ビクトール・ホブランは、前傾角を保ったまま真っすぐフェースを押し込んでいく
ビクトール・ホブランは、左ひじを曲げて使うスウィングが特徴的ですが、これはカット軌道で動きが詰まった結果、曲がってしまうアマチュアの“ひじ引け”とは根本的に異なり、意図のある動きです。
左ひじを曲げたままのスウィングはフェースローテーション量を抑えることにつながり、シャローかつストレートなインパクトゾーンを生み出しています。これはいまどきのクラブとよくマッチしており、彼の活躍の一因になっていると思います。
また、シャットフェースのまま一瞬インサイドに始動し、そこからクラブを立てるように上げていくのも特徴的。この動きは、アマチュアが真似するとあおり打ちや引っかけにつながりやすいのですが、切り返しで腕を体の正面に戻してそのまま体のターンで振り切るホブランの動きは見事です。
ホブランのスウィングで最も注目してほしいのが、フォローでの上体の前傾角度。インパクト後も非常に深い前傾角度を保って振り抜いています。ここから推察されるのは、彼のスウィングにおける「優先順位」です。彼はまず、何よりも前傾角度を保ったままスウィングすることを最優先し、ほかの動きは、そのための手段と考えているのでしょう。だから動きが個性的でも理にかなっているし、飛んで曲がらない。
前傾角度を保つのは、スウィングのなかでも最も重要なポイント。スウィングに悩んでいる人は、ホブランのようにまず「前傾を保ってスウィングするにはどうすればいいか」から考えてみてください。
リッキー・ファウラーは、下半身で踏ん張って動きすぎを抑える“がに股”の足使い
近年不調に悩んでいたリッキー・ファウラーですが、今年の「ロケットモーゲージ」で4年ぶりに復活優勝を遂げました。
ここ数年、彼はスウィングに悩んで改造を繰り返していましたが、かつての師ブッチ・ハーモンのもとに戻り復活しました。これは改造の結果というよりも、以前のスウィングに近い形に戻してパフォーマンスを取り戻したという感じです。
その象徴といえるのがトップでの手元の位置。改造中は、正面から見たトップの位置で手元が自分の頭に隠れてしまうくらいフラットでしたが、いまは頭の上に手元が見える位置にまで戻っています。
フラットな軌道というのは、どうしてもフェースローテーション量が増えがちなのですが、手元の位置が上がってアップライトに戻った結果、ローテーション量が抑えられ、軌道もインパクトも安定しました。これでドライバーの方向性もよくなりましたし、何よりアイアンのスピン量が安定し、縦の距離感が揃うようになりました。ラフでの抜けもよくなったはずです。
以前から変わらない彼のスウィングの特徴は、始動時に“がに股”になるフットワーク。
ファウラーは体の柔軟性が高いので、ともすると下半身が動きすぎるのですが、これはそれを抑えるストッパー的な役割を果たしています。スウェイに悩んでいる人は、これを真似してみてもいいかもしれません。
長くスウィングの迷路にハマっていたファウラーですが、これで正真正銘の復活と言っていいでしょう。「おかえり!」と言いたいですね。
ジョン・ラームは、左手ウィーク+掌屈、体主体のスウィングでつかまりすぎを排除
ジョン・ラームのスウィングの最大の特徴は、ウィークグリップと左手の掌屈の組み合わせです。古くはリー・トレビノやデビッド・デュバル、最近ではダスティン・ジョンソンなど、左手を掌屈(手のひら側に折る)してフェースをシャットに使うプレーヤーは多くいますが、彼らはほとんど強いストロンググリップ。ウィークグリップで掌屈動作を使うラームは珍しいタイプです。
コンパクトなトップもラームの特徴の一つですが、ウィークグリップで掌屈すればトップがコンパクトになるのは当然。彼自身にコンパクトに振っている感覚はないはずです。
ウィークグリップな分、腕のローテーションはある程度生じていますが、基本的にフェースの開閉量は小さく、クラブの運動量も少なくて、徹底的に体主体でスウィングしています。これは球が浮きにくく飛距離も出しにくい動きですが、これでキャリー300ヤードを超える球を打てるのは、筋力や柔軟性といった身体能力の賜物。その意味では、全盛期のタイガー・ウッズ以上に一般人には真似できないスウィングかもしれません。
彼のスウィングから見えてくるのは、「絶対に左曲がりの球は打たない」という強い意志。持ち球のフェード一辺倒で攻め、絶対に逆球が出ないからこそ、プレッシャーのかかる場面で強いのです。また、ドライバーからウェッジまですべて同じ動きでスウィングできるシンプルさも強みの一つ。 彼のようにワンサイドに徹底するという考え方は安定感アップにつながるので、アマチュアにとっても有効でしょう。
蟬川泰果のスウィングは、手元が体の正面、胸と頭の位置関係は常に一緒
昨年アマで2勝してプロ転向し、今年も2勝を挙げている蟬川泰果選手。彼のスウィングは、構造的にはビクトール・ホブランに似ているように感じます。
バックスウィングは最初インサイドに始動しますが、切り返しで手元とクラブを体の正面に戻し、そこから一気に体のターンで振り抜いていく。身長が高いほうではありませんが、全身をダイナミックに使って大きなパワーを生み出しています。
今回解説している選手のなかで、下半身の動きが最も大きいのは蟬川選手でしょう。バックスウィングで右にしっかり体重移動し、トップでは右ひざが伸びるところまで回っています。そこから大きく左に踏み込んで、地面反力を有効に使ってターンしていく。
動画や実際の動きを見た印象よりも連続写真のほうがバックスウィングでの右へのシフトは小さく見えますが、アマチュアがここまで右に動いたら左に戻れませんので、ここは真似をしないほうがいいでしょう。
切り返しで顔の向きが変わるのと、ダウンスウィングで沈み込むので、頭が動いているように見えますが、実は体に対する頭の位置はまったくブレておらず、軸が安定してスウィングできています。切り返しで手元をちゃんと体の正面に戻せることもあり、蟬川選手が飛んで曲がらないのがよくわかります。
その意味では、手元を体の正面にキープすること、頭の位置をキープすることは、アマチュアも参考にしてほしいポイントです。下半身や体が動いても、ここがちゃんと保たれていれば、方向性は確保できます。
PHOTO/Blue Sky Photos、Hiroyuki Okazawa
※週刊ゴルフダイジェスト2023年10月31日号「2023年チャンピオンスウィング図鑑」より一部抜粋