAツアーの"改革”が進んだ
昨年、グレッグ・ノーマンが意気揚々と“新たなゴルフリーグ”の立ち上げを発表し、そこにはメジャータイトルを有するビッグネームたちが参加すると公表したとき、多くの人たちは半信半疑だったはずだ。
P・ミケルソンの参加は予想されていたが、ふたを開けてみればD・ジョンソンやS・ガルシアの名前があり、さらにB・ケプカやP・リード、B・デシャンボーが加わり、現役の全英オープンチャンピオンのC・スミスまで参加することになることを予想できた人は多くないだろう。
PGAツアーは“移籍”した選手のメンバー資格を停止し、LIVへの対抗姿勢を明確にすると、賞金の増額や選手の待遇改善、日程の変更など、続々とLIVへの対抗策を発表し、選手の流出阻止に躍起になっている。図らずも、LIVの旗揚げによってPGAツアーの改革が進んでいるのだ。
LIV側はPGAツアーが選手たちを拘束するのは独禁法違反に当たる可能性を指摘、実際に米司法省が捜査を開始したと米国の複数のメディアが報道した。
そんななか、昨年は8大会だったLIVゴルフ招待シリーズは、「LIVゴルフリーグ」と名称を改め、今年は14大会に規模を拡大している。
しかし、LIV側にも不安要素がある。世界ランク加算問題だ。現状、LIV側は世界ランクの対象となるように申請は出しているが承認はされていない。審議には1~2年かかるとされており、さらに審議する運営委員会8人のメンバーには敵対するPGAツアーのコミッショナーであるJ・モナハンと欧州ツアーのチーフエグゼクティブ、K・ペリーが含まれているので楽観はできない。
こうした状況にLIV側は世界ランクの対象となっている中東・北アフリカの「MENAツアー」と提携、LIVの大会を同ツアーとの共催とすることで世界ランクの対象となるように試みたが、これは認められず失敗に終わった。
LIVとしては世界ランクの対象となれば、今後もトップ選手を確保できると算段しているのだろう。
ところで、承認された場合、LIVの大会ではどれくらいのポイントを稼げるのか。現状の世界ランクのシステムで試算すると欧州ツアーと同程度のポイントを稼げそうだが、これは72H競技での場合。54H競技のままだと多くのポイントは稼げないようだ。
LIV勢と対決するメジャーの価値がこれまで以上に高まる!?
欧米ツアーとLIVとの争いは選手たちを巻き込み、お互いに非難し合うという泥沼の敵対関係にエスカレートしていったのは、ご存知の通り。そんななかで迎えた今年最初のメジャー、マスターズは久々に両陣営の選手が一堂に会するとあって注目されたが、意外にも一時期のようなあからさまな敵対関係は見られなかった。
それよりも目立ったのは、LIV勢の活躍だ。大会前は、
「LIVの選手たちは54Hのエキシビションしかやっていないから、実力が落ちている」
と揶揄する人もいたが、ミケルソンとケプカが2位タイ、リードも4位タイとLIV勢が健闘した。
これにはLIV勢の切実な状況が影響しているのかもしれない。というのも、前述のようにLIVの大会は世界ランクの対象になっていないので、LIVの選手たちは移籍後に大幅に世界ランクを下げているからだ。
LIV勢のマスターズ前の世界ランクは、ミケルソンは425位、ケプカは118位、デシャンボーも155位と、PGAツアーで戦っているときには考えられないほど大きく順位を下げているのだ。
それでもメジャーに出場できるのは、ここ数年でメジャーに勝っているからだが、この資格にも有効期限はある。
いちばん切実だったのはリードかもしれない。
マスターズに優勝したのは2018年なので、マスターズ以外のメジャー出場資格の有効期限が迫っているからだ。有効期限が切れた後にもメジャーに出場するためには、世界ランクを上げるしかない。そのためには、大きなポイントを稼げるメジャー大会で好成績を収めることが重要になってくる。
それはマスターズ後の各選手の世界ランクを見れば明らかだ。425位だったミケルソンはマスターズで2位タイになったことで、一気に世界ランクを353ランク上げ、72位にまで復帰した。ケプカも79ランクアップの39位に入り、トップ50に戻ってきた。4位タイのリードも70位から45位へと大幅にランクを上げた。
先週開催の全米プロにもLIV勢はマスターズと同様に多くの選手が出場した。
優勝したケプカは前週の44位から13位に大幅アップ。4位に入ったデシャンボーも214位から90位にランクアップした。
世界ランクのポイントを稼ごうと必死にプレーするだろうLIV勢とPGAツアー勢の直接対決は、年に4回のメジャーでしか見られない。
その価値が今後も高まりそうだ。
※週刊ゴルフダイジェスト2023年5月30日号「LIVゴルフで世界のツアーはどうなるのか?」一部加筆しています。