「開き直る」と聞くとマイナスなイメージが浮かぶかもしれないが、ゴルフにおいては魔法の言葉になる。最強のメンタル術「開き直り」を、プロゴルファーやプロ野球選手らにメンタルを指導する赤野公昭氏とともに深堀りしてみた。果たして「開き直る」とはどういうことなのか? その効果やメリットとは?
画像: 菅沼菜々は「笑顔で楽しく」というようにメンタルを重視する選手のひとり。「調子が悪いとき、もうどうにでもなれって開き直るとプレーがよくなることがあります」(菅沼)

菅沼菜々は「笑顔で楽しく」というようにメンタルを重視する選手のひとり。「調子が悪いとき、もうどうにでもなれって開き直るとプレーがよくなることがあります」(菅沼)

「開き直り」は、ピンチをチャンスに変えられる

プロの試合は3~4日間で行われる。

初日に大叩きした選手が2日目に大爆発し、上位で予選を突破することはよくあることだ。こういったビッグスコアが出たとき、多くの選手が会見でこうコメントするのだ。

「開き直ったらいいプレーができた」

「連続ボギーで開き直れました」

「ミスしてもいいから思い切りやった」

など。 

ゴルフにおける「開き直り」とはどういうものなのか? 

日常生活で考えてみると「開き直り」という言葉はマイナスなイメージが強い。

「開き直って逆ギレ」「開き直って態度が急変」など、悪いと思っていない、観念してふてぶてしくなる、といった印象を抱くはずだ。

だが、ゴルフにおいては真逆な場合が多い。

事態が好転する、つまりピンチがチャンスに変わるようなことが起こるのだ。 

まずは活躍する選手たちの言葉を検証してみよう。

トッププロたちの「開き直り」

NEC軽井沢72ゴルフでツアー初優勝を飾った菅沼菜々。

彼女は「笑顔で楽しく」というようにメンタルを重視する選手だが、本人に聞くと、

「調子が悪いとき、もうどうにでもなれって開き直るとプレーがよくなることがあります。私はとくに気持ちで変われるタイプなので、こういった気持ちの切り替えは、重要だと思っています」 

同大会では、ツアー通算9勝の小祝さくらも同じようなことをコメントしていた。初日の3番パー3で池に入れた小祝は、

「あの池に入るんだって笑えました。ナイスボギーで抑えられたので逆に開き直れました」 

小祝は3番以降、7バーディを奪い「64」の首位発進を決めた。 

2022年、マスターズを制覇したスコッティ・シェフラーも優勝会見で「神様の導くままにいくしかない」という、ある意味開き直りに近い言葉を語っていた。 

日本のエース、松山英樹もプロデビュー戦で「開き直るしかない」と語っていた。その年、4勝を挙げ、ルーキーイヤーで国内男子ツアー賞金王を獲得したのだ。 

伝説のアマチュア、中部銀次郎は「開き直ることも時には必要なんだ」という名言を残している。 

「開き直り」にも良いものと悪いものがある

プロが言う「開き直り」には、状況を打開する力がある。

そんな「開き直り」の正体とは何か? 

どうすればその恩恵が得られるのか? 

「開き直る」とは、具体的にどういうものなのか? 

禅と欧米の理論を融合したメソッドでメンタル指導を行う赤野公昭氏に聞いた。

「開き直りの正体は、気持ちの切り替えなんです。調子がいいときに開き直る選手はいませんよね。調子がいいときは、そのままプレーすればいいんですから。調子が悪いとき、ミスが続いているとき、ピンチのときに開き直るわけですですから開き直りは、気持ちを切り替えるスイッチのようなものと考えていいです。しかも大胆な変化が可能です。プロがビッグスコアを出せるのは、大きな変化を得られたからなのです。 

ここで注意したいのが開き直りにも良いものと悪いものがあるということです。良いものは覚悟が決まる、迷いが消えるなど、開き直ることで集中力が増します。一方、悪いものは、やけくそや無謀なプレーになるのです」 

画像: 「アマチュアは願望が強く、できないことをしがち。その結果、悪い開き直りになるのです」(赤野コーチ)。グリーン周りから苦手なウェッジを使ってミスする「悪い開き直り」より、パターのほうが寄るという「良い開き直り」が成功につながる

「アマチュアは願望が強く、できないことをしがち。その結果、悪い開き直りになるのです」(赤野コーチ)。グリーン周りから苦手なウェッジを使ってミスする「悪い開き直り」より、パターのほうが寄るという「良い開き直り」が成功につながる

その良し悪しは、どこに違いがあるのだろうか?

「簡単に言えば、そのショットに対して後悔するかしないかです。ミス連発でどうにでもなれと諦めモードで開き直ると、無謀なショットになりがちです。アマチュアが林の中から前に飛ばそうとする、などがいい例です。そういうショットは必ず後悔するはずです。ですが、プロや上級者は自分の力量やクセを理解しています。そんなゴルファーが開き直ると、できることに意識が集まり、覚悟や決断が生まれ、その結果、状況を打開できるわけです」 

良い開き直りには、「欲深さ・怒り・妄想」がない!?

良い開き直りができれば、アマチュアにも恩恵がありそうだが、開き直るには、どのようなステップが必要なのか?

