「SDGs(持続可能な開発目標)」という言葉が世の中に出て約10年。ずいぶん浸透してきた印象がある。「週刊ゴルフダイジェスト」2024年6月25日号では、このSDGsの「17の国際目標」に関して、ゴルフ場での取り組みを、東松山CC、大箱根CCの2コースのグリーンキーパーたちに話をきいた。「みんゴル」では2回に分けて紹介する。第2回は大箱根CCの取り組みだ。

「何かを減らすだけではなく、皆が幸せに生きていけるといい」(大箱根CC・崎山朋己さん)

今年70周年を迎える大箱根CC。早くからサスティナブル活動に取り組んできた。

05年からコース管理責任者を務める崎山朋己氏は、「15年にSDGsが国連で採択され、16年にはR&Aによってゴルフ界全体がSDGsを推進するため『経済的に健全で社会責任のある管理方法により、自然環境の保護と調和させながら、ゴルフコースのプレー環境の質を最大限に高めることである』と定義されました。当コースでもこれらに貢献できる方法を考え実践してきました。また、西武グループのビジョンのなかに、『常に、自然環境、地球環境への配慮を忘れません』と明記されており、コース管理においても一人一人が環境保護のためにできることを考え日々行っています」。

具体的な取り組みは下の一覧通りだが、徐々に始め、“継続”していること自体が、一番の活動だ。

コース管理におけるSDGs の取り組み
「コスト削減しても質は上げられます」(崎山さん)

①コースの地形と土質に合った管理
土壌と芝の潜在している養分を分析し、不足している肥料成分のみを与えることにより、無駄のない肥培管理を可能に。結果、コンディションの波ができにくく、病害の発生も少なくなるため、農薬の削減につながる。土地環境や太陽光の入射角や地表面の向き、方向を見て肥料の散布量を調整し、コンディションのムラをなくす。

②適切な芝種の選定
肥料、農薬を最小限の投下量で望ましいコンディションを作れるかと考えた場合、年間の平均気温が12~14度の大箱根では寒地型芝生と暖地型芝生の境界地帯となるが、近年の温暖化傾向から判断すれば病害などに強い暖地型芝生を選択したほうが、資材のインプットを大きく減らせる。そのためにティーインググラウンドの草種変換工事(寒地型→ 暖地型)を実施。暖地型は水の要求量も少ないため、水質源の保全、散水作業における労働力削減や節電にもつながる。

③メンテナンスエリアの見直し
ボールがいかないオーバーラフまで管理せず、プレー区域内を集中的に管理する。管理面積を削減することで、水、肥料、農薬、砂、メンテナンスに必要な燃料、電力などあらゆるインプットを減少させることが可能に。インプットを毎年測定・検証し、毎年最小かつ適切なものにするよう努める。これは、プレーヤーと経営側両方を満足させる方法だと考えている。

④生物多様性に配慮したメンテナンス
コース内には多くの動植物が生息しており、それらへの影響を最小限にしたメンテナンスを行う。毒性の低い農薬を使用し、化学肥料から有機質肥料への転換。管理機械による騒音にも配慮。裸地をなくし緑化を推進。必ずしも芝ではなくてもよく、緑化することによりCO2の吸収量を増やし、豪雨時における土砂流出を防止することができる。

SDGsというと、抽象的で言葉が先行しがち。いかに、現実に落とし込むか。「皆さん単純に環境保全などを思い浮かべると思います。それも大切ですけど一部であって、人が働きやすい、暮らしやすいということも含まれます。スタッフの数も予算も減り、求められることは増え負担も大きくなり、この業種自体が持続可能ではなくなっている。職場環境もよくして、若い人にも働いてほしいので、もっと魅力的な仕事にしないと」。

予算がないからコースが汚くなるというネガティブな発想はしない。たとえば管理面積の見直しにより、資材の投下量が減ると同時に刈込作業などが減って労務環境はよくなる。「実際、コスト削減できたぶんで、グリーンやティーイングエリア、フェアウェイなどプレーに重要なエリアを集中的に作業し、質を上げることもできます」。

「70年をリスタートにしたい」

画像: マーカーやヤード杭は手作りしたそう

マーカーやヤード杭は手作りしたそう

廃材を利用したマーカー。ヤード杭は、キャディとコース管理の皆で手作りした。70周年記念コンペの参加賞のためタンブラーも作る予定だ。「名刺やコースに置くベンチも作ろうかと考えています」

