「長谷部祐とギア問答!」は、国内外大手3メーカーで、誰もが知る有名クラブの企画開発を20年超やってきたスペシャリストの長谷部祐氏に、クラブに関する疑問を投げかけ、今何が起こっているのか? その真相を根掘り葉掘り聞き出すものです。クラブ開発の裏側では、こんなことが考えられていたんですね……。

打った感覚が大事。ひとつのメーカーに偏るのも危険

GD クラブ選びの判断基準に、最近ではYouTube動画とか、SNSによる評判とか、メーカーの広告等に影響を受けていると思います。なんとなく他力的な部分が先行しているように感じます。はたしてそれで「本当にいい道具」に巡り合えるのか? を今日のテーマにしたいと思います。

長谷部 はい。わかりました。クラブ選びの判断基準については、昨今のアメリカメーカーを中心としたパワーマーケティングによって、どこどこから新製品が出ますよという情報が流れると、世の中はザワザワする傾向があります。それはそれで悪いことではないんですけど、自分は「なんとか派だから」、「なんとかマニアだから」みたいな感じで、メーカーを絞って決めるのはどうなのか? って思うことはあります。

それはメーカーの戦略の中でモデルチェンジをすることが多く、また毎年、万人に合うものばかりを作っているわけではないので、そこがひとつ危険かなと思います。あとその人に合うスペックというのはある程度限られているので、見た目も含めたフィーリングはとても大事。メーカーやブランドは、その後でいいんじゃないかと思います。

打った感じ、見た目の感じ、デザインも含めた感性的な部分を重視するのか、それともスペックを重視するのか、この2つのどちらを重視するかは、どちらでもいいと思います。でも、両方を並列で見たほうがよく、私の場合で言えば感性派なので、見た目、デザイン、持ったときのフィーリングでよければ打ってみて、後から「ああ、スペックはこうだったんだ」っていうような確認をしたり、測ったりすることが多いですね。

それはなぜかと言うと、プロゴルファーと仕事をしていた時に、プロがいいよって言ってくれたものを測り直した時に、あれ? って思うようなスペックだったりすることがよくありました。でもそれが正解であり、いい結果が出ているので、それを正とする。そういう感覚が染みついたのかなと思います。

GD 感性派に対してスペック派がいるとすると、多くのアマチュアは自分の感性に自信がないこともあると思います。多くのクラブの中から探し当てるとなると、1つの基準、目安として、自分に合いそうなスペックの範囲内から探したほうが絞り込みやすいように思います。打ってみたらやっぱりそうだ、合っていた、いや、ちょっとズレていた……。

アマチュアは後からの答え合わせよりも、ある程度答えを絞った中から正解を見つけていったほうがいいような気がします。

長谷部 そうですね。それもしかりですし、実際に測定されるボールの飛び姿とか初期条件を測定できる環境になっているので、スペックに判断基準を持っていくっていうのは、間違わない選択ができると思います。

ただひとつ言えるのは、とはいえ趣味の領域のもの、完全なスポーツというよりは娯楽性の高いゴルフを考えた時に、見た目が好きじゃないけど、結果がいいからそれを使うのかってことです。打った時の音とかフィーリングが気に入らないから長く使い続けられないってこともあったりするので、スペックが合っているから、打った結果が良かったからといって、長く使えるクラブにはならないこともある。

GD 「このクラブやめられないんだよね」って愛着が高まるのは相当自分のゴルフにいい結果をもたらして信頼が得られなければ、キャディバックの中にずっといることはないと思う。何か嫌なポイント、色が嫌だとか、見た目がやだって言ったら、多分すぐキャディバックから出ていっちゃうと思う。

このメーカーのファンとか、マニアというのが昔はたくさんいて、メーカーを下支えしていた時代がありました。でもある時から、(マニアとかファンが) 「意外といないんですよ」ってことをメーカーから言われたことがあるんですけど、ユーザー側も変化したということがあるんですかね?

長谷部 ある一定の品質基準、どのメーカーもレベルアップしているので、そこに対する心配、不安がなくなっているので、どこのメーカーも安心して選べるよねっていうのが根底にあると思います。あとは先ほど言ったように、メーカーもその年その年で性能が変わったりすることがあるので、自分に合わないクラブが出てきた時に冷静になって考えるようになった。

結果的には試打してダメだった、もしくは買ってダメだった、そういったことが重なれば、そのメーカーのファンで居続けることもなくなると思うので、常に自分中心に判断するようになるのかなと思います。

GD メーカーのファン化で言ったら、一番の成功は「ゼクシオ」だと思います。ゼクシオを使っていれば間違いない。でも結局これって、フィーリングだったり、スペックだったり、「ダンロップ」は裏側の部分で非常にこだわっていたわけですよね。

そこに他のメーカーが追いついてきたことによって、”ゼクシオの牙城”が崩れつつあるような気がします。ファン化が崩壊しているのか、それともクラブの全体的な性能が上がってきているのか、両面から見なきゃいけないと思う。

長谷部 「ゼクシオ」が生まれたタイミングから考えるともう20数年経っていて、当時ゼクシオを使っていた人たちも高齢化しているので、一概に強豪メーカーの台頭っていうことだけでは語られない部分もあると思うんですけど、ただ「タンロップ」がやり続けたことはやっぱり素晴らしくて、ゼクシオユーザーをしっかり見つめながら物作りをしてきた結果がこのスペックですっていう回答の仕方をしていたので、そこに対する信頼感、ブランドの構築としては成功したのでしょう。

GD 全体的にメーカーは、「ゼクシオ」がやってきたことと同じ方向に向かおうとしているような気がするんですけど、うまくいってないような気もする。

長谷部 そうですね。コアのファンとか、ロイヤルカスタマーを大切にしようとして、そこに向けたものづくりをしているメーカーが増えていると思います。

ただ、その結果、 元々広いターゲットにしていなければ、どんどんターゲットが狭くなる結果にもなりうるし、簡単にブランドスイッチができるような環境の中で、買ってもすぐに売って中古でリセールバリューがついてしまうことを考えると、お試し買いの方も増えつつあるので、ロイヤルカスタマーをどう囲い込んでいくかは非常に難しくなっています。

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