「SDGs(持続可能な開発目標)」という言葉が世の中に出て約10年。ずいぶん浸透してきた印象がある。「週刊ゴルフダイジェスト」2024年6月25日号では、このSDGsの「17の国際目標」に関して、ゴルフ場での取り組みを、東松山CC、大箱根CCの2コースのグリーンキーパーたちに話をきいた。「みんゴル」では2回に分けて紹介する。第1回は東松山CCの取り組みだ。

画像: 「人材育成が一番大事です」と東松山CC管理部・黒坂光男氏(左)。右はグリーンキーパーの南健雄氏

「人材育成が一番大事です」と東松山CC管理部・黒坂光男氏(左)。右はグリーンキーパーの南健雄氏

「捨てるものを再利用する。持続可能なコースにしたい」(東松山CC・南健雄さん)

「コンポスト」とは、生ごみや落ち葉などの有機物を微生物の働きを活用して発酵・分解し、たい肥を作ることをいう。ゴルフ場から出る緑化廃棄物をリサイクルし、有機肥料として再利用していく循環型のたい肥利用だ。

「本格的には約3年前から、テスト的にはもう少し前からやっていました」と語るのは、東松山CCのコース管理責任者、グリーンキーパーの南健雄氏だ。

「9~10月くらいから粉砕が始まり、その後小さくなったものを何回か混ぜていき、実際に使えるのはそれから約半年後。少し寝かせて分解が始まったところをコースにまくんです」

取り組んだ1つのきっかけは、埼玉県ではゴルフ場でもゴミ処理で焼却炉を使ってはいけないという規制ができたこと。

「すると芝カス、樹木の伐採物や枝葉などをすべて外に廃棄物として出すしかない。結構な費用がかかります。また、肥料なども特にここ1、2年で値上がりしていて、以前の倍くらいするモノも。これらの問題をどう処理するかを合わせて考え、コンポストという形で一度処理してフェアウェイやラフに戻しています。SDGsということにも貢献できるのかなと」

もう1つ、コースも含めた近隣の土壌の問題があるという。

「全体的に粘土層と砂岩で構成されているんです。ここから1、2キロ離れたところに瓦窯跡があるように瓦に使うには良質な粘土なんですけど、加湿や乾燥には非常に弱い土地なんです。ですから土壌改良という意味合いでもコンポスト、たい肥を主体としたメンテナンスというところに主眼を置いていきたいと考えています」

ずいぶんと土壌はよくなった。

「散水設備を集中的に直したことと、土壌改良で乾燥障害や加湿障害を緩和できている。水の不足に関しては、土壌の緩衝能力を付けることで対応できると思います。ただ、結果が出るには10年近くかかります。そしてゴルフ場は、ラージパッチなどの病害がすごく発生する。昔はコースに砂をまくのは当たり前でしたが、分解にすごく時間がかかり自然ではないと県からも指摘を受けて、少しずつ考え方は変わっていきました」

「コンポストは大型トラック40~ 50台ぶんにもなります」

画像: 「捨てるものを再利用する。持続可能なコースにしたい」東松山CCが取り組むSDGsとは【環境と人にやさしいコース・東松山CC編】

“戦車のような”大きな粉砕機で粉砕して作ったコンポストを従業員駐車場の脇に寝かせる。「量は500~600リューベくらいになる。600だと大型10トン車に40 ~ 50台ぶんくらいになります」

当然、作業の手間は増える。肥料をまいたほうが早くラクに結果を出せる。

「コンポストは最低5年くらい、いや10年は続けて結果を出すことが大切です。肥料費もですが、ラージパッチはすごく殺菌剤の費用がかかり、それも半分くらいに削減されつつあり、かなりのコスト削減になっています。もちろんコンポストの費用と手間を考えて現状は相殺という感じになってしまいますが、長いスパンで考える必要があります」

まさにSDGsにつながる取り組みだ。

「直接的には15番(SDGsの目標/陸の豊かさも守ろう)がゴルフ場には身近な取り組みでしょう。肥料の使用量に関しても、もちろん考えないといけませんが、SDGsの原点は、持続可能な開発ということ。ゴルフ場の場合はもうそこにあるものですから、ここから先のことを考えると、そこから排出される、捨てられるものをゴルフ場のなかで再利用できないかということも必要ですよね」

コース管理全体で考え方や感覚を共有

メンバーの理解もしっかり得ている。「すごく評価をいただいています。コンポストをまいた瞬間は、フェアウェイやラフが黒っぽくなるんですけど、このへんもメンバーの方全体の理解もいただき、本当にありがたいです」。

一般の企業や人々にも「SDGs」は浸透してきているのだろう。

一番の苦労は人材育成だと南氏。

「とても大事。共通の考え方や感覚を持ってほしい。今までのルーティンが1つでも変わるとすごく大変に感じるもの。コース管理全体に将来的なこと、5年、10年先のことも説明して理解してもらうのがいいと思っています」

ゴルフ場が環境破壊だと言われてきた時代がある。

「松枯れや楢枯れの問題もあり、これらの樹木は比較的管理されたところしか残っていかないような環境もある。ゴルフ場がキープしていると考えます」

「今、自然が破壊されていって、逆にゴルフ場にしか生息していない動植物なんかもあります。コースを守ることで環境を持続していく発想も大切です」と管理部の黒坂光男氏。“共通の考え”は浸透しているようだ。

画像: 右から黒坂さん、南さん

右から黒坂さん、南さん

美しく整備されたコースの前で。温暖化で“夏越し”には苦労が大きい。「昔は夏グリーン(高麗)と冬グリーン(ベント)のコースも多かった。今、そこに回帰しているのかもしれません」

35年間、ずっとこの仕事を“持続”してきた南氏が「管理の仕事のやりがいは“夏越し”です。毎年夏って違いますから」と言えば、黒坂氏も「この仕事の50%以上はそれを考えているかもしれません。前年の冬くらいから、です」と話す。管理課はパートを含めて22人。思いの共有と理解が、持続可能なコースをつくる。

PHOTO/ Yasuo Masuda

※週刊ゴルフダイジェスト 2024年6月25日号「環境にも人にもやさしいコース」より一部抜粋

私たちにもできる持続可能なコース作り

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