皆さんが抱く理学療法士(PT)のイメージは「ケガの後、リハビリを指導してくれる人」ではないか。彼らが中心となり「健康寿命のためにゴルフの動きを学ぶ」資格があるという。そんな講習会を訪ねてみた。
画像: 動きのストレスを排除する”ヘルシーゴルフ”。「左ひじを伸ばすと腕が高く上がらず、上げようとすると体幹を反らすことにつながります。腰や左の肩鎖関節にストレスがかかるのが想像できます。また、右わきも空けると外旋しやすくなります」(宇於崎さん)

動きのストレスを排除する”ヘルシーゴルフ”。「左ひじを伸ばすと腕が高く上がらず、上げようとすると体幹を反らすことにつながります。腰や左の肩鎖関節にストレスがかかるのが想像できます。また、右わきも空けると外旋しやすくなります」(宇於崎さん)

ゴルフフィジオセラピーはスウィングの負荷を取り除く”障害予防”

「今回の参加者にもドクターがいますが、ほぼPTです。ゴルフに興味を持つ理学療法士が集まります。皆さん、プロアマ問わずゴルファーを治療することも多い。ひざが痛い、人工股関節を入れているけどゴルフしたいという方にも対応できるような知識や工夫を持っていただくんです」

と穏やかな表情で理論立てて話をするのは、ゴルフフィジオセラピー(GPT)ジャパン代表の宇於崎孝さん。1975年滋賀県生まれ。学校法人藍野大学 びわこリハビリテーション専門職大学でPT、OTを養成しながら、週1日は病院で臨床も行う。「小学生時代の夢はなぜかプロゴルファーだったんですよ」という宇於崎さんはこう語る。

「僕たちはスウィングを見たらストレスがかかるところが見えてきます。今悪いところだけでなく、次はここが悪くなるだろうとも想像できる。人間の体はつながっていますからそれをひも解いていき、ストレス部分を断ち切り悪い影響が出ないようにしていくんです」

普段の理学療法自体は医師の指示のもと行うが、彼らの指導は予防的な役割となる。

「患者さんは体が痛くなると治療をしに何回も通院しますが、そもそも間違ったスウィングをしているから。その負荷を取り除いてあげることが、障害予防につながります。僕らは医療従事者ですから、何度も病院に来られても困りますから(笑)」

「健康ゴルフ寿命を延ばすため個人に合った最適なフォームを習得する」ための資格なのだ。

「ヘルシーゴルフ」=「ゴルフスウィングで体を治そう」

画像: 「“頭を動かすな”は私たちが一番言わないようにしている言葉です。目線が頸部の動きを制限します。頭を止めたなかで体を動かすと、首の回旋にストレスがかかるんです」(宇於崎さん)

「“頭を動かすな”は私たちが一番言わないようにしている言葉です。目線が頸部の動きを制限します。頭を止めたなかで体を動かすと、首の回旋にストレスがかかるんです」(宇於崎さん)

GPTは宇於崎さんが韓国の友人に教えてもらい、その後ドイツに渡って学んだことから始まる。

「自分の好きな理学療法士という仕事とゴルフが重なるとよい形になると考えました。日本にはないコンセプト、理学療法士の強みの1つにしたいと思い、ディーター・ホクムス(EAGPT会長)氏に3年で7、8度来日してもらい、14年に日本でも資格制度にする許可が出て僕が代表に。ドイツではナショナルチームでメンバーが指導しており、マーティン・カイマーもそこで学んだそうです」 

目指すのは「ヘルシーゴルフ」。

「間違っているスウィングはやっぱり痛い。正しいスウィングにしたらその機能障害はなくなるので、それさえ直してしまえば問題はなくなるんです。『ゴルフスウィングで体を治そう』です。レッスンプロの多くは体のことを考えて教えてはいない。教わる側もスコアを上げたい思いが先にきますが、まずは体のことを考えて取り組んでもらう。そこを考えてもらえるともっと上手くなる、ということです。一人一人身体機能は違うので、同じ理論を教えると体にストレスがかかることがあります」 

画像: 「ベタ足で踏ん張りすぎると、回旋しづらくなるし、ずっと左に体重を乗せたままで左1軸になり飛距離が出ません。また、トップを低く捻転すれば自然に左足は上がります」(宇於崎さん)

「ベタ足で踏ん張りすぎると、回旋しづらくなるし、ずっと左に体重を乗せたままで左1軸になり飛距離が出ません。また、トップを低く捻転すれば自然に左足は上がります」(宇於崎さん)

例として昔からよく聞くセオリーを3つ挙げてくれた。

「動きを制限すると体に負荷がかかってしまいます。動きを止めない、運動連鎖を止めないことが大事です」

今季、日本プロゴルフ協会公式のフィットネストレーナー事業でメンバーがツアーに帯同している。

「社会貢献にもなりますし、メンバーの勉強や研究になるんです」

スウィング中は、動きのストレスを断ち切ろう

画像: 予防、生体力学的に最適化されたスウィングを“骨格化”したもの

予防、生体力学的に最適化されたスウィングを“骨格化”したもの

講義資料はドイツ語を翻訳して使用。予防、生体力学的に最適化されたスウィングを“骨格化”したものを、日本プロゴルフ協会の教本も参考にしながら説明してくれた。

【アドレス】前傾角度は26±2度が理想。腕の位置は下垂、体重配分は、右手を下にクラブを持つと若干右肩が下がるので55:45くらいに。足は若干ハの字で左つま先は少し開き両足とも外旋しやすくする。

【テークバック】床反力を使うので始動で左母趾球に少し体重は乗ってくる。そこからすぐ右にウェイトを乗せていく。腕と体と頭を一体化させ、固定された右脚を軸にして左脚が骨盤とともに回転していく。

【バックスウィング】脊柱から頭部は直線上に、骨盤前傾して右に回旋すると右にウェイトは乗る。シャフトが9時の位置でコックが入る。手首の撓屈の角度が20度、尺屈の角度は40度、背屈で上げないように。

【トップ】左右の腕は肩関節を中心に回転する。体重を左にかけ始め、捻転の量を増やし反発力が強くなる。ただし、捻転が強くなるほどストレスはかかるようにもなる。骨盤の回旋と肩の回旋は40度。

【ダウンスウィング】バックスウィングは大きい円、ダウンスウィングは小さな円のイメージ。手首の撓屈を使い、下に下ろすイメージ。胸郭と肩甲帯は脊柱を中心に回転。右脚と骨盤は左脚上で回転する。

【インパクト】手首とひじの角度を維持しながらもってくる。ダウンから目標に向かって体を制動させることによりさらに回転モーメントを与える。目線は常にボールに固定しない。

【フォロー】頸部と体幹が一緒に動くようにするとストレスが減る。体が開くのを防ぐための「打った後の打球は見るな」の行動は、逆にストレスが大きくなる。

【フィニッシュ】ほぼ左足に体重が乗っている状態。きれいな一直線になるように。ここでのバランス力もゴルフにはとても大事となる。体幹の過剰な回旋には注意したい。

~後編へ続く。

THANKS/美松GC PHOTO/Masaaki Nishimoto

※週刊ゴルフダイジェスト2023年6月27日号「フィジオセラピーで効率スウィング」より

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