「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか? その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられていたんですね……。

国産メーカーはどこに向かうのか

GD なんか、そういうふうに聞いてしまうと、日本のメーカー大丈夫?って思ってしまう。

長谷部 日本のメーカーがこの先どうなっていくかは予想でしかないんだけど、もう「地クラブ的なカスタム」しか残んないんじゃないの? って思うんですよ。なぜかと言うと、採算とか利益とかを求められるようなビジネスモデルをここ10数年期待されていると思うんだけど、ゴルフクラブって当たり外れが大きいんですよ。だから、量販店で売るためには事前に仕込まなきゃいけないし、相当な在庫を持って勝負する。ここのチャレンジの仕方って、担当者からしたら結構厳しい。

GD リスキーってこと?

長谷部 当たったときに物が足りない。そうなると、そもそもの開発投資ができない企業と、全世界を相手にしてある程度の数が見込めているから開発投資できる企業ではやれる範疇が違ってくる。外ブラの方が絶対的な本数が多く、桁が1つ2つ違ってきます。

GD そんな、違う?

長谷部 米国国内でも日本の倍ぐらいの市場があるわけだし、ヨーロッパもあって……。中国はゴルフがそんなに盛んじゃないと言いながらも、ある一定の需要があります。外ブラは需要が高いところの販路を持って攻め込んでいるから、初回のロット数が全然違う。開発投資の損益分岐点があるとしたら、圧倒的に外ブラのほうが低いよね。

GD ハードルが低い? 日本は高い?

長谷部 限られた本数でその採算を取ろうとすると、どうしても高く値段を設定しなきゃいけないとか、どこかでコストダウンしなきゃいけないっていうのが始まってくる。

GD でも、当たるかわからない……。

長谷部 こればっかりは、どの日本のメーカーも今のやり方を考えると難しいよね。テストマーケティングがあって、その中から、じゃ、これを選んでやっていこうみたいな悠長なことは言っていられないのが、今の競争の原理になっています。自分たちの戦う土俵をちゃんと作れば、違ったビジネスモデルだってできると思うんですが、今はどうしても量販店とかネットのビジネスとかに乗っかって売ることが主流になっています。

GD ちょっと前までクラブの寿命を長くする考えがあったように思います。1年じゃなくて2年。できれば2年を3年に寿命を延ばせられないものかと。

長谷部 ゴルファーへの売り方とかをもう少し考えたほうが本当はいいんでしょうけど諦めちゃう。1回打ってダメだと思われたら売れない。でも、すべてのメーカーの商品を全ゴルファーが打っているわけじゃないし、知らない人もたくさんいるし、たまたま出合いがなかっただけのこと。要するに自分たちの製品をどう伝えるのか、見せるのかをそのようにしつこく考える人がなかなかいないから。

GD 外ブラ有利に事が進んでいるのは量販店の……

長谷部 バイングパワーでしょう。最初は安売り競争だったかもしれないけど、そのうち安売りじゃない商品が出てきても買うようになった。ここ10年ぐらいの外ブラの値段の上げ方が大胆で、あれ? いつの間にか日本ブランドの商品より高い値段で出しているぞっていうのに、そこのチャレンジにも勝たれてしまった。そこが分岐点だったのかもしれない。プレミアムプライスは日本のメーカーで、誰もが買えるのが、テーラー、キャロウェイだったのに。

GD 米国でのドライバー価格はずっと「399ドル」でしたが、それが499になり、599になって…。

長谷部 為替とか何だとかで、日本に入ってくるときは「1.5倍ぐらい」になるから、8万、9万円になります。株主がコロコロ変わったりするぐらいビジネスは厳しい中で、それでも毎年利益を生み出すための開発力がちゃんとついている。

GD 日本のそういったプレミアムプライスの商品を牽引してた日本のプロゴルファーの石川遼、松山英樹以来スターが現れなくて、ツアーも盛り上がってない。みんなPGAツアーを見るようになって、すべてが外ブラ有利な状態に働いている。

長谷部 日本はもうそれができなくなったから、残るのは小うるさいゴルファーのために、ちょっと違うメリットのある地クラブやカスタムクラブぐらいしかないのかな? と思う。

GD 今、工房系も動きが悪いって聞きますが…。

長谷部 工房に行く人は減っているでしょうね。都心部だとちょっと富裕層が行くサロンみたいになっていて、「明日ゴルフだからちょっと直してよ」みたいな人たちが集まるような昔風の工房は地方に行かないとなくなっています。「俺、あいつと同じクラブ嫌だからなんか作ってよ」っていうようなビジネスだったんですけど、この間、地方の工房に言って聞いてみたら、ドライバーは買わない。その工房にくるゴルファーにも外ブラが入ってきていると…。

GD 「ピン」の影響があるように思えますね。

長谷部 ピンは選択肢が広いですからね…。それに、ピンは『G400』で抜けた感じがあります。

GD 『G400』の前はいろいろやっていた。重いヘッドとか、空力とか。慣性モーメントに関しては、まだゴルファーが注目するずっと前からやっていたと思う。『G400』から最新の『G430』までそんなブレてないように見えます。

長谷部 ピンはあまりブレてないと思う。あと1つは日本で組み立てているのが大きい。

GD 見学させてもらったことありますよ。

長谷部 販売店への啓蒙もちゃんとやっている。二木ゴルフなどの販売店さんもよく知っているし、 そういうことをセールスポイントとして言っているんじゃないですかね。

GD 他の外ブラも日本国内で組み立てているんじゃないですか?

長谷部 カスタムは日本でやっているけど、 けっこう中国製だったりするのも多いし、やっぱりその辺の組み立ての仕方も、ピン独自の考え方で、あまり鉛を入れないようにするとかね。そういうのをなんとなくみんな知っているとしたら、そういう安心感もあるはず。もちろん、渋野日向子が全英女子オープンに勝ったとか、そういうインパクトのある出来事もあったんだろうけど。

GD でも、打ってよくなかったら、そこに人は定着しないわけですよ。

長谷部 クラブの雰囲気がいい。その物語がいい。打ってみたら、まあいいじゃんってね。『G400』で下地が出てきたところに、渋野日向子が『G410』を使って…。それがいまだに続いていて、「なんか、ピンっていいらしいね」っていうのが、どんどん口コミで、仲間の中に広がれば、「次はピン試してみようかな」って、みんななるんですよ。

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