ティーイングエリアの芝はすべて日本芝(高麗芝)に張り替えた。

「洋芝は日本芝に比べて病気に侵されやすく夏場の水の要求量も高い。草種転換によって農薬の種類も量も抑えられて水の使用量も減る。するとポンプを回す電気代も減る。また、殺菌剤も殺虫剤も除草剤も“作用性”を考えながらローテーションさせていく。少し意識するだけで変わります。防除をよいタイミングで行うことも大事。使用が最小限で済む。これには“感性”も必要です。花が咲く、虫の出るタイミング、鳥の動きなどでその年の気候の傾向もわかる。通勤途中などでも周囲を見ながら感じていくほうがいいんです」

日々、コストや成果などのデータも管理し、次につなげている。

「見直すことは必要です。資材の値段が高騰しているので、計画とはズレる。だから余計やらないといけない。今後の目標としては、グリーン面積の見直し、AIを使ったコースメンテナンスを実現させ、さらにコスト削減と働き方改革を進めていきたいですね」

以前ゴルフ場は、環境破壊のイメージがあった。「農薬による水質汚染などが言われたこともありますが、調べると国内で使われる農薬のゴルフ場に占める割合は全体の3%ほど。野菜や米などの食物に多く使われている。それに農薬は散布した後、時間とともに必ず土の中で分解される。情報としてきちんと認知されていないんです」。

画像: レギュラーツアー「CATレディス」の会場でもある

レギュラーツアー「CATレディス」の会場でもある

CATレディスを8月に開催。「最近箱根も30度を超えますし、ベントグラスが一番くたびれる時期にピークに持っていくのはすごく難しい」と自負も述べつつ、「業界全体でトーナメント開催スケジュールを気候変動も見ながら考えるのもサスティナビリティ活動につながるのかもしれません」

携帯1つで何でも調べられる時代。コース管理者も自分で勉強すべきだと思っている。「私もわか
らないことがまだたくさんある。いろいろなコースを見て感じることも大切だと思います」。

オフシーズンはアメリカに渡り展示会や各コースを視察する。

「日本はグリーンキーパーやコース管理の認知度が非常に低い。アメリカだとキーパーがクラブの代表であることもあります。今年はアリゾナのグレイホークGCに行き、管理棟や構築物、芝、メンテナンス、コースを案内してもらいました。コスト、労務管理、水の使用量、使用機械など一元管理のシステムを使っていて、すごく合理的です。一方、教育はきちんとしていて移民のコース管理スタッフに対しても積極的。何より、ゴルフ場が生活の一部で地域に上手く溶け込んでいます。これは我々の課題でもあります」

地域社会ともっと連携し、教育や福祉、文化面などにまで及ぶ事業の展開を考えていきたい。

「近隣の子どもたちを呼んで、ゴルフ体験の機会も作りたい。将来ゴルフ場で働きたいなあと思う子も増えてほしい。地域社会におけるゴルフ場の在り方のモデルケースとなればいいと思います」

画像: 崎山朋己さん

崎山朋己さん

コースメンテナンスは常に高評価だ。「キーパーの仕事は設計家の意思や意図をしっかり理解してメンテナンスすることです。オーガスタに行ったとき、管理棟にお邪魔しようとして怒られました。メンテナンスを聞いたけど教えてくれないんです(笑)」

現在、夏場に宿泊客中心にフェアウェイでヨガ体験を行ったり、練習場で星空観察会なども行っている。最近、間伐材でボールマーカ―やヤーデージ杭も作った。

「ただ捨てるのではなく、センスよく使いたいですよね。70年を、80年、100年へ向けてのリスタートにしたい。メンテナンスも時代に合わせることが大事です」

ただ闇雲に手間をかけることがいいのではないと崎山氏。

「知識は必要ですが、変に偏ると自己満足の世界にもなる。欧米には、周りの景色と溶け込んでいる美しいコースも多い。落ち葉をすぐに飛ばして綺麗にするのではなく、それが彩りになったり動物の棲みかになっているんです」

コースにも、あるがままの精神があってもいい。「イギリスなんか、プレーヤーがコース内を散歩している人を優先したり、散歩する人も飛球には気をつけて、犬を連れていてもグリーンに乗らない躾はしていたり。何かを減らすだけではなく、皆が楽しく生きていければいい。究極のSDGsです」。

SDGsの重要性を理解し、目標を持つことで、皆の行動の変化が起きてきたという。「環境だけでなく社会問題への意識が高くなってきた。個々の行動が集まることにより大きな力となり社会全体を動かせるような夢や希望を持つことができます」環境にも人にもやさしいコースは、一人一人の思いからできる。

PHOTO/ Yasuo Masuda

※週刊ゴルフダイジェスト2024年6月25日号「環境にも人にもやさしいコース」より一部抜粋

私たちにもできる持続可能なコース作り

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