足裏が整ってくると全身がつながっている感じになる
赤野 僕自身、「魔女トレ」を4カ月くらい続け変化がありました。
西園 メンタルの専門家が体で何を感じるのか興味があります。
赤野 はい。今朝もやってきたのですが、足裏がふわふわなんです。
西園 すごいですね。足裏、足指は感覚器としての入り口。二足歩行で生活する人間にとって唯一地面と接する場所ですから、自分の体がどのような状態なのかを知るための情報が大量に入ってくる重要な場所です。また足は運動器としても体の一番下にある。重力下にいる私たちが「こんな動きをしたい」と思って動作を行うとき、地面に対して足をどのような角度・力・スピードで作用させるかでパフォーマンスは変わります。
赤野 実際、スウィングも変わってきました。足裏の感覚が変わり、バラバラだった体が何となくまとまってきて、自分のイメージに近づいていってるんです。
西園 頭ではイメージしているけれど、体の外側にしかイメージが通っていないから動作がバラバラに感じ、本当は軸で回りたいのに一生懸命大回りしてしまうんです。人間の体は連動連鎖(体の各部位が順番通りに動く)がスムーズに行われると効率のいい動作ができるようになる。そのため、体の一番下にある足の、26個ある骨、筋肉、筋膜などあらゆるものが土台として、始まりとして適切に動いてくれたら全身の骨もそれに連動して動きます。
赤野 なるほど、だから足裏が整ってくると全身がつながっている感じになるんですね。
西園 トップアスリートの中には自覚している人、自覚していない人がいますが、身体機能として足裏で地面を認識していてそこから動いています。でもその機能の働きが弱い人は先に肩が反応したり手から動く。肩の力みは、土台がグラグラしているのを制御するために反射的に発動します。ですから足裏が安定すれば力が抜ける。骨の連動が少しずつ内部で起きてきて、重心が安定し中心から回旋することができるんです。
「足裏で感じる」という訓練を習慣にしてほしい
赤野 「魔女トレ」では、足裏を「感じる」と言いますが、アマチュアが陥りがちなのは、しっかり立つために下半身を動かさずに踏ん張る。すごく力が入る状態です。
西園 足裏に感覚がない人は、自分の内側で何が起こっているかわからないから、“固める”感じになる。踏ん張ることが間違いではなく、踏ん張ることができる体にするために、足を整えたらいいんです。一般の方は、感覚が全身に通っている状態になっていないことが多い。そのために「感じる」という訓練を習慣にしてほしいんです。「感じる」ということだけで身体はすごい働きや作用が起きるようになっているんです。
赤野 それがいわゆる感性になる。
西園 感性が開くということです。
赤野 僕の認識では、脳には2つの方向性の神経、運動神経と知覚神経があり、前者は脳から各部位に「こう動け」とコントロールする、後者は手や足から感じて脳に戻す役目。西園さんの指導のなかにある「足裏が手を感じてください」というのが知覚神経が発動する一つのスイッチなのかなと思っています。
西園 コントロールするのは自分からだけど、行って返ってくるやり取りをすることで、本当の結果にフォーカスすることになります。
足裏を感じるトレーニングとは?
