「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか? その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられていたんですね……。

「発想力」の違いが、日米の差となった

GD 今回、「GDOゴルフガレージ」を見て回って、ドライバーチェックをしましたが、どんな印象を受けましたか?

長谷部 ディープフェースが減ったことと、後ろにヘッドが引っ張られているストレッチ形状になっていることですね。あと米国のメーカーのものはフェースが開いています。日本のドライバーのほうがちょっとかぶっていますが、かぶり具合は昔よりは少し抑えられているのかな?うまく削って処理しているのかもしれない。

画像: ディープフェースが減り、後方にストレッチしたヘッドが目立つようになった。写真はキャロウェイ『2023パラダイム』

ディープフェースが減り、後方にストレッチしたヘッドが目立つようになった。写真はキャロウェイ『2023パラダイム』

GD 米国のクラブにこれだけ慣れちゃうと、かぶっているように見える?

長谷部 主流となる売れ筋のクラブにみんな目が慣れちゃうので、 開いたものでもなんとかしよう、それに慣れちゃおう。結果、そこそこ真っすぐ打てればいいや、ちょっとドローからフェードになっても、まあまっすぐ行けばいいやって、どんどんゴルファーも慣れてきているんだと思う。だけど、その流れについて、どうこうする日本のメーカーもなかなかなくて、スリクソンが唯一頑張ってやっているように見えました。

画像: 松山モデルと言えるスリクソン『ZX5 MkⅡ』『ZX7 MkⅡ』は外ブラを意識している仕上がりになっている

松山モデルと言えるスリクソン『ZX5 MkⅡ』『ZX7 MkⅡ』は外ブラを意識している仕上がりになっている

GD 日本も米国もヘッドが大きくなるにつれて、球がつかまらなくなったじゃないですか、重心距離の問題で。結局、球がつかまらないから、フェースかぶせましたというのが日本で、米国は、まっすぐのまんま重心位置を変えましょう、重心を手前(ヒール側)とヘッド後方に持ってきたのがドローバイアス。
①重心を手前に持ってくるとヘッドの返りが良くなる。②重心をヘッド後方に持っていくと重心角が大きくなり、こちらもヘッドの返りが良くなる

長谷部 そうですね。

GD でも、日本のメーカーは、フェースをかぶせて、フックフェースによって球をつかまえるという考えがまだ残ってたために、開発の方向性が変わってしまった。結局は、米国の路線の、構えたときに雰囲気のよさに流れた。だから今、日本は一生懸命、オープンフェースのほうに持っていこうとしている。重心を手前に持ってきて、ドローバイアスにしようと…。

長谷部 スリクソンにしてもミズノにしても、どちらかというと米国にちょっと目が向いているメーカーは少し頑張ってオープンしている。国内に目が向いているメーカーはまだやっぱ左を向いているし、ゼクシオなど、日本人ゴルファーに使わせたいと思っているクラブは、中身は変わっているけど、フェースを左に向けてつかまえようとさせている。見た目の安心感、そこは外さないようにしていますよね。

画像: 日本ブランドも「トウを逃がす」ことでフェースがかぶって見えないようモデルが増えている。写真のクラブは『ミズノST-X』

日本ブランドも「トウを逃がす」ことでフェースがかぶって見えないようモデルが増えている。写真のクラブは『ミズノST-X』

GD 2008年の高反発規制のときから、少しずつ米国と日本の考え方の違いが起きて、結果的には米国のほうが結果出したわけじゃないですか。日本はちょっと遅れたため市場を見ると、外ブラ人気の日本劣性みたいな感じに見えるんですけどね。

長谷部 スマホと一緒って言ったら変かもしれないけど、完全に日本のメーカーが駆逐されています。「iPhone一強」とはちょっと違うんだけど、根本的な物づくりの歴史を持っていたり、ノウハウを持ち過ぎている日本のメーカーが、ジャンプアップする機会を逃しちゃって、そうこうしているうちに毎年のようにじりじりとシェアを落とすから、ますますチャレンジができなくて、担当者はキープコンセプトしかできない状態に追い込まれているのかなって思う。

GD 何が起こっているの? って感じがします。

長谷部 例えばとあるメーカーのフェーステクノロジーも別に今回のモデルは初めてじゃなくて、前のモデルからやっていたんだよって話は聞いたのですが、だとしたらあのフェース設計を最大限生かすヘッド機能ってゼロから考えたらよかったんじゃないのって思う。形状はそのまんま。重心位置を変えられるという機能もそのまんまで、ブラッシュアップされているのかもしれないけど、手直しにしか見えない。そういうところがモデルごとに「ゼロベースで考えて作りました」みたいなことをやっているテーラーメイドやキャロウェイとの発想力の差がそこにあると思う。

GD やっぱゼロベースからやっている?

長谷部 やっているでしょ、あそこは……。こういう重心設計をするためには、ベースとなるモデリングがあったとしても、素材と構造の組み合わせはゼロから考えているからね。 テーラーメイドは慣性モーメントの大きいヘッドを作ろうってことになったら、まず形状だよねってことになって、ヘッドを後方にストレッチさせた。カーボンの比率を高めれば、もっと余剰重量が出せるから、それを後ろに引っ張っていっちゃえばいいやって考えたのでしょう。ストレッチさせただけでは多分足んなかったんでしょうね、少し丸いアンパンみたいな形になっているのは、そのためでしょう。

GD 「Qi10」もキャロウェイと同じようなストレッチ形状になってきた?

長谷部 キャロウェイは元々カーボンのウッドを作っていた会社だからノウハウもあるし、いち早く一体成型のカーボンボディも2011年のときランボルギーニとコラボしてやった経験があります。

GD 『レイザー』でしょ。

長谷部 そう、あそこからもう走っているから、余剰重量の取り方はうまいですよ。中国ベンダーも技術力を高めて、彼らも品質要求にこたえられるよう成長してきているから、日本のメーカーもそれを使えないわけじゃないんだろうけど、こういうものを作りなさいって言ってくるメーカーと、こういうのが作れるけど、あなたたちどういう発想をします? っていうところから考えるメーカーとでは、ちょっとレベルが違うんじゃないかな。

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