「調子が悪いとき、ミスが続いているときは、迷っている状態です。それがミスの原因でもあるのですが、開き直りのスイッチが入ると、今やるべきことが絞られていきます。自分は何をすべきかが明確になる、つまり覚悟が決まるのです。覚悟が決まれば、迷いはどんどん消えていきます。この迷いとは“言葉の多さ”なんです。あの池は越えたいけど、グリーン奥のバンカーは入れたくないし、できればピンに寄せたい……。こういった言葉の多さが迷いそのものです。迷いがなくなれば、思い描いたショットを打つ、という決断ができます。その結果、無心でショットできます。集中力の高まったショットですから、パフォーマンスも飛躍的に上がるのです。 

禅に『貪瞋痴(とんじんち)』という言葉があります。欲深さ・怒り・妄想が人間を毒するのです。そして禅ではこの3つを排除することが大切です。開き直りも貪瞋痴を消すことと同じなんですよ」 

ミスや結果を引きずらないように「仕切り直し」を利用する

アマチュアでもプロのように開き直れるのか? どう実践すればいいのか?

赤野コーチは、

「ミスが連続したり、ピンチが長引くと迷いばかりが増えていきます。頭の中が言葉であふれていくのです。なぜダフった? なぜスライスした? なぜバンカーに入った? これは結果(ミス)に引きずられた状態です。これって開き直りとは真逆なのです。ですから引きずった状態から脱しなくてはなりません。いくつか方法はありますが、ルーティン化するのが簡単です。たとえば、反省は1つにします。力んだからダフッたと。あるいは水をひと口飲む、チョコレートを食べるなど、仕切り直しを利用するのも有効です」 

画像: ミスを引きずったままでは開き直るのは難しい。そんなときは気持ちをリセットしよう。「自分の呼吸を数える『数息観』は心を落ち着かせたり、集中させるおすすめの方法です」(赤野コーチ)。また、プレー前に水を飲むのも有効だ

ミスを引きずったままでは開き直るのは難しい。そんなときは気持ちをリセットしよう。「自分の呼吸を数える『数息観』は心を落ち着かせたり、集中させるおすすめの方法です」(赤野コーチ)。また、プレー前に水を飲むのも有効だ

ミスを引きずるアマチュアは多い。

自分を責めたり、次はこうしようと分析を始めるなど、言葉が増えていく様子が手に取るようにわかる。

では、開き直りを実現するキーワードはないのか?

「自分がコントロールできることと、できないことを理解することです。コントロールできることは最後まで振り切る、番手選び、力感の強弱などです。一方、コントロールできないことはスコアや飛距離、狙いなどですが、いわば結果です。これが理解できなければ、開き直りも意味がありません」 

「結果を手放せる、無視できることこそ」が開き直り

ビジネスでよく使われる、結果目標や行動目標と同じなのかもしれない。スコアや飛距離は結果目標であり、しっかり振り切る、強く打つなどが、行動目標となる。自分ができることは何か? 

そこに集中することで「開き直りのコツ」が見えてくるのだろう。

「大切なのは、できることをひとつに決められるかどうかです。開き直りは迷いを消すことですから、やるべきことはひとつに絞りたいのです。これが重要です。 

実際のラウンドで考えてみましょう。ティーショットはドライバーが多いですから、力みやすい状況です。その場合は、とにかくゆっくり振ってみてください。ラフに行っても林に行っても気にしない。同様にセカンドショットやアプローチも同じです。どの番手を選ぶのか。強めに打つのか。グリーンに乗らなくてもピンに寄らなくてもいいんです。結果は誰にもコントロールできないのですから。実はこれが開き直りの“核心”です。結果を手放せる、無視できることこそ、開き直りなんです。 

覚悟が決まり、迷いなく、無心で振り抜ける。これがナイスショットを生みます。開き直ったゴルファーは欲も不安もありません。これって最強な状態といえるかもしれないですね」

開き直るための3ステップ:【覚悟】→【決断】→【無心】というプロセスが大事

「3つのステップで大切なのは、決め切れるかどうかです。つまり覚悟→決断のプロセスが重要です。今やるべきことは何か? どんなショットを選択すべきか? これを自問自答すればいいんです。即答できれば開き直りは、成功に近づきます」(赤野コーチ)

◆ステップ①=【覚悟】やるべきことが絞られ明確になる

ミスが続いている。ここで仕切り直したい。そんなとき、開き直りのスイッチを入れ、やるべきことを絞っていこう。これが欲を絞ることにつながり、覚悟が決まっていく。まずは覚悟を決めることだ。

◆ステップ②=【決断】言葉が少なくなり迷いがなくなる

やるべきことが見えてくると頭の中の言葉がどんどん減っていく。言葉とは考えや意識であり、その多さが迷いそのものだ。迷いが消えていくことで決断できる。覚悟→決断の流れが、最も重要だ。

◆ステップ③=【無心】右脳モードになりパフォーマンスアップ

迷いは言葉が多い。言い換えれば左脳モードだ。一方、迷いが消えていくと言葉は少なくなり、無心状態になる。それが右脳モードだ。パッと構えてサッと打つからこそ、パフォーマンスが上がるのだ。

ショット別の開き直り方

◆ティーショット:「最後まで振り切る」「ゆっくり振る」

ティーショットはグリーンやカップが見えにくいので欲を抑えやすい。だが、飛ばしたいと思うほど、言葉はどんどん増えていく。最後まで振り切る、ゆっくり振るなど、動作を絞ろう。

◆セカンドショット:「大きめの番手で打つ」「短く持って打つ」

セカンドショットになるとグリーンが見えてくる。結果に意識が向きやすいので要注意。大きめの番手を選ぶ、短く持って打つ、コンパクトに振るなど、ひとつの動作に集中しよう。

◆アプローチ&パター:「強めに打つ」「スパッとを見て打つ」

カップが近づくほど、入れたい寄せたいと欲深くなりやすい。ショートさせないために強めに打つ、ボールを追わないようにスパットを見て打つなど、具体的な動作をしっかり決めよう。

PHOTO/Tadashi Anezaki、Shinji Osawa

※週刊ゴルフダイジェスト2023年9月12日号「最強のメンタル術~『開き直り』のススメ」より

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