赤野 ゴルフでも特に緊張したり調子が悪いときは言葉が増えて、思考で体をコントロールしようとする。すると返ってくるものがなくなります。感覚が通ってない体になって、同じようにスウィングしてもバラバラになる。
西園 ゴルフでも、常に同じ環境はないですよね。風は吹くし気温は変わるし、石ころに躓くかもしれない。そうなったとき自分をコントロールしようとしても上手くいきません。どんな状況にも適応できるようになるのは、自分が固執していない状態、体全体が柔らかく相対的なバランスが取れたとき。足裏を感じるトレーニングをするだけで、この状態になります。
赤野 メンタル的に言うと、運動神経だけでなく知覚神経も働く状態は「受け入れる」ということ。練習場の平らな場所で打っていたら絶対にナイスショットが出るけれど、コースではそうはいかない。状況が変わるなかで全部受け入れないといけない。でも頭で「全部受け入れなさい」と言ってもムリ。体がついてこないんです。
西園 受け入れる準備、器ができていない。「感じる」をもっと具体的にしないと本当の「感じる」になっていない。だから「手が足を感じる」のではなく「足が手を感じる」なんです。感じることがうまくできないと申し出てくる人に私が教えるとき、その方の足裏を触って「私の手は温かい?」と聞くと「ああ温かいです」と瞬間にハッとなる。温度を本当に感じるとき「これが感じるということか」と、頭で感じるのではなく体で感じることを理解できます。
赤野 だから、西園さんのトレーニングは体感から始まるんですね。
西園 はい。皆さんにとりあえずやってほしいんです。私自身、バレエの世界で理論ばかりで頭でっかちでした。でも、いろいろな経験の積み重ねで、感性が豊かな人は足が違うとわかった。そして動作分析、体の在り方、メンタル……いろいろなものを分析した結果、始まりはやはり足だと。トップアスリートを触ったら皆さん足の性能がいいんですよ。
足が変わると丹田が"できる"
赤野 もう一つ。僕は足裏がふわふわなとき、丹田をキュッと感じられます。スポーツで大事な「丹田」も、ムリに探すのではなく、つながりのなかで結果的に充実してくるのが本当の丹田ですよね。
西園 はい。丹田は足指、足裏と密接に関係しています。体のなかから、「あっ、ある」ということに気付くことが大事です。
赤野 改めて、一流のアスリートに自分の意識の有無にかかわらず足裏が敏感でない選手はいない。
西園 はい。今まで見て来て。
赤野 逆に足裏の感性がなくなると調子が悪くなったりしますか。また、年齢は関係ありますか?
西園 ケガや手術がきっかけでそうなったりします。または感覚を伴わずにトレーニングを続けてしまうなど。あるJリーガーの方が、海外で筋トレばかりしてきて体が重いしイイ感じがしない、もう一度花を咲かせたいと魔女トレに取り組みました。足が変わると丹田ができ、30歳を超えても活躍されています。でもまだ本人は丹田がわからないと言います(笑)。でも丹田って、運みたいなものを引き付けるものでもあるんです。また、脳にはキャパがあるけど体にはありません。
赤野 アスリートとして何段階か上に行くには、体と思考の融合が必要。人間はついつい、失敗が怖い、人より飛ばしたいと運動神経のほうを活性化させてしまう。
西園 思考優位な人は体を置き去りにしています。回数、形、筋感覚、やった感……が先にくる。
「感じるモード」を全開にするために行う「魔女トレ」
赤野 こんなに力を入れて振りました、こんなに筋肉がつきました、ということですね。
西園 はい。手段の目的化が起きると分断と偏りを生んでしまう。思考って、毎日同じ結果を求め、効率化と補償、安心安全と約束を求めてしまうけど、体の感覚は毎日変わるし毎日消えるから、毎日鍛えてほしい。未知の領域がある道を進むのが身体の可能性を開く在り方ですから、その人自身の「感じるモード」を全開にするんです。
赤野 そのための仕掛けを魔女トレでやっているんですね。感じるモードが発動するようにすると思考モードも収まっていく。それにしてもゴルフでもですが、現代はあらゆるスポーツでデータや計測を重要視しています。
西園 私はスポーツバイオメカニクスという分野を学び、その知識をもとに形としての身体の説明のみで指導をしていた時期がありますが、ことごとく相手の身体がまとまらなくなったり動きの質が落ちるのを経験しました。動作分析や科学的なアプローチは、皆でディスカッションするときの共通言語としてはいいんですけど、身体を育てたり動きの質を深めたり可能性を開拓することに対しては逆効果になることがあります。
「感じなさい」ではなく結果的に感じる体になる
赤野 数値として出るから、そこに頼りたくなる人も多いんです。
