視覚障害者が養う障害物知覚・聴空間認知
ご無沙汰してしまいごめんなさい。自分の研究がままならず、時間が空いてしまいました。ここからはサボらずアップしていきたいと思っています。今回は「視覚障害」に関する授業から。ここ最近放送されたテレビドラマで、白杖の女性とヤンキーとのラブストリーや、イケメン俳優演じる全盲のFBI捜査官が活躍するストーリーを観た方も多いのではないか。しかし実際、身近にいたり、関わりがないと、視覚障害児・者について理解している人は少ないと思う。もちろん私もそうだ。「見えない世界」について、イメージができない。
視覚障害児・者は、体験を視覚に依拠できないので、具体的事象を得るためには「別の目」が必要になるという。また、視覚で見渡せない空間認知や抽象的概念化の困難さがある。そして、見え方や見えにくさには個人差がある。これらを理解することで視覚障害児・者への教育・支援は可能になるのだという。
まず、「視覚」で得られない体験を「触覚」で体験し思考するため“第二の脳”である手を使う。視覚障害児への教育では「外界を見る手」を育てることが必要であるが、その「触覚」で情報をスムーズに得るためには、「嗅覚」や「聴覚」など、視覚以外の「五感」をより活用する必要がある。繰り返し体験し、個別に手の感覚を磨き思考を深めてこそ、物の形や材質という具体的事象はもちろん、空間認知や抽象的概念を得ることができる。また、幼少時からじっくり続けて学ばせるため、楽しさや意欲を持たせることも必要だ。
ここまで授業で学んだ内容をざっと書いたが、私はこれらから、なんだか「ゴルフ」の上達とつながることがあるなあ、と感じてしまった。ゴルフは、目から入る情報がとても重要なスポーツではある。しかし、人は「五感」を通じて学ぶ。野外で道具を使って行うゴルフでも“五感使い”は上達に欠かせない。距離感や目標認知のための「視覚」。道具を操ったり、ライや風を感じる「触覚」。距離感や打感につながる「聴覚」。精神のコントロールにつなげる「嗅覚」、「味覚」などなど。
また、脳の運動野・感覚野に占める手の領野割合は大きいからこそ、手は“第二の脳”と言われるが、この手を上手く使えないとゴルフの上達はないが、使い過ぎることがいろいろな妨げになるとも言われる。
視覚障害児への教育には、「外界を見る手」を育てることが必要だ。「五感」を活用する観点も合わせて、ゴルフも視覚障害児の能力伸長のための手立てや環境づくりに役立つのではないかと感じる。
まず、家のパターマット練習から始めてはどうだろうか。手を使った繰り返し行動や音が、空間認知力、刺激の自己発信・自己受信、楽しい気持ちを引き出し、未来へとつながるのではないか――。
そして逆に、視覚障害があるからこそ会得した視覚障碍児・者の「能力」を見つめることで、一般の人々への教育や支援をよりパワーアップできるようになるのではないかとも感じる。その能力の1つに、障害物知覚・聴空間認知がある。
耳で見るというエコーロケーション能力
「エコーロケーション(反響定位)」という認知法がある。これは、発した音や超音波の反響で物体の距離や方向、大きさなどを知る方法だが、一部の視覚障害者もこの能力を持っていて、発した音の反響で障害物の方向や大きさ、物体の輪郭を知覚することができる。
自分の舌や指を鳴らし、白杖で地面や壁を叩き、音の高低の変化を聞き分け、反響音による空間の知覚を使いこなし空間をとらえるのだ。このエコーロケーションの指導者でもある視覚障害者、ダニエルとホワンの言葉がある。「困難という名の未知の暗闇を歩む、それは脳で活性化し導く。少しぼやけた三次元構造。360度の視界を注意力がとらえる」
「トレーニングによって獲得できる技術で、広められるもの。あらゆる感覚を使うんだ。脳は筋肉と同じ。鍛えるほどパワーになる」
何より「エコーロケーション」の能力を得ることで、新しい出会いを求める心、前向きさを獲得できるのだという。恐れを乗り越え自由を手に入れる手段を得る。「耳で見る」という世界の見方が、人間の可能性と人の心を変えるパワーを教えてくれる。
これらの話を見聞きして、トップアスリートと同じ能力だと感じた。事実、パラリンピックの選手たちはエコーロケーションの能力が優れているというし、日々接するプロゴルファーにも「音のイメージがあるとプレーが上手くいく」と言う選手は多い。プロゴルファーに「エコーロケーション」を試してもらう機会があってもいいのかもしれない。
視覚障害児・者の情報取得の手立てを学び、健常児・者が聴覚、そして五感を鍛えることができれば、イメージ能力が上がり、スポーツの技術だけでなく、学業成績や芸術的センスまで磨かれるかもしれない。空間のとらえ方、感覚の活用による環境認知の育み方を応用するのだ。
人間には、まだまだ呼び起こされていない感覚がある。視覚障害児・者が”教師”となり、それを伝えてくれるのだと思う。ここに、障害者と健常者の新たな持続的関わりと、循環が生まれるのではないかと考えてしまう。教える者と教わる者は、常に双方向の関係であるほうがよい。一方通行の関係では、成長はない。
ゴルフに関わる私は、ゴルフというスポーツを通じて、視覚障害児・者のための能力開発、環境づくりを行い、また視覚障碍児・者からは、ゴルフ上達のヒントを学ぶことができるのではないか。そんなふうに考えることが、「見えない世界」との交流の一歩になるのだと思う。(つづく)