ゴルファーであれば、誰しもプレー中にリズムの良し悪しを感じる場面がある。ショットを打ち急いだり、パットでスムーズにストロークできないのは、リズムの悪さが原因かもしれないのだ。だが、どうしてリズムが乱れるのか、というのはあまり知られていない。そのメカニズムを女子プロの多くを指導する斎藤大介トレーナーに聞いた。
画像: 「エリエールレディス」で今季2勝目を挙げた青木瀬令奈も斎藤氏がサポート。「パッティングは傾斜の確認やライン読みなど、考える時間が長いです。そういったルーティンまでリズムに含まれます。私はせっかちなので速くならないよう注意しています」(青木)

「エリエールレディス」で今季2勝目を挙げた青木瀬令奈も斎藤氏がサポート。「パッティングは傾斜の確認やライン読みなど、考える時間が長いです。そういったルーティンまでリズムに含まれます。私はせっかちなので速くならないよう注意しています」(青木)

「あなたの適正な“テンポ”は心拍数で決まります」(斎藤氏)

「リズムとは、音楽用語で規則的に鳴る音のかたまりを指します。つまりリズムが悪くなるのは、何かが不規則になっているからです。何が不規則になっているかというとテンポです。テンポはリズムを刻む速さのことですが、速すぎたり遅すぎたりするとリズムが乱れるのです。ゴルフの場合、テンポが速くなってリズムが悪くなるケースがほとんどです。では、どうしてテンポが速くなるのかというと心拍数が高くなるからです。そしてこの心拍数は人それぞれ異なります。つまり人によって適正な“テンポ”があるということです。それがリズムと心拍数の深い関係につながるのです」 

ゴルフはメンタルのスポーツと言われるが、プレー中はまさに精神的な葛藤の連続だ。ミスへの不安、ミスが出た後の動揺、さらにコース上で走った後など、心拍数は目まぐるしく上下する。それがリズムを乱す要因となる。

斎藤トレーナーがサポートしている青木瀬令奈もリズムの重要性を指摘する。

「リズムが乱れたときは、歩く速度をゆっくりにして体に酸素を取り込むと心拍数が下がって元のリズムが取り戻せます。パッティングは最も高い精度が求められますからリズムはとても重要です」 

呼吸が速くなったり、呼吸をしているかどうかもわからないときは明らかにリズムが悪い。心拍数によるテンポやリズムの変化は、想像以上に影響が大きいのだ。

「心拍数を整えるには“ヨガの呼吸法”が最適。気持ちよく歩くだけでも効果あり!」(斎藤氏)

「私は歩くときのテンポやリズムを意識しています。それがリズムのベースになっていて、リズムがいいときほど、動作にムダがなくなり、集中力も増すんです」と青木瀬令奈は語る。

リズムよくプレーすることはアマチュアにとってもメリットが多い。斎藤氏は、

「リズムがいいと考えずに行動できます。歩くときと同じでリズムに乗ると手や足をどう動かそうなど考えないですよね。これはムダな動きが少ない状態でもあります。またリズムは心拍数とも関係していますから、プレー中なら深呼吸がおすすめです」 

画像: リズムが安定するメリットを斎藤氏は3つ教えてくれた。「自分に合ったリズムが保てると動きの連動性が高まります。そしてスウィングの再現性も上がります。集中力アップも大きなメリットです」

リズムが安定するメリットを斎藤氏は3つ教えてくれた。「自分に合ったリズムが保てると動きの連動性が高まります。そしてスウィングの再現性も上がります。集中力アップも大きなメリットです」

リズムの安定を生む心拍数は、どう整えるのが理想なのか?

「心拍数は肉体的要因と精神的要因の2パターンで上がります。走ったら心拍数が上がりますし、緊張したときも心拍数は上がります。ゴルフの場合、両方が関わることもあり、基本的には呼吸が速くなります。ですので、まずは呼吸を意識しましょう。深呼吸することで心拍数を下げていきます」 

斎藤トレーナーはヨガがゴルフの上達にも役立つと考えており、「ゴルフが上達するヨガ」のオンライン講義も開講している。そのヨガの呼吸法は「3・3・3」が基本で、おすすめだと言う。

「3秒かけて鼻から吸って、3秒息を止めて、3秒かけて口から吐きます。これはヨガの呼吸法で、止息(息を止める)が特徴です。深呼吸に止息を加えると、より高い集中力が得られます。ただ、プレー中なので息を止めるのが苦しい場合は、3秒吸って3秒吐く呼吸だけでも十分効果があります」 

また、プレー中に心拍数を下げるには、自分が心地よいと感じるスピードで歩いたり、水を飲んだりするのも有効だという。

アマチュアはカートに乗るのが当たり前だが、プロは歩くのが基本。調子が悪いときほど、ヨガの呼吸か、歩くことを意識しよう。

「呼吸は自分でコントロールできるもの。リズミカルなトレーニングがおすすめ」(斎藤氏)

画像: 画像A:自宅で簡単にできる寝ながら腹式呼吸トレーニング。口から息を吐き、鼻から大きく息を吸う。お腹の前面(A写真上)だけが膨らむのではなく、わき腹や背中側(A写真下)にも空気が入り、お腹周りが360度膨らむように息を吸うのがポイント

