理学療法士は体の使い方に関する「レッスン用語」が気になってしまう
中山さんは、「健康ゴルフ寿命を延ばすため、個人に合った最適なフォームを習得する」ための資格、GPT(ゴルフフィジオセラピー)のインストラクターでもある。
「我々PTは体の使い方による局所の負担を問題にします」
だからこそ、体の使い方に関する「ゴルフ用語」が気になるのだ。
「『頭を動かさない』でスウィングすると綺麗な回旋運動ができなくなります。それをどこかで補うために何かしらの動きを使ってスウィングしようとすること(代償)による体への負担がケガやミスショットにつながるんです」
回旋運動のため頭=軸を動かさないイメージとは逆なのだ。
「腰を回す」という表現も間違いだと中山さん。
「背骨(脊椎)は、骨盤から積み木のように骨が積み重なって、腰椎が5個、胸椎が12個、頚椎が7個あり、その上に頭(頭蓋骨)が乗っている。そのなかで回旋運動を起こす関節と言われているのが、胸椎と頚椎。腰椎は回旋できません。腰椎は主に曲げ伸ばし(屈曲伸展)のみ動く関節なのに、腰を回そうとして横に倒れたり(側屈)、ねじれたり(回旋)すると、腰を痛める原因となり、右ひざが開いてスウェイしやすいんです」
実際、負荷量は、
「負担の少ないドライバーのスウィング1回で、200~300N(20~30kgf)の負荷が腰部へかかり、ヘッドストップ+腰を回すスウィングでは、500~600N(50~60kgf)にもなるため、約2倍腰部へ負荷がかかることになる」※kgf=耐荷重の単位のひとつ
という。回旋運動には、股関節と胸椎を主に使うと中山さん。
「股関節は曲げ伸ばし(屈曲伸展)、閉じる・開く(内転外転)、ねじる(回旋)の動きができる関節で自由に動かしやすい構造。テークバックで股関節の動きを出すために使う言葉としては『右の腰を引く』という言い方は適切。前傾姿勢において、利き腕側の腰を引くことにより回旋が起きます。右ひざを引いて、左ひざが前に出るような動きが出ます」
「肩を回せ」も適切ではない。
「肩甲骨が肋骨の周りを動くだけなので肩はあまり動いていない。右の腰を引いたときに顔も右側に動くことで肩甲帯も動きやすくなる。人間の体は運動連鎖で動きが波及する。運動連鎖をいかに止めないか、効率よくできるかが大事です」
ゴルフ特有の前傾姿勢も体の動きに大きく関係する。
「前傾でスウィングの軸がすごく変わる。構えた姿勢で正面から見たものではなく、骨盤に対して垂直なものが軸です。だから頭は動いていい。それに視野は120度くらいあるので、ずっとボールを正面で見る必要はないんです。『ゴルフ用語』に惑わされず、運動連鎖がどこで止まっているかを見て、動きを改善していきましょう」
体を効率的に使うためには、負担がかかる箇所へのケアも必要だ。
「そもそもゴルフは前傾姿勢を取ることで腰に負担がかかります。お尻が硬いと股関節も使えません。しっかりケアしましょう。また、ゴルファーに手の障害は多いですが、手をストレッチする人は少ない。ゴルフで『手を使わない』と言いますが、『手を強くする』必要はあります。これは手を使い過ぎて"引っかける"のとは別問題ですよね」
理学療法士目線のゴルフストレッチをやってみよう
◆お尻のストレッチ
椅子に座り、片足を逆側の太ももに乗せて体を前に倒す。指が床に着くことを目安に。3~5秒くらいを左右3回ずつ。「どのストレッチも”イタ気持ちいい”が基本です」(中山さん)
前傾姿勢を安定させ、股関節が使えるようになる。
◆お尻と股関節のストレッチ
仰向けに寝て、片足を曲げ、ひざを両手で持ち、股関節を入れられる範囲で内側に動かす。
股関節は開きやすい関節なのでかなりキツイ動き。ムリはしないこと。
左右の足で行う。
◆屈筋群のストレッチ
手を握る筋肉のストレッチ。片手の甲を上にし、ひじを伸ばしながら体重を乗せるイメージで。
3~5秒くらいを左右3回ずつ。(硬い人は手を少し後ろに置く)
◆伸筋群のストレッチ
屈筋と逆側もストレッチ。片手のひらを上にし、ひじを伸ばしながら体重を乗せるイメージで。
3~5秒くらいを左右3回ずつ。(硬い人は体を前傾させて行う)
PHOTO/Yasuo Masuda
※週刊ゴルフダイジェスト2023年10月10日号「間違いだらけのゴルフ用語」より