西園 思考優位な私たちの欲求を満たしてくれるんですね。もちろん、指導者が指導するときの一つの視点として数値やデータは絶対必要ですが、選手本人が扱うには注意が必要です。数字に一喜一憂しながら身体感覚から離れていってしまう。バレエでも鏡を見ながら形を確認するけれど、鏡の自分ばかり見ていると、内側から生まれてくる自分(感覚や内発的動機)がなくなるんです。
赤野 確かに一時的にはよくても感覚は消えていく。するとスランプが長くなりケガもしやすくなる。
西園 体を消耗品として扱ったり消費的にならない体の使い方がある。全身がニュートラルであれば、何かをやることで次の流れが生まれていくという"循環型社会"のようになる。それを可能にする始まりが足を整えること。私がアスリートを見てきてわかったことは、そこそこ上手くて、自分はもっと上手くなるために変わりたいと考える人こそ頭と体がガチガチで手こずるんです(笑)。「感じる」という習慣がない方には「感じて」とは言いません。どういう足がいいのかという説明の仕方を工夫して無意識に感じさせるような誘導をしていきます。
赤野 スキル化していったんですね。「感じなさい」ではなく結果的に感じる体になる。「魔女トレ」は自覚的なトレーニングですよね。体から心の在りようも変えていくのかもしれません。
西園 感じるという体験をさせる。「感じてください」という言葉を使ってスッと入ってくる方には、もちろん積極的に使いますよ。
日々『魔女トレ』で足を整える
今回、4つの「魔女トレ」を紹介してもらった。
「まずは足裏を感じることから始めてほしいですね。また、たとえば関節が回らなくなる原因は、硬くなっている筋肉が1カ所でもあれば別の筋肉が頑張ってしまう。それがねじれを生んで、そこだけ筋肉疲労が起きてまた硬くなるから。それが魔女トレで足裏3点が地面に着くよう整えると、使えていなかった筋肉が働き、使い過ぎていた筋肉が元の位置に戻って伸び縮みの弾力も戻る。自浄作用が起こるので、やってみましょう」
鉄則はやさしく触ること。
「体が硬い方って、弱い力を出せずゼロか100か。細かいメモリと繊細さがほしいんです。深層筋をいかに稼働できるかというのは、やさしく柔らかく触れられるかによる。トップアスリートは一挙手一投足が全部繊細。動きも日常からなめらかで、コップもやさしく触れるから自分に対してもやさしく触れられる。
繊細さを追求すると体の細部まで認識できるし自分で感覚を開拓できるんです。こうした発掘を自分でやれたという体感や経験は深い部分から起きる自信になる。人間の体、細胞は、今か今かと役割を与えられるのを待っている。つながりと意義を見出してくださいと。何もしないと機能は眠ったまま。でも、出番が来たと思うと体ってすごく喜ぶ。それが満たされる・充実という感覚になる。子どもの頃より時間はかかるかもしれませんけど、体は何歳からでも絶対に変われます。自ら体を整え、丁寧に扱い、自分に愛を生んで、体との信頼関係をつくる。日々『魔女トレ』で足を整えて、自分の体はこうだったのかと感じることから、ぜひ始めてくださいね」
4つの「魔女トレ」を毎朝の習慣に!
体への情報が一番最初に入る朝、起きてすぐに行いましょう。
ベッドの上でもOKです。❶~❹をまずは右足で行い、終わったら左足でも行う。足の活性化が生まれると、股関節、体幹も勝手に整ってきます。
❶足裏を感じる~手と足の合掌
まず、足首を90度にし、足で手を握る。指の間の硬さや5本指の不均等さがあるのがわかる。次に足裏に手を置いて感じる。目を閉じ全身で足裏を感じる。
「手が足の中に、足が手の中に入っていく。足が手は温かいなあと感じる。手と足の境界線がなくなっていくまでやりましょう」
もう一度、足で手を握ると、指が柔らかくなって指を入れやすくなっているのがわかるはず。
❷全身をバランスよく~足首回し
母趾球を包み込むように手と足を組み、親指のつけ根で母趾球を押すようにする(写真左上)。
ひざに向かって圧をかけるように10回回す(写真右上)。
次に小趾球を包み込むように手を組み替え(写真左下)、手で小趾球を押した力がひざに向かって圧をかけるように10回回す(写真右下)。
❸股関節との連動~小趾球揺らし
小趾球と小指を持って揺らす。1 分くらい。
「小指が開いた(小指が外を向く)途端、お尻と裏ももが使えるようになる。股関節がはまって、腰も背中も使えるようになります」
❹正しい立ち方へ~足裏3点曲げ伸ばし
3点「母趾球と小趾球の一番動く部分、かかとの骨の一番端っこ(とんがっている部分)」に均等に力がかかる状態で踏んで、足の裏、ふくらはぎ~太ももの筋肉を使って上下に曲げ伸ばしながら10回動く。
「小さい曲げ伸ばしから始めてOK。3点の力は均等に。偏りがあるとできません」
*上記「魔女トレ」動画は、週刊ゴルフダイジェストのインスタグラム(@golf.digest.weekly)で見られます
PHOTO/Shinji Osawa
※週刊ゴルフダイジェスト2023年10月3日号「可能性が目覚める『魔女トレ』」より