画像A:自宅で簡単にできる寝ながら腹式呼吸トレーニング。口から息を吐き、鼻から大きく息を吸う。お腹の前面(A写真上)だけが膨らむのではなく、わき腹や背中側(A写真下)にも空気が入り、お腹周りが360度膨らむように息を吸うのがポイント

斎藤トレーナーは選手たちの個性を見極めながらトレーニング指導を行うが、全選手の心拍数は必ずチェックしている。そしてリズムが乱れやすい選手には、決まった特徴があるというのだ。

「腹式呼吸ができない選手です。胸で息を吸う胸式呼吸だと呼吸が浅く速くなりやすいのです。お腹を使った腹式呼吸だと心拍数を安定させやすく、整えやすくなります。自宅で簡単にできますので、ぜひ取り組んでみてください。呼吸は自分でコントロールできるものです。やれば確実に心拍数を整えられるようになります」 

また、腹式呼吸ができていてもトレーニング中にしゃべりかけると動きが止まってしまう選手もいるという。これもリズムが乱れやすい特徴のひとつだと斎藤氏。

「リズムに乗れない選手ほど、複数のことを同時にできない傾向があります。おそらく左脳優位で右脳の働きが悪くなるのかもしれません。そういう選手には『リズムトレーニング』を積極的に取り入れています。メトロノームのテンポに合わせてトレーニングするとムダな動きがなくなり、動きがリズミカル(一定)になるんです」 

メトロノームはスマホでアプリをダウンロードできるし、動画サイトにもアップされている。それを活用すれば、自宅でも簡単にリズムトレーニングができる。

「ゴルフは自分のリズムで動くスポーツなので、考えすぎると体は動かなくなります。アドレスで固まりやすい人はリズムが乱れやすい代表格。そんな人はリズムトレーニングが絶対おすすめです」

斎藤トレーナー直伝の「リズムトレーニング」

画像: ①(写真)のようにメディシンボールをリズムカルに動かすことに慣れたら、②のワンフット(片足立ち)トレーニングに取り組もう

①(写真)のようにメディシンボールをリズムカルに動かすことに慣れたら、②のワンフット(片足立ち)トレーニングに取り組もう

①メディシンボールで左右チクタク≪メトロノーム:80bpm≫

メディシンボールなど2~3キロの重さがある物を両手で持ち、一定のリズムで左右に動かす(チクタク)。骨盤は固定し、ひじを伸ばし、腕だけでリズミカルに動かそう。

②ワンフットで左右チクタク≪メトロノーム:80bpm≫

1番目のリズムトレーニングを片足立ちで行う。難度が格段にアップするが、軸がブレないようにキープすることで、リズム感が磨けるのと同時に体幹強化にもつながる。

画像: ③のスクワット(写真)に慣れたら、上半身にひねりを入れた④のツイストスクワットに取り組もう

③のスクワット(写真)に慣れたら、上半身にひねりを入れた④のツイストスクワットに取り組もう

③スクワット≪メトロノーム:90bpm≫

メトロノームのテンポに合わせてスクワットを行うと普通のスクワットとは違ったトレーニングになる。上半身の姿勢をキープしたままリズミカル&スピーディに上下動する。

④ツイストスクワット≪メトロノーム:90bpm≫

テンポに集中すると細かい動きが気にならなくなるが、それがリズムトレーニングの効果のひとつ。スクワットにツイストの動きを加えると体幹強化のトレーニングにもなる。

画像: ⑤の直立ジャンプに慣れたら、⑥の前後入れ換えジャンプ(写真)に取り組もう

⑤の直立ジャンプに慣れたら、⑥の前後入れ換えジャンプ(写真)に取り組もう

⑤直立ジャンプ≪メトロノーム:90bpm≫

テンポに合わせて、ただジャンプするだけでもリズム感は磨ける。「ジュニアによくやらせるメニューです」(斎藤氏)。単純なジャンプの動きでリズム感を出せるかが重要だ。

⑥前後足入れ替えジャンプ≪メトロノーム:90bpm≫

直立ジャンプに慣れたら足を前後に広げ、ジャンプしながら足の前後を入れ替える。テンポを合わせることに集中しよう。テンポを速くすれば、下半身強化のトレーニングになる。

⑦サイドステップ≪メトロノーム:80bpm≫

直立して両手を胸に当てた姿勢から片足を真横に踏み出すと同時に上半身を90度回すサイドステップ、姿勢や形より、テンポを意識することで動きの連動性が高められる。

画像: ⑧の180度回転ジャンプ

⑧の180度回転ジャンプ

⑧180度回転ジャンプ≪メトロノーム:80bpm≫

足を肩幅に開き、テンポに合わせてジャンプすると同時に体を180度回転させる。次のタイミングで体を逆回転し、スタートの姿勢に戻る。テンポに合わせて連続して行おう。

TEXT/Tomohide Yasui

PHOTO/Hiroaki Arihara、Shinji Osawa 

MODEL/Kanako Mizutani、Rinako Kurokawa(GOLULU)

※週刊ゴルフダイジェスト2023年12月5日号「リズムと心拍数 その深い関